医療DXの進む方向とは
~医療DX推進に関する工程表(案)から読み解く
 後編「医療DX推進により実現に向けた具体的施策と到達点」について~
2023年9月

執筆者:株式会社 Benett One(ベネットワン)
    代表取締役・診療放射線技師
    米山 正行(よねやま まさゆき)氏

はじめに

前回は前編として2023年6月2日に内閣府医療DX推進本部より示された「医療DX推進に関する工程表(案)」より「医療DX推進により実現を目指す5項目」について整備内容や時期について書かせていただいた。

これまで医療DX推進としては、2024年3月にオンライン資格確認が義務化となり、医療DXの基盤として全国の医療機関へ整備され、2023年11月には電子処方箋運用が始まり医療分野でのデジタル化は急ピッチに進んでいると書かせていただいた。

前編では整備内容と時期について、後編として工程表に記されている「具体的な施策と到着点」という内容を確認していきたいと思う。

具体的な施策及び到着点

医療DX推進に関し、工程表では具体的な施策と到着点を以下の内容で記している。

(1)マイナンバーカードと健康保険証の一体化の加速等

(2)全国医療情報プラットフォームの構築

  1. 電子処方箋・電子カルテ情報共有サービス
  2. 自治体、介護事業所等とも、必要な情報を安全に共有できる仕組みの構築
  3. 医療等情報の二次利用

(3)電子カルテ情報の標準化等

  1. 電子カルテ情報の標準化等
  2. 標準化型電子カルテ

(4)診療報酬改定DX

(5)医療DXの実施主体

国はこのような内容について医療DX推進に向けた施策および到着点として記されている。各施策について以下に解説する。

(1)マイナンバーカードと健康保険証の一体化の加速等

医療DXの基盤であるオンライン資格確認が義務化となったところは皆さまも理解されていると思う。また報道されているとおり、2024年秋には健康保険証が廃止になるのも周知のことである。

このマイナンバーカードの医療利用の範囲を2024年健康保険証廃止に向けて「訪問診療・訪問看護等、柔道整復師、あん摩マッサージ師、はり師・きゅう師等」でもオンライン資格確認の構築、さらにマイナンバーカードの機能の搭載によるスマートフォンでの健康保険証利用の仕組みの導入等の取り組みを進めて、2024年秋の健康保険証廃止を目指すとのことだ。

筆者はスマートフォンでの健康保険証の利用という部分が気になった。現在の資格確認端末ではカードを端末で読み取り確認をするが、スマートフォンからどのように読み取るのか、内容を直接画面から確認するのか、読み取り方法によっては現在の確認機器更新となるのか、今後の取り組みを注視したいと思う。

(2)全国医療情報プラットフォームの構築

工程表で記されている内容としては以下となる。

「全国の医療機関・薬局をつなぐオンライン資格確認等システムのネットワークを活用し、電子カルテ情報等を電子カルテ情報共有サービス(仮称)に登録することで、医療機関や薬局との間で電子カルテ情報等を共有・交換する仕組みを構築する。また、自治体検診情報、介護、予防接種や母子保健に関する情報を連携させる仕組みを構築することにより、医療機関・薬局等と自治体の間で必要な情報を共有可能にする。介護事業所が保有する介護現場で発生する情報についても、介護事業所・医療機関等で情報を共有できる基盤を構築する。」

※一部抜粋

医療情報プラットフォームの構築についてはこのように記されている。介護分野でも厚生労働省がICT支援事業も実施し、システム化が進んでいる状況である。医療DXでは「自治体の保健情報・病院の医療情報・介護の介護情報」これらを全て電子カルテ情報共有サービス(仮称)へまとめるとのことである。

医療機関にとっては保健情報・介護情報や他の医療機関情報が見られるのはメリットになるのではと考える。

(2)1.電子処方箋・電子カルテ情報共有サービス

まずは、電子処方箋の普及状況であるが、厚生労働省より2023年2月19日時点の資料があるので参考として提示したい。

資料1:電子処方箋の導入状況について 厚生労働省

資料1:電子処方箋の導入状況について 厚生労働省
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現在の利用状況としてはこの資料より進んでいると思われるが、工程表では次のようにされている。

