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IT特集 - フードテック

市場規模は700兆円? 食のIT革命「フードテック」が注目されている理由とは

食とITが融合する「Food Tech(フードテック)」。ITを活用して食料の生産から加工、流通、消費までのサプライチェーンを見直して食品の廃棄・ロスの改善に役立てたり、IoTAIを活用したスマート農業、インターネットと家電が連携したりするスマートキッチンなど、フードテックの適用範囲が広がっている。なぜ、フードテックが注目されるのか。事例を交え、その動向を解説する。

フードテックの市場規模は700兆円にものぼる

フードテックとは、食とITが融合すること。金融とITが融合したFinTech(フィンテック)が従来の金融の枠を超えて新たなビジネスを生み出したように、フードテックも食とITが融合することで新たな産業、ビジネスが創出されると期待されている。ある米投資会社によれば、2017年のフードテック市場への投資額は100億ドル(1兆1 ,000億円)を超えたという。今後、フードテック市場規模は世界で700兆円に上ると見積もっている。

フードテックのビジネスとしては、IoTAIを活用したスマート農業による新しい農法や食品の開発が進んでいる。センサーで栽培施設内の温度・湿度の管理や、野菜の生育状況をリアルタイムに把握したり、気象データを収集・解析したりすることで農産物の効率的な生産・収穫・流通を可能にしている。

センサーやITを活用した農産物の生産は、フードテックの言葉が生まれる以前から様々な取り組みが行われてきた。例えば、ITやバイオテクノロジーを利用するキノコ類の工場生産は数十年前から行われており、かつては山の中で育成・収穫していたキノコ栽培を効率化し、安定供給していることもその一例だ。

そして、フードテックの進化により、多様な消費者ニーズに対応し、食の課題を解決することも可能だ。農薬などのリスクを抑え、安全・安心な食料の生産や、気象条件などに左右されることなく効率的、安定的に食料を供給するなど、これまでの食関連ビジネスを大きく変える可能性がある。

食糧問題の課題解決で期待されるフードテック

フードテックが注目される理由の1つが、人類の課題である食糧問題に貢献できると期待されているからだ。国際連合食糧農業機関(FAO)によると、農業生産から消費に至るフードサプライチェーン全体で、食料の約1/3が捨てられ、その量は1年あたり約13億トンに上るという。国連のSDGs(持続可能な開発目標)においても、2030年までに小売り・消費レベルにおける世界全体の一人あたりの食料廃棄を半減させ、収穫後損失などの生産・サプライチェーンにおける食品ロスを減少させるとの目標を掲げる。

日本政府も「SDGsアクションプラン2018」の中で、家庭における食品ロス削減の取り組みの普及啓発や、食品産業に対してフードバンク活動の推進、サプライチェーンの商習慣の見直しなど、食品廃棄物の削減や活用に向けた取り組みを始めている。

フードテックは日本の農業の問題を解決する可能性もある。日本の農家は高齢化が進み、後継者不足もあって耕作放棄地も増えている。フードテックを活用して農産物の生産性を高めたり、付加価値の高い農産物にシフトしたりするなど、農地の有効利用や雇用の拡大も期待できる。また、農業とは無縁だった家電メーカーなど異業種の参入を促したり、外食産業がITを活用してサービスを高度化したりするなど、食を起点にビジネスを広げられる可能性もある。

環境や健康にも効果的な代替食

持続可能な社会に向けたフードテックの取り組みの1つに、食肉の代替がある。日本でも大豆を使ったハンバーグなどが市販されているが、米国では食材の質感や調理法をITで解析し、味や香りを損なわずに調理する「分子調理法」に着目。植物由来の肉や卵などの食品を再現し、植物の材料だけで、食感も味も本物そっくりのハンバーガーを作り出している。

ハンバーガーの食材を肉から植物に変えることにより、環境や健康にも大きな効果が見込まれる。これまでの食肉ビジネスは牛の放牧などで資源を無駄にし、森林破壊や温暖化の一因になっているとも言われる。工場で生産できる代替肉であれば、環境にもやさしく、食肉の生産量を減らせる効果がある。

また、植物由来の代替肉は低価格でヘルシーといった利点があり、米国の食品会社をはじめ、食肉の生産量が多いオーストラリアやニュージーランドなどで代替肉への取り組みが始まっている。

フードテックに異業種も参入

日本でもフードテックに着目し、様々な取り組みが進んでいる。外食レストランを展開するある企業では、都内の一部店舗でフードテックの実証を行っている。例えば、調理器具(オーブン)にメニューの調理方法を記録したSDカードを差し込み、店員はボタンでメニューを選ぶだけで自動的に調理方法を調節。アルバイト店員でも調理できるという。また、掃除ロボットやキャッシュレス決済の導入により、店舗の掃除やレジ締め作業を不要にするなど、業務を効率化している。今後は最新IT活用を他の店舗にも広げるという。

また、フードテックにより、家電メーカーや住宅設備メーカーなどとのビジネス連携も加速しようとしている。ある企業は、キッチン家電にレシピを提供するスマートキッチンサービスに取り組んでいる。

具体的には、サイトに投稿されたレシピのデータベース情報を解析、機器が読み取り可能な形式に変換してキッチン家電などに提供。家電メーカーなどは自社の機器を対応させることで、サイトのレシピ内容に応じた機器を自動で制御できる。同社ではキッチン設備、家電メーカーなどのパートナーと企業とともに連携する製品やサービスを開発していくという。

フードテックはベンチャー企業のビジネス創出でも期待される。農産物や加工食品などの食品宅配を展開するある企業では、フードテック分野に特化した投資・提携を行うファンドを立ち上げている。そして、農業技術のベンチャー企業と資本提携。同社が開発したAIシステムを活用した農産物の特別栽培を支援する機能を共同開発している。特別栽培は草取りや施肥に手間と時間がかかるといった問題があったが、ITAIを活用することにより、特別栽培の見える化や肥培管理の自動化が可能になり、付加価値の高い農産物を生産できるという。

今後自社のビジネスがフードテックと関わる可能性もある

あるフードテックの展示会では、スマホと連携して温度を自動調節するスマート調理家電や、培養肉などの代替食材、遺伝子情報を調べて食生活を改善するサービスなども登場した。食品や飲食はもちろん、家電メーカー、流通、住宅業界など幅広い業種が参加し、フードテックのすそ野の広さと期待の高さを物語っていた。

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フードテック自体は、食の生産、加工、流通にとどまらず、代替食の研究開発、外食、食関連サービスなど適用分野は広範囲となり、ビジネスチャンスはあらゆる企業に広がっている。そういう意味では、現時点や今後開発する自社の技術やサービスによっては、今後フードテックに関わる機会があるかもしれない。フードテックの動向を注視し続けると共に、自社の技術・サービスを見直してみてはいかがだろうか。

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(監修:日経BPコンサルティング)