労働法専門弁護士が回答! 労務管理担当者が知っておくべきFAQ集
PCの起動時間を労働時間としないのはなぜですか?
2018年6月(改訂:2021年4月)
Q. PCの起動時間を労働時間としないのはなぜですか?
当社では、働き方改革のトレンドに対応するため、勤怠管理システムで本人が入力する始業・終業時刻のほか、「PC起動時間」が表示される仕組みを導入しました。
そうしたところ、従業員Aから「なぜPC起動時間に基づいて残業代が支払われないのか」という問い合わせが総務人事に寄せられました。この問い合わせにどう説明したらよいのでしょうか?
A. PC起動時間は「在社時間」の記録であり労働時間とは別概念
(1)労働法の考え方
2017年1月20日に厚労省が策定した「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」は、始業・終業時刻の確認について自己申告制をとる場合、入退場記録やPC起動時間の記録をチェックして、申告時間との間に「著しい乖離」が生じていたら実態調査を実施せよと述べています。
これに応じ、企業では、勤怠管理システムに「PC起動時間」を組み込む事例が増えてきています。その中でご質問にあるような問い合わせを受けるケースも見られるところです。
ここでポイントとなるのは、ガイドラインがPC起動時間を「事業場内にいた時間がわかるデータ」と位置付けている点です。しかし、事業場内にいた、つまり在社していても、実際に会社指示に基づいて仕事をしているとは限りません。在社時間と労働時間とは異なる概念なのです。裁判例でも、そのように述べて残業代請求を棄却した事例が存在します(東京高判平25.11.21 労働判例1086号52頁)。
とはいえ、PC起動時間=在社時間が自己申告とあまりに「乖離」していると、申告が実態に反している懸念があるため、実態調査(ヒアリング等)が求められているのです。
(2)設問の回答
従業員Aの問い合わせに対しては、(1)PC起動時間はあくまで在社時間を示す記録であり、申告が実態に反していないかをチェックする機能を果たしていること、(2)当社では、勤怠管理システム上の自己申告をもって労働時間と取り扱っていること、(3)労働時間と在社時間が異なる概念であることは裁判例やガイドラインでも述べられていることを説明することになります。
労働法専門弁護士が回答! 労務管理担当者が知っておくべきFAQ集
勤怠編
- 第1回 PCの起動時間を労働時間としないのはなぜですか?
- 第7回 上長承認のない出勤を勤怠上どう扱えばよいでしょうか?
- 第11回 自宅やサテライトオフィスで働いている社員にWeb会議システムで打合せをした場合、
勤怠上の扱いはどうなりますか? - 第17回 会社で「学習」「研修」をした時間は労働時間になりますか?
- 第22回 出張帰りに会社に立ち寄って仕事をしたら「移動」も労働時間ですか?
- 第24回 勤怠入力とPCログとの「乖離」は何分間開いたら違法になりますか?
- 第27回 在宅勤務中の「ながら勤務」と隠れ残業にどう対応すればよいですか?
- 第30回 勤怠ルールを守らない社員を厳しく注意したいのですが、気を付ける点はありますか?
- 第31回 在宅勤務時に隠れて残業した時間を労働時間としないことは可能ですか。
- 第32回 帰宅後・休日も携帯電話での対応を義務付けたら勤務にカウントすべきですか?
- 第34回 在宅勤務後にオフィスや客先に「移動」する時間は労働時間ですか?
- 第35回 年休の承認制を設けることは違法ですか?
- 第36回 休日の急な顧客対応を勤怠管理上どう取り扱うべきですか?
- 第38回 月30時間の残業でも慰謝料が発生することはありますか?
- 第39回 朝9時より前に早出する社員にどう対処すべきですか?
- 第43回 自宅持ち帰り残業は労働時間になりますか?
規則・モラル編
- 第2回 副業・兼業のモデル就業規則への企業対応は必要ですか?
- 第4回 協調性に問題のある社員にどう対応すればよいでしょうか?
- 第9回 テレワークを運用する際に注意すべきことはありますか?
- 第15回 メンタル不調の社員について主治医診断書に従わなければなりませんか?
- 第16回 職場内でボイスレコーダーによる録音を行う者を処分できますか?
- 第20回 髪色や服装についてルールを作ることは可能ですか?
- 第25回 新型ウイルスに感染した疑いのある者に休業手当を支払う必要はありますか?
- 第26回 新型ウイルスへの感染リスクを理由に出社しない社員にどう対応すべきですか?
- 第33回 メンタル不調で休職した者を軽易業務で復職させる必要はありますか?
- 第37回 マスコミに「ハラスメント企業」と真実でない情報を発信した社員を解雇できますか?
- 第44回 副業・兼業を週1日やりたいという申請を認める必要はありますか?
- 第45回 フレックスタイム制で「朝9時の会議に出てほしい」と指示できますか?
- 第46回 いわゆる「シフト制」について。いつ勤務するかを特定しない雇用契約は可能ですか
- 第47回 賞与・ボーナスの金額が低すぎると申し立てられたら?
ハラスメント編
- 第12回 パワハラ防止法とは何か?
- 第18回 パワハラに当たるかは「受け手」の感じ方で決まりますか?
- 第19回 セクハラ事案で「女性が拒否しなかった」という弁解をどう考えるべきですか?
- 第21回 取引先からの暴言や威圧的なメール、無理難題にどう対応すべきですか?
(カスタマーハラスメント) - 第23回 上司・同僚の「マタハラ」とはどのような言動を指しますか?
- 第29回 パワハラ相談申告で本人が「調査は望まない」と述べたら?
- 第42回 パワハラは部下の態度にも原因があるのではないですか?
採用・解雇編
- 第3回 採用前に応募者の健康状態を確認することは違法でしょうか?
- 第5回 試用期間満了に伴う本採用拒否も「解雇」に当たるのでしょうか?
- 第10回 個人情報漏洩を起こした社員を懲戒解雇できますか?
- 第13回 労働条件通知書をメール送信で済ませてもよいですか?
- 第28回 有期雇用社員の勤務条件を期間満了時に変更することは可能ですか?
- 第40回 不況による退職勧奨が「違法」にならないためには
- 第41回 60歳定年後の再雇用で処遇の大幅ダウンは違法ですか?
管理職編
筆者プロフィール
橘 大樹(たちばな ひろき)
石嵜・山中総合法律事務所 パートナー弁護士
専門分野 労働法(企業側)
慶応義塾大学法学部法律学科、一橋大学法科大学院卒業。司法試験合格後、司法修習を経て弁護士登録(第一東京弁護士会)、石嵜・山中総合法律事務所に入所。労働法を専門分野として、訴訟、労働審判、団体交渉などの紛争対応、顧問企業からの法律相談、労務DD、労基署対応などを行う。
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