いよいよ始まるオンライン資格確認は病院にとって必要か 2021年5月

執筆者:株式会社 Benett One(ベネットワン)
    代表取締役・診療放射線技師
    米山 正行(よねやま まさゆき)氏

2021年3月下旬、いよいよオンライン資格確認が運用開始となるところであったが、先行運用で問題が多発し延期となったという報道(3月25日)があった。これらのトラブルの対応で本格稼働は10月頃の見込みとなった。

また、医療機関の申請率は2月時点で28.5%、3月25日のNHKの情報では3月21日時点で45%と2021年3月目標と掲げた60%には到達していない。(資料1)

スタートからこのような状況となってしまったが、今回は「オンライン資格確認は病院にとって必要か?」と題して、オンライン資格確認事業の背景やメリット、また今後の発展性について考えてみたいと思う。

【資料1】医療機関・薬局におけるオンライン資格確認システムの導入準備状況

【資料1】医療機関・薬局におけるオンライン資格確認システムの導入準備状況

出典:厚生労働省ホームページ 令和3年2月12日 第140回社会保障審議会医療保険部会
資料2「オンライン資格確認等システムの普及状況等について」より

オンライン資格確認概要とメリットとは

オンライン資格確認の概要については運用開始前から厚生労働省やメディア、ネットなど多くの情報が出されている。また今年に入ってから勉強会などで聞いている方も多くいると思われるので厚生労働省より出されている資料を基に簡単に振り返りたい。

オンライン資格確認とはマイナンバーカードもしくは健康保険証の記号番号により、オンラインで資格確認ができるシステムである。(資料2)

そのメリットとして厚生労働省は以下のことを挙げている。

  1. 【返戻削減】資格過誤によるレセプト返戻の作業削減
  2. 【受付業務】保険証の入力・確認の手間の削減
  3. 【事前確認】来院・来院前に事前確認できる一括照会
  4. 【併用確認】限度額適用認定証等の連携
  5. 【情報閲覧】薬剤情報・特定健診情報の閲覧
  6. 【災害時】災害時における薬剤情報・特定健診情報の閲覧

これらのメリットを有効に享受するためには、制度を理解した上で運用の再確認や見直し、それに伴うスタッフの教育やシミュレーションなどが重要になると考える。

各医療機関では、本格稼働が延期となったいま、改めて上記の対応について確認することをお勧めします。

【資料2】オンライン資格確認とは

【資料2】オンライン資格確認とは

出典:厚生労働省ホームページ 令和3年2月
「健康保険証の資格確認がオンラインで可能となります」より

オンライン資格確認の背景

2025年問題を迎えるにあたり、医療費、介護給付費が増大する中、全ての人が安心できる社会保障への改革が進められている。オンライン資格確認の背景には、高齢化・人口減少下でも、質が高く、効率的な・健康・医療・介護サービスを提供するため、オールジャパンでのデータ利活用基盤を構築し、個人の状態にあった最適な健康管理と診療、介護を提供するという目的がある。医療業界でもデータが病院ごとにバラバラにあり、データ連携や相互運用や利活用ができるデジタル化が進んでいない。

今般の新型コロナウイルス感染症拡大への対応でも、保健所・医療機関からの陽性者の報告が当初ファックスで行われていて、一部地域では集計がアナログで行われていたことなど、データをリアルタイムで共有し、活用することが十分にできなかった。そのようなデジタル化の遅れといったところがオンライン資格確認を推進する背景と関係する。

その問題解決に向けてデジタル庁の設置を見据えた「デジタル・ガバメント実行計画」が昨年12月に閣議決定されている。デジタル・ガバメント実行計画の中に「マイナンバーカードの機能強化」として、マイナポータルで閲覧できる情報の順次拡大が謳われている。

健診・検診情報(特定健診、事業主健診、がん検診、学校健診等)、薬剤情報、医療費通知情報等について実現する予定だ。

昨年から続いている新型コロナウイルス感染症拡大により、奇しくも日本のデジタル化への遅れが露呈される結果となり、デジタル化への流れは新型コロナウイルス感染症が追い風となって加速すると考えられる。

このような背景にあるオンライン資格確認は今後急速に整備される事業であることは間違いないと考える。

オンライン資格確認の展望

オンライン資格確認は医療機関としては業務負担軽減というメリットが前面にでていると思われ、それに対して様々な意見を見聞きする。しかし筆者は今後の展望として情報閲覧という部分に注目している。

