入退院支援加算に着目した病院構造改革(4)
~2025年問題、その先の2040年問題に備えた病院構造改革~

医療セミナーについて(2019年1月開催分)【後記】(第5回)
2019年8月

執筆者:株式会社アイ・ピー・エム
    代表取締役 田中 幸三(たなか こうぞう)氏

はじめに

今回は、株式会社ベネットワンの代表取締役 米山 正行 氏による【入退院支援加算に着目した病院構造改革】の講演後期の最終回として、院内体制構築とこれまでのまとめについて記述したい。

【目次】

  1. 医療の現状
  2. 入退院支援概要
  3. PFM理論の活用
  4. 入退院支援システム構築に向けた目的(効果)設定
  5. 院内体制構築について
  6. まとめ

5.院内体制構築について

5-1.施設基準

基準人数は以下のようになっているが、実際に動かすとなるとその他に医師事務作業補助者(クラーク)などの確保が必要になる。

また、人員数に関しては、どの程度から始めるかで決まる。どのような形でスタートするか、どのような計画をもって体制構築するかが重要である。

【施設基準】

(1)入退院支援加算1.2又は3の施設基準で求める人員に加え、十分な経験を有する以下の人材が配置されていること

≪許可病床数200床以上≫

  • 専従の看護師が1名以上 または
  • 専従の看護師及び専任の社会福祉士が1名以上

≪許可病床数200床未満≫

  • 専任の看護師が1名以上

(2)地域連携を行うにつき十分な体制が整備されていること。

5-2.体制構築に向けてのポイント

  • (1)小体制からのスタート
    小体制からのスタートというのは、小さい組織という意味もあるが、適応とする患者を限定することが重要である。
    「慣れてきた」「もう少しこなせるようになった」などの状況をみながら適応者を増やしていくといった手法が良いと言われている。
  • (2)人的リソース(人的資源)
    施設基準に「十分な経験を有すること」とあるように、そのような人材がいるのか、その他にサポートをする医師事務作業補助者(クラーク)がどれだけ資源としているか?といったところもポイントのひとつである。
  • (3)業務分担
    業務を平滑化すること、それを理解してもらうことも重要なポイントである。参加意欲の低い医師などには、これらを行うことによって業務負担軽減につながる、業務分担がある、と認識してもらうことができれば積極的に参加してもらえるといった話もある。
  • (4)意識改革
    「入退院支援システムを病院として構築しよう」という病院内の意識改革が体制構築に向けても重要であり、入退院支援システムはある一部署だけでは良いシステム構築はできない。
    意識改革は、重要な業務改善である。

5-3.その他準備・確認事項

体制構築に向けた考え方、人的問題の次に確認することについてはこの二つだと思われる。

  • (1)クリティカルパス稼働数と稼働率
  • (2)文書関連、(情報共有に向けた)情報システム構築状況

PFMの最小単位は、前々回のコラムにて紹介したが「入院から退院までの治療とケアを計画した「クリティカルパス(以下、パスとする)」である。

病院で稼働しているパス数とパスの稼働率を確認することも必要である。入退院支援システム構築に際しては、パスを使って入退院支援構築することが一番の早道だと言われている。

前項(5-2)でも記述したが、小体制で言えば、パスの利用率が高い診療科からスタートするといったことも検討の範囲に入れても良い。

パスの使用率が低く、今後、パスを活用していきたいと考えている施設であれば、入退院支援システムを契機に、パス構築をすることも有効ではないだろうか。

パスは、医療の質向上やコスト削減といったところにも寄与すると思われる。是非、現状の確認と今後のパスの使い方をご検討いただきたい。

また、文書・情報システムの構築状況については、スクリーニングした情報を確実に共有できる状況を作る。例えば共通のフォーマットを作成するなどのことを確認していただきたい。

6.まとめ

6-1.入退院支援システム構築(1)

入退院支援構築のキーワードとしては、PFMの理解であると考える。
ただ入院から退院、その先の生活を考えるだけではなく、「ヒト・モノ・カネ」といったマネージメントも一緒に考えることによって、もっと多くの患者サービスや医療経営といったところにも寄与する。

6-2.入退院支援システム構築(2)

情報共有の部分では病院内情報共有、地域介護施設との情報共有が重要になる。
これはまさに、地域包括ケアシステム構築にも繋がり、病院にとっては患者サービスや経営的なメリットにも繋がると考える。

6-3.入退院支援システム構築(3)

入退院支援システム構築による効果としては、以下が考えられ、これらを総合的に捉えて構築することが、ひとつの部門として作る目的やメリットとなる。

  • 患者満足度向上
  • 業務の標準化
  • 医師・看護師の負担軽減
  • 労働生産性向上
  • 在院日数の適正化
  • 病床稼働の適正化
  • 病院収益増収

6-4.入退院支援システムを構築することは・・・

2025年問題や、その先の2040年問題など、日本は急速に超高齢化社会に突入していく。

医療の必要性は変わらない状況ではあるが、医療経営といったところでは地域ニーズに注目し、その地域に合った医療提供を行うことが重要となる。

また、労働人口も減少する中で、職員の確保も益々難しい状況となるであろう。

今後の医療状況を考えて入退院支援システムを構築することは、それらの問題解決・対策として有効である。

入退院支援システムの構築は大きな病院構造改革に繋がり、その先には患者サービスや医療の標準化、人的リソースの有効活用、業務改善、病院経営の健全化など、多くの効果へ繋がると考える。

6-5.今やるべきことは

入退院支援システムの構築は、入院から早期退院への流れを構築することだけではなく、病院構造改革、地域医療構想、病院経営といった大きなことを作り出す可能性のあるツールである。

地域医療構想、PFMの活用、業務改善、病院経営といった病院全体で意識を合わせ、協力をして入退院支援システムの構築をすることが重要だと考える。

~了~

少しでも皆様のお役にたてれば幸いである。

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