電子カルテシステム有効活用に向けて
~電子カルテシステムの機能活用より効果的な病院経営を目指して~
2021年8月

執筆者:株式会社 Benett One(ベネットワン)
    代表取締役・診療放射線技師
    米山 正行(よねやま まさゆき)氏

はじめに

電子カルテの普及が進み、平成29年(2017年)の厚生労働省データ(資料1)によれば一般病院で46.7%となっている。病床規模別に見ると400床以上では85.4%、200~399床では64.9%、200床未満では37.0%となっている。2021年となった今、多くの病院で更新の検討を始める時期にきているものと考える。

今回は、これから新規導入をする施設、更新検討をする施設の方々に「電子カルテシステム有効活用に向けて」と題し、電子カルテ機能の活用と現場から挙がる「不満・課題」の解決に向けた機能活用についてお話しさせていただければと思う。

【資料1】電子カルテシステム等の普及状況の推移

【資料1】電子カルテシステム等の普及状況の推移
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出典:厚生労働省ホームページ :医療施設調査より

電子カルテシステムの現状と課題

筆者は電子カルテ自体を記憶媒体として認識している。その結果、電子カルテシステムには多くの機能は求めず、サブシステム(部門システムなど)で必要機能を補い、病院情報システムとして有効活用することが電子カルテシステムの現状と考える。

病院情報システム更新に関わった多くの病院で、現状の「不満・課題」をヒアリングすると多く挙がる内容は以下の3つである。

現場ヒアリングによる課題トップ3

  1. 記載(記録)の簡素化
  2. 請求漏れ
  3. 診療データの活用

これらが電子カルテシステムへの課題である。

また4番目に多い課題としては情報共有がある。しかしこれらを掘り下げると、サブシステムからの転記作業などの「記載(記録)の簡素化」と院内でデータを利用・分析したいという「診療データの活用」に分類されることから、トップ3と併せて改善することができると考えている。

課題に対する対処方法

これらの課題に対する解決方法のひとつとして、今回は電子カルテに搭載されているテンプレートの活用に着目した対処方法をお話ししたいと思う。

すでに多くの医療機関でも使用されているこのテンプレートだが、有効な使い方をしている医療機関は少ないと思う。このテンプレートを活用することで多くの課題は解決できると考える。

まずはテンプレートの特徴として以下を挙げることができる。

  • 入力内容を構造化データとして格納できる。
  • 聞き漏れ、チェック漏れを防ぎ、記載に関して平準化することができる。
  • 入力項目のダイナミックな動態表示を可能とし、入力の効率化が図れる。
  • テンプレート間で入力内容の引用ができる。
  • 算定項目との紐づけができる。
  • 各種計算に対応できる。

これらが可能なテンプレートは入力に対する問題や様々な状態評価にも使用可能である。また記事記載や患者様の聞き取り内容の差を無くし、業務の平準化に繋げることも可能だ。

このことから、課題トップ3の課題に対処できる身近なツールだと考える。

テンプレート使用により期待できる効果

課題トップ3の内容で、テンプレートを活用して期待できる効果は以下のように考える。

1) 記載(記録)の簡素化

医師や看護師の記録に関しては一定程度のパターンが存在する。

そのパターンとなる記録をテンプレートで入力、前回値の引用や自動入力設定などを活用することで入力を簡素化。これにより記事記載の業務効率を向上させることができる。

また患者の病態ごとのテンプレートを使うことで観察(チェック)内容の漏れを無くすことも可能となり、医療の平準化へ繋げることも可能となる。

2) 請求漏れ防止

記録を起点として算定できる算定項目に対しては、テンプレートへ算定項目の紐づけをすることで記載終了と同時に算定取得が可能な状態となる。これにより汎用オーダーなどから記載後に選ぶ必要がなくなる。

