2023年1月運用開始!電子処方箋の運用どうする? 2023年2月

執筆者:株式会社 Benett One(ベネットワン)
    代表取締役・診療放射線技師
    米山 正行(よねやま まさゆき)氏

2023年電子処方箋の運用開始

2023年1月電子処方箋の運用開始。このコラムが掲載される頃は、大きな問題がなければすでに運用開始となっているだろう。電子処方箋のメリットに期待している、もしくは国の施策に賛同、今後の医療DXを意識している医療機関はすでに準備申請も済ませ、運用開始されていると思われる。

今回は電子処方箋の運用に迷っている、もしくはこれから申請を検討している医療機関に向けてコラムを書かせていただきたい。

デジタル社会へのはじめの一歩! 電子処方箋

前回オンライン資格確認について書かせていただいた。その際オンライン資格確認を「デジタル社会の入口」と記した。さて電子処方箋はというと「デジタル社会へのはじめの一歩」と言えるのだろうと筆者は思っている。

診療情報の中でも医薬品情報は標準化コードも整備され、レセプト情報もコードで管理されている。また、診療に際しても過去の処方情報はとても重要である。今まではお薬手帳がなければ重複投与、薬剤禁忌などチェックが十分に機能しているとは言い難い状況だった。

薬剤情報は重要な診療情報かつ標準化が進んでいる、なおかつDPCなどのデータ提出加算提出施設範囲拡大によりデータが収集されている。このような状況でスタートする電子処方箋は、国の医療情報一元化の「はじめの一歩!」としてはうってつけの情報共有ツールの提供と言える。

政府はオンライン資格確認の義務化、健康保険証やマイナンバーカードの一本化などデジタル化の動きを加速させていく中、電子処方箋が普及推進に進むことは間違いない。

ただ、まだ義務化されていない電子処方箋の運用の可否は各医療機関に任されている。国のデジタル化に向けたスピード感に惑わされることなく、しっかりと自院の状況を判断し各医療機関が導入の「可否・時期」について判断されることが重要だと考える。

電子処方箋の仕組みとメリット

電子処方箋の仕組みについては多くの情報がすでに提供されている。すでに周知のことと思うが、いま一度確認のため書かせていただく。

資料1:出典_厚生労働省ホームページ「電子処方箋の概要案内 病院・診療所向け」

資料1:出典_厚生労働省ホームページ「電子処方箋の概要案内 病院・診療所向け」

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電子処方箋の特徴としては、オンライン資格確認のネットワークを利用したシステムとなるので、オンライン資格確認が義務化された2023年4月には全ての医療機関は参加可能という状態となる。

電子処方箋とオンライン資格確認の薬剤情報参照サービス、仕組みの違いは簡単に言うとデータベースがオンライン資格確認とは別になっている点である。

オンライン資格確認の薬剤情報はレセプトデータから取得している情報となる。そのため情報は最大1カ月前のレセプト処方情報となる。このようなタイムラグが発生するというデメリットはオンライン資格確認の説明で多くの方が指摘されている。

しかし電子処方箋は現在やり取りされている処方箋データを取り扱うことから、タイムリーな処方情報の「取得・参照」が可能となる。また疑義照会の内容把握も可能となる、これら薬剤情報が医療圏を超えた各医療機関でタイムラグなく参照できる。電子処方箋の仕組みの最大の特徴でありメリットだ。

国の施策である医療情報一元化に向けたサービスとして、さらに一歩進んだと筆者は考える。

電子処方箋の運用準備と医療機関での重要確認事項

電子処方箋の運用を開始するには以下の準備を経て運用開始となる。

  1. オンライン資格確認の導入
  2. 電子処方箋の利用登録
  3. 顔認証カードリーダーの導入
  4. 医師資格証・薬剤師資格証の申請(HPKI申請)
  5. 電子処方箋利用申請
  6. ICカードリーダー及び専用ソフトウェア(ドライバ等)
  7. 電子処方箋管理サービスソフトウェア(各ベンダー対応)
  8. セキュリティアセスメント(各ベンダー対応)

電子処方箋の運用開始までには多くの準備が必要となる。その中でも医療機関が運用の可否を決めるために早めの確認をされた方が良い項目としては、使用している電子カルテシステムの電子処方箋対応に向けたシステム改修費用と院内運用フローである。