「2025年3月までにオンライン資格確認を導入した概ね全ての医療機関・薬局に導入することを目指して必要な支援を行う」

また多剤重複投与等の適正化に向けては次のように書かれている。

「2023年度内にリフィル処方箋の機能拡充、2024年以降に院内処方の機能拡充や重複投与チェック精度向上に取り組むとされ、電子署名などの技術について、導入の負担を軽減しつつ適切に導入できるようサポート体制を整備する」

今後何らかの導入支援があるのではないかと考えるが、費用的な支援が必要な中小医療機関が多いのではないか。

また電子カルテ情報を医療機関・薬局で共有するために「電子カルテ情報共有サービス(仮称)については、2023年度中に仕様の確定と調整を行い、システム開発に着手する」とのことだ。前項のプラットフォーム構築でも記載される施策だが、サービスの利用については2024年度中に電子カルテ情報の標準化を実現した医療機関から順次運用開始すると記されている。

(2)2.自治体、介護事業所等とも、必要な情報を安全に共有できる仕組みの構築

「医療や介護などのサービスの提供に関し、患者、自治体、医療機関、介護事業所等で紙の書類のやりとりがされている、こうした業務フローを見直し、関係機関や行政機関等の間で必要な情報を安全に交換できる情報連携の仕組みを整備し、自治体システムの標準化の取り組みと連動しながら、介護保険、予防接種、母子保健、公費負担医療や地方単独の医療費助成などに係る情報を共有していく。また、個人が行政手続に必要な情報を入力しオンラインで申請ができる機能をマイナポータルに追加し、医療や介護などの手続をオンラインで完結させる。」

基本的には希望する自治体から先行して取り組む内容が多く、時間が掛かる内容なのではないか。医療情報プラットフォーム構築のポイントとなるのは自治体・介護情報の連携基盤構築ではないかと感じる。

(2)3.医療等情報の二次利用

医療情報の二次利用で書かれている内容としては以下となる

「薬事承認申請への利活用を含めた有用性の高いデータ利活用が可能な「仮名加工医療情報」を創設すること等を内容とする。」

上記具体的な施策としてはデータの提供方針、信頼性確保のあり方などまだ検討事項が多く2023年度中に検討体制構築となっている。

「NDB(レセプト情報・特定健診等情報データベース)のデータ提供までの時間を大幅に短縮化するために、データ提供の方法を抜本的に見直す。」

簡単な具体的施策説明としては、クラウド技術を活用し医療・介護データ等の解析基盤の機能拡充、不正アクセス監視機能を実装し、利用申請などの条件などの制限のもと解析ができる状況を構築するとされている。

基本的には研究向け、情報の二次利用といった話である。

(3)1.電子カルテ情報の標準化等

「電子カルテ情報については3文書6情報(診療情報提供書、退院時サマリー、健診断結果報告書、傷病名、アレルギー情報、感染症情報、薬剤禁忌情報、検査情報(救急及び生活習慣病)、処方情報)の共有を進め、順次、対象範囲を拡大していく。
具体的には、2023年度に透析情報及びアレルギーの原因となる物質のコード情報について、2024年度に蘇生処置等の関連情報や歯科・看護等の領域における関連情報について、標準規格化を行う。さらに、2024年度中に、特に救急時に有用な情報等の拡充を進めるとともに、救急時に医療機関において患者の必要な医療情報が速やかに閲覧できる仕組みを整備する。」

※一部抜粋

以前からいわれている3文書6情報の情報共有を進めること、それに向けては標準規格化を行うとされている。これはベンダー側でのシステム要件になる部分と医療機関側では情報入力といったところでシステム化が進むのではないかと考える。