国はオンライン資格確認をデータヘルス基盤とするといった構想に向かった施策として2021年10月より薬剤情報の閲覧、2022年3月より特定健診情報の閲覧を開始する予定としている。(運用延期により閲覧開始予定は現在不明)

また拡大予定としては「手術・移植・透析・医療機関名」などの情報閲覧、さらに電子処方箋の仕組み構築となっており、今後はデータヘルス基盤として重要なものになると考えている。

また筆者は現在、地域医療ネットワークの利便性向上に向けた事業に関わらせていただいている。その地域医療ネットワークでは検査結果データの共有などの患者情報の共有が加速しており、情報を利用し地域住民に対して医療サービスの向上を図っている。

今後、このような患者情報の連携に伴う医療サービスの提供といった流れはますます活発になるのではないかと考える。

今までもPHR(Personal Health Record)は様々なアプリなどでも提供されてきたが上手く活用されているとは言い難い状況であった。今回はその事業に国が本腰を上げた!といっても過言ではないと思う。

今後の展望としては、医療機関がこのようなシステムを活用し、情報の横展開による医療の質向上や業務効率化などを考えた取り組みが必要になるのではないか。

【資料3】データヘルス集中改革プラン(2年間)の工程

【資料3】データヘルス集中改革プラン(2年間)の工程

出典:厚生労働省ホームページ 令和2年7月30日 第7回 データヘルス改革推進本部
資料1「新たな日常にも対応したデータヘルスの集中改革プランについて」より

マイナンバー交付について

ここまでオンライン資格確認についてメリットや背景、今後の展望についてお話しをしてきた。しかしマイナンバーカードを持っていなければメリットも展望も半減されてしまうのではないかと考える。

ある医療機関の方と話をした際には、「結局マイナンバーカードを持っていなければ意味がない!そもそもそんなに持っている人はいないでしょ。」といったご意見を耳にした。

確かにその通りであると筆者も思う。

国もマイナンバーカードの普及に向けて様々な施策を展開している中で、現在までの交付状況(普及率)は全国で26.3%(資料4)となっている。

【資料4】マイナンバーカード交付状況

【資料4】マイナンバーカード交付状況

出典:総務省ホームページ
「マイナンバーカード交付状況(令和3年3月1日現在)」より

平井デジタル改革担当相は2021年2月の段階で、2022年度末までにほぼ全ての国民への普及を目指しているが、それは厳しいとの発言もあった。

しかし2020年8月から2021年3月まで8カ月間の増加率を総務省データから算出したところ144%であった。仮にこのまま同様な増加率と仮定して計算をすると2022年度末(2023年3月)までには普及率予測は53%から55%となる(資料5)。目標としている「ほぼ全ての国民への普及」といった数値目標は不明だが、今後普及に向けてさらなる施策を講じることによっては目標に近づけることは可能なのではないかと考える。

これらのことから、マイナンバーカードの普及に関してはある程度の数字にはなると予想される。しかしオンライン資格確認で使用するには健康保険証として利用する申請がさらに必要となり、今後は申請に向けた取り組みも必要であると考える。

【資料5】マイナンバーカード普及予測

【資料5】マイナンバーカード普及予測

何のためのオンライン資格確認?

オンライン資格確認は何のために行うのか!

医療機関としてのメリットは書かせていただいた。もちろん医療機関の業務改善や医療の質向上に寄与すると思われる。ただ、筆者はそれだけのために行う事業ではないと感じている。

オンライン資格確認の事業の大きな意味合いは少子高齢化問題や経済成長問題に向けた事業であり、最終的に国民のための事業だと考えている。

まとめ

スタート前にトラブルが多発しているオンライン資格確認ではあるが、日本という国にとってこの事業は大変重要な事業だと思っている。

参加、不参加はそれぞれの医療機関の考え方で最終決定はするものではあるが、筆者個人的には参加をすることのメリットは広い視野で大きいものと考える。

今後さらに国がデジタル化を進める中で、医療機関はそれに継続的に対応し、さらなるメリットを生み出すといった継続的対応が必要となると考える。

今回は「オンライン資格確認は病院にとって必要か?」と題して意見を書かせていただいた。

今回の内容が少しでも新たな取り組みに向けて参考になれば幸いである。

最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

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