筆者がベンダー数社へ確認したところ、病床規模の違いはあるが数百万~数千万と幅が広い。各医療機関でどれぐらいの改修費が必要なのか、病院の持ち出し費用はどれぐらいか、それをまず確認しておく必要があると考える。

なぜなら、費用しだいで義務化でない電子処方箋の運用を「しない」という選択肢も考えられるからである。

また運用フローについても早めの確認をお勧めしたい。病院の運用に合っているシステム改修となるのか、それを確認し病院運用と合わないようであれば、システムとのすり合わせが必要となることも考えられる。

例えば処方内容確認に多くのクリックが必要となるなど…。医師が積極的に電子処方箋を活用することで「診療の質向上・処方ミス低減」などの効果も期待できるが、そうでなければ無駄な投資ということにも成りかねない。

電子処方箋の導入に対する補助

電子処方箋の導入に対して医療情報化推進基金が補助金を準備している。

電子処方箋の導入に対する補助金は医療機関では以下の2タイプとなる。

  1. 大規模病院(200床以上)
  2. 病院(大規模病院以外)

また2023年3月31日までに導入した医療機関と2023年4月以降に導入した医療機関でも補助額が変わる。

それぞれの補助金額は以下となる。

2023年3月31日までに電子処方箋管理サービスを導入した場合

  • 大規模病院(200床以上)
     事業額486.6万円を上限にその1/3を補助→上限162.2万円
  • 病院(大規模病院以外)
     事業額325.9万円を上限にその1/3を補助→上限108.6万円

2023年4月1日以降に電子処方箋管理サービスを導入した場合

  • 大規模病院(200床以上)
     事業額486.6万円を上限にその1/4を補助→上限121.7万円
  • 病院(大規模病院以外)
     事業額352.9万円を上限にその1/4を補助→上限81.5万円

資料2:出典:医療機関向けポータルサイト「電子処方箋の導入に関する補助金の内容」より。

資料2:出典:医療機関向けポータルサイト「電子処方箋の導入に関する補助金の内容」より。

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3月までに導入を済ませた方が補助額は多くお得となっている。また補助金の対象となる費用については現時点(2022年12月時点)では補助詳細内容が決定していない状況である。申請開始予定が2月なので、さすがにその前には補助金対象詳細が支給されると思われる。

現在(執筆当時12月)までにベンダーの対応状況を確認したところ、電子処方箋への対応についての問い合わせが多く対応中というベンダーもあれば、電子処方箋のシステム対応内容がまだ確定していないというベンダーもあり、ベンダー側も混乱している状況のようだ。

このような状況で3月までに導入できる医療機関はどれぐらいになるのか疑問である。

2023年3月までの導入完了で補助金額が多く設定されているが、どれぐらいの施設が3月導入に間に合うのだろうか。

対象施設が少なかった場合は期間延長の可能性もあるのではないかと思うのと同時に、国が電子処方箋の普及に急いでいるのではないかと考えてしまうが、皆さまはどう思うであろうか。

まとめ

ここまで電子処方箋について書かせていただいた。個人的には医療情報の一元化は大きなメリットがあると思っている。大病院では国の動きに倣って導入が進むことも予想されるが、中小の医療機関にとっては「費用」というのが判断の大きな要素となるのではないかと考える。

またオンライン資格確認で過去の薬剤情報はタイムラグがあるにせよ取得可能である。

2023年3月までに導入することで多めに補助金が支給されるが4月以降の「いつまで」といった補助金申請のデッドラインはない。

これらの要素と各医療機関の「経営状況・運用方針」なども考慮して国のスピード感に惑わされず導入の可否を決定することが重要ではないかと考える。

また電子処方箋では薬剤飲み合わせ禁忌や重複投与はチェックできるが、その他の判断材料として薬剤禁忌情報に関わるアレルギー情報などの情報も必要となる。これらの情報共有は今後の課題として検討は始まっているが「いつから・どのように」実施されるかは現在まだ不明である。

地域医療ネットワークを活用している地域では、システム中で共有されているそのような足りない情報を補うことで診療の質はもっと向上するのではないかと考える。

国が進めるPHRが普及することによって地域医療ネットワークは必要ないのではという声も聞いたが、まだ暫くは両輪で回すことがベストな選択なのではないかと考える。

皆さまの地域で地域医療ネットワークによる情報共有システムがある場合、それとあわせて活用していく運用を院内で構築してみてはいかがだろうか。

今回は電子処方箋について書かせていただいた。皆様にとって少しでもこのコラムが役に立つことができれば幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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