(3)2.標準型電子カルテ

「電子カルテ情報の標準化に併せて、標準規格に準拠したクラウドベースの電子カルテ(標準型電子カルテ)の整備を行っていく。具体的には、2023年度に必要な要件定義等に関する調査研究を行い、2024年度中に開発に着手し、一部の医療機関での試行的実施を目指す。
電子カルテシステムを未導入の医療機関を含め、電子カルテ情報の共有のために必要な支援策を検討しつつ、遅くとも2030年には概ね全ての医療機関において必要な患者の医療情報を共有するための電子カルテの導入を目指す。」

※一部抜粋

この施策については動向を気にしている中小医療機関も多いのではないかと思われる。

標準型電子カルテの提供にあたっては、標準規格化と同時に開発が進むと考えられるので職員の導入負担も軽減されるのではないかと期待する。導入コスト、ランニングコストはまだ不明だが、その辺りも考慮したシステム提供がされることを望む。

またセキュリティといったところが現在注目されている。国が提供するシステムとなると「安心・安全」も提供できることを期待したい。

(4)診療報酬改定DX

「診療報酬改定時に、医療機関等やベンダーが、短期間で集中して個別にシステム改修やマスタメンテナンス等の作業に対応することで、人的、金銭的に非常に大きな間接コストが生じている。限られた人的資源、財源の中で医療の質の更なる向上を実現するためには、作業の一本化や分散・平準化を図るとともに、進化するデジタル技術を最大限に活用して、間接コストの極小化を実現することが重要である。
このため、2024年度において、医療機関等の各システム間の共通言語となるマスタ及びそれを活用した電子点数表を改善し、提供する。併せて、デジタル化に対応するため、診療報酬点数表におけるルールの明確化・簡素化を図るとともに、診療報酬の算定と患者の窓口負担金計算を行うための全国統一の共通的な電子計算プログラムである共通算定モジュールの開発を進め、2025年度にモデル事業を実施した上で、2026年度において本格的に提供する。」

※一部抜粋

電子カルテシステム導入の際に、しばし争点になる「診療報酬改定対応費用」。診療報酬改定時の職員負担。電子計算プログラムの提供で医療側・ベンダー側のコストや作業負担が軽減されることを期待したい。

(5)医療DXの実施主体

「社会保険診療報酬支払基金が行っているレセプトの収集・分析や、オンライン資格確認等システムの基盤の開発等の経験やノウハウを生かす観点から、同基金を、審査支払機能に加え、医療DXに関するシステムの開発・運用主体の母体とし、抜本的に改組する。
国が責任をもってガバナンスを発揮できる仕組みを確保し、絶えず進歩するIoT技術やシステムの変化に柔軟に対応する」

※一部抜粋

多くの個人情報を扱う医療DX、情報の取り扱いに際してはセキュリティ強化も十分配慮して構築していただきたいと思う一方で、これらの情報を各医療機関が有効活用し医療の質が向上することを期待したい。

まとめ

今回出された工程表の具体的な施策としてポイントとなるのは以下ではないかと感じる

  • 電子カルテ情報共有サービス(仮称)
  • 「保健・医療・介護」システム標準化

医療機関としては、このポイントに注目し、医療DX推進状況の経過に注目していただきたい。

現在でも標準化マスタは様々なものがあり、その種類によって、使用はできるが使用するにはシステム改修費用が掛かるといった話もある。筆者は「これ標準化マスタなの?」と疑問に思うこともある。今後、国が進める医療DX推進における標準化は本当の意味での標準化を是非構築して欲しいと思う。

最後に

医療DX推進は、これからの保険・医療・介護にとっては必要なものだと感じている。

また医療機関にとっては、医療DXで得られる情報をどのように活用し効率的な運用へ繋げるかといったところがポイントになるかと思う。

今回の医療DX推進工程表を見て、まだ先の話と思うか、そうでないと思うかで各医療機関での取り組み、経営といったところで差が出るとは思う。筆者は先の話ではなく、すぐに来る話だと感じて「検討・対策」をするべきではないかと考える。

今回は後編として「医療DX推進により実現に向けた具体的施策と到達点」について工程表に書かれている内容からポイントとなる部分を抜粋して書かせていただいた。気になる方は全文の確認をお勧めしたい。

長くなりましたが、皆さまにとって少しでもこのコラムが役に立つことができれば幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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