病院版の全国統一模擬試験があったとしたら…
GHC優良病院経営レシピ[第2回]
2013年12月

執筆者:株式会社グローバルヘルスコンサルティング・ジャパン(GHC)
    代表 渡辺さちこ(わたなべ さちこ)氏

病院経営戦略の武器として

もし、病院版の全国統一模擬試験があったとしたら、あなたの病院は何番くらいでしょうか。

「比較する」ことは、自分の状況を知るうえでは有効な手段のひとつです。

ところが医療業界では、つい10年ほど前まで、病院同士の医療を比較することはあまり行われておらず、そもそも各病院の比較をするための情報自体があまりありませんでした。

しかし、2003年に医療にDPC制度(注)が導入されたことにより、従来では難しかった、自病院の医療や経営状況、そして地域の病院や全国の同規模の病院と「医療」を比較することができるようになりました。DPCデータを使って他病院と比較(ベンチマーク)することは、病院経営における共通のモノサシができたといえるでしょう。これは、使い方によっては大きな武器にもなるのです。

治療標準化の「道しるべ」

DPCデータのベンチマーク分析結果を日本全国の病院から広く収集すれば、自分の病院の医療サービスの位置を様々な角度から確認することができます。

例えば、ある疾患の平均在院日数が10日だった場合、それが長いのか短いのか、またある疾患でいつも使用している薬剤投与が3日間として、それが多いのか少ないのか、適正なのかは、自病院のデータだけでは判断を下すことができません。全国的にデータを収集することによって、全国のスタンダードと比べた自病院の位置を正確に知ることができるのです。

もし、自病院の平均在院日数が平均的な位置よりも長ければ、何か平均よりも余分にやっている診療があるのかもしれません。さらに、治療のために行う検査や使用する薬剤の使い方などを細かく分析していけば、何が過剰で削減すべきかという課題がみえてきます。反対に、やるべき治療行為をやっていなかったなどの問題の抽出にもベンチマークは活用できます。

平均よりも在院日数が短くて、治療結果も良好ならば、その病院は、その疾患の治療について、平均よりも質の高いサービスを提供しているといえるのです。

本来は、「治療法を変更する」という判断をするためには、臨床の「エビデンス(実証的証拠)」を根拠とすることがもっとも望ましいあり方だと思います。ところが、実は、病院は外部からの情報がかなり入りづらい閉鎖された空間であるという一面もあります。

そもそも同じ疾病でも、指導を受けた大学の方針、あるいは指導を受けた教授によって、治療法が異なることは珍しくありません。そして、多忙な医師が、こまめに関連学会におもむき、最新のエビデンスを集め、治療のトレンドに追いついていくことは現実的にかなり難しいのです。

例えば、循環器領域での治療技術は日進月歩ですし、抗がん剤治療の新たな効果も毎年世界の学会を賑わせています。もしそうした最新情報をいち早くキャッチしている医師とそうではない医師とがいた場合、どうでしょう。同じ疾患でもそれぞれの医師によって、治療方法は異なることになるでしょう。

自病院であたり前のように行われている治療が、ベンチマークしてみることによって、標準とは異なっていた、少し古い方法だった、ということもあり得ないことではありません。

このようにベンチマーク分析を活用することで、医師間、病院間の情報格差を解消させていくことができるでしょう。少なくとも「周回遅れ」のような事態は予防でき、可能な限り標準的なサービスを提供するための「道しるべ」とすることができるのです。

DPCデータ分析専用ツールを経営に役立てる

DPC制度導入後、10年が経過し、毎年厚生労働省から発表されるDPCデータなどを活用し、DPCデータ分析専用ツールや分析手法はめざましい発展を遂げました。巷にあふれている病院ランキングなどもこうしたデータを一部活用しているものもあります。

病院ダッシュボード

※©GHC 2013 .
GHCの書面による事前承諾なく複写、引用、または第三者へ配布、閲覧に供してはならない。

図はGHCが自社開発・提供している「病院ダッシュボード」という病院経営にかかわるデータを集め、分析し、病院経営の方向性や戦略立案を行うことができるソフトの一画面です。
こうした分析ツールを活用することによって、地域のなかで自病院がどのような立ち位置で、どのような医療を提供し、競合となる病院はどこなのかなどを容易に把握することができるようになりました。

さらには、どの地域から患者が来て、どのあたりからの患者を集めきれていないのかなども調べることもできます。
こうした分析ツールによって導き出されるデータをもとに、「高単価」「高回転」を維持しながら、問題のある部分にメスを入れていくことが、病院経営をカイゼンしていくためには必要なのです。

あなたの病院では、自病院で提供している医療を他病院と比較し、最良の医療を提供する努力をしていますか。

(注)DPC(診断群分類別包括払い)制度とは
DPCとは従来の診療行為ごとの点数をもとに計算する「出来高払い方式」とは異なり、2003年に導入された入院期間中に治療した病気の中で最も医療資源を投入した一疾患のみに厚生労働省が定めた1日当たりの定額の点数からなる包括評価部分(入院基本料、検査、投薬、注射、画像診断等)と、従来どおりの出来高評価部分(手術等)を組み合わせて計算する方式です。1日当たりの定額の点数は、「診断群分類」と呼ばれる区分ごとに、入院期間(I、II、特定入院期間)に応じて、入院期間が長くなるほど点数が下がる設計です。DPC対象病院は現在1,496病院(2013年4月1日現在、厚生労働省発表)あります。

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