請求漏れの多くはこれらのオーダーの取り忘れが多く、これを自動で算定へ繋げることは、請求漏れを防ぐことになる。

3) 診療データの活用

テンプレートで入力された内容は文字データではなく、構造化データとして格納されるため、入力された内容を後からデータとして活用することができる。

これにより医師の学会資料などのデータ取得や、診療の詳細情報などから病院の診療状況を把握するなど、診療データの活用ができる。

このように、テンプレートを活用することで課題に対する効果が期待できる。

テンプレート活用事例

テンプレートの活用事例として、以下の3つの事例についてご紹介したい。

  • 事例1:発熱外来スクリーニング問診での活用
  • 事例2:褥瘡対策に対する評価などへの活用
  • 事例3:肺血栓塞栓予防管理料取得への活用

事例1:発熱外来スクリーニング問診での活用

新型コロナウイルス感染症が拡大する中、テンプレートを活用し医師の記載効率を上げる。現在は多くの病院で医師の問診やリスク評価などで活用されている。またテンプレートの使用により、医師によって聞き取り内容が違うなどのリスクを防止することもできる。これは医療の平準化としても有効ではないかと考える。またこれらの内容を診療データとして後に使うことも可能になる。

【資料2】発熱外来スクリーニング問診内容

【資料2】発熱外来スクリーニング問診内容
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出典元:株式会社MKS

事例2:褥瘡対策に対する評価などへの活用

褥瘡対策では危険因子評価、DESIGN-R、褥瘡に対する評価などがある。これらの対策と評価は入院基本料算定上でも必要となる。また看護師にとっては日常のルーチン業務となり、記載などの負担が大きくなっている現状もある。

これをテンプレート化することで入力を簡素化し、自動計算機能を追加することにより入力後すぐの点数評価も可能となる。入力されたデータは褥瘡対策の状況を見るためのデータ活用も可能となる。

【資料3】褥瘡危険因子評価

【資料3】褥瘡危険因子評価
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【資料3】褥瘡危険因子評価
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【資料3】褥瘡危険因子評価
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出典元:株式会社MKS

事例3:肺血栓塞栓予防管理料取得への活用

肺血栓塞栓予防管理料は、医学的管理を整備し予防的処置を実施した時に算定可能となり、どこをトリガーとして算定取得のテンプレートを使うかが鍵となる。

筆者が関わった病院では、手術後の患者に対しハイリスクな患者へ弾性ストッキングなどの処置を施していたが、全て未算定状態となっていたことが判明した。そこで、テンプレートを活用して請求漏れ防止にあたった。

看護師による処置実施に対する記録をトリガーとしてテンプレートを作成し、肺血栓塞栓予防管理料の算定を紐づけた。

これにより、医師のリスク評価、指示より処置を行った場合のみ算定を取得することが可能となり、請求漏れが無くなった。

今回は「記載・計算・算定」事例として挙げさせていただいた。このような活用事例を参考に各病院でのテンプレート運用を「検討・構築」してみてはどうだろうか。

まとめ

今回は電子カルテに搭載されている便利機能として、テンプレートの活用についてお話をさせていただいた。

病院運営はタイムリーに動く性質を持つことから、各病院でテンプレートの「作成・編集」ができるメリットは大きい。

またテンプレートの電子カルテ内連携については、システムのバージョンなどで制約がある場合があるため、使用想定検討の際にはベンダーへの確認を忘れずに行う必要もある。

さらに、テンプレート活用に際しては大きな運用変更を伴う場合もあることを考慮して、十分な運用検討が必要となることを付け加えたい。

最後になるが、電子カルテに搭載されているテンプレートの活用により病院運営を効率化させることは職員の業務改善につながる。各医療機関で運用に関するボトルネックを見つけ、この機能活用から少しでも改善につながることを願っている。

次回はテンプレート機能を活用した「指導管理算定フォローシステム」の現状と活用効果についてお話しさせていただく。

最後までお付き合いいただきありがとうございました。

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