労働法専門弁護士が回答! 労務管理担当者が知っておくべきFAQ集(第5回)
試用期間満了に伴う本採用拒否も「解雇」に当たるのでしょうか?
2018年10月
Q. 試用期間満了に伴う本採用拒否も「解雇」に当たるのでしょうか?
当社では試用期間を6か月と定めていますが、今回、中途採用した社員で試用期間中の勤務状況に問題があり、本採用は困難ではと思われる者がいます。本採用拒否も「解雇」に当たるから実際にはハードルは高いと聞いたのですが本当ですか。
A. 通常の解雇より広い範囲で解雇の自由が認められます
確かに本採用拒否も法的には「解雇」に当たるという点はその通りですが、解雇だからハードルが高いという理解は正確とはいえません。当職自身、相談対応の中で人事担当者がそのような理解を示される場面に接しますが、最高裁判決は、試用期間中の解雇や本採用拒否について「これを通常の解雇と全く同一に論ずることはできず…(通常の解雇)よりも広い範囲における解雇の自由が認められてしかるべき」と判示しています(最判昭48.12.12 判例タイムズ302号112頁)。
つまり、本採用拒否も解雇に当たるけれども通常の解雇より広い範囲で認められる、というのが正しい理解です。実務的にも試用期間は非常に大事な見きわめの機会です。いわゆる問題社員に関する相談において、入社時から多々問題が見られ、何故本採用してしまったのかと思わざるを得ないケースがあります。漫然と半ば自動的に本採用してしまうような運用は判断の機会を逸するもので望ましくありません。
とはいえ、本採用拒否についてもその判断が合理的か、社会通念上相当といえるかは問われます。具体的には、6か月と定めた試用期間中の勤務に問題が見られるのであれば、3~4か月辺りの節目でそれらを整理し、本人に改善を促すのがよいと思われます。それでも改善が見られなかったとして本採用できないとの判断を伝え、その際に可能であれば退職合意書を取得しておくのが紛争防止の観点からは有用です。
労働法専門弁護士が回答! 労務管理担当者が知っておくべきFAQ集
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ハラスメント編
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管理職編
筆者プロフィール
橘 大樹(たちばな ひろき)
石嵜・山中総合法律事務所 パートナー弁護士
専門分野 労働法(企業側)
慶応義塾大学法学部法律学科、一橋大学法科大学院卒業。司法試験合格後、司法修習を経て弁護士登録(第一東京弁護士会)、石嵜・山中総合法律事務所に入所。労働法を専門分野として、訴訟、労働審判、団体交渉などの紛争対応、顧問企業からの法律相談、労務DD、労基署対応などを行う。
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