労働法専門弁護士が回答! 労務管理担当者が知っておくべきFAQ集(第9回)
テレワークを運用する際に注意すべきことはありますか?
2019年2月(改訂:2021年4月)
Q. テレワークを運用する際に注意すべきことはありますか?
当社では、従業員にとって働きやすい人事制度を整えるため、テレワークを本格的に導入しようと考えていますが、運用に当たって注意すべきことを教えてください。
A. 厚労省ガイドラインを参考に長時間労働対策の検討を
テレワークには、業務効率化により労働時間削減をもたらすメリットがある一方、従業員が会社から物理的に離れた場所で働くために管理が弱くなり、逆に「働き過ぎ」を招いてしまう懸念があると指摘されています。
そのため、2018年2月に策定された厚労省ガイドライン(2021年3月に改訂)は、テレワークの対象者について、単に労働時間を管理するだけでなく「長時間労働による健康障害防止」を図るよう推奨しています(テレワークの適切な導入及び実施のためのガイドライン2(3))。具体例として、(1)メール送付の抑制、(2)システムへのアクセス制限、(3)時間外・休日・深夜労働が可能な時間数・時間帯の設定等、(4)長時間労働等を行う労働者への注意喚起といった策が挙げられています。
企業が従業員の健康に関して負っている安全配慮義務の観点から、ガイドラインを参考にした長時間労働対策について併せて検討しておくべきです。
もっとも、その際には実際の仕事との折り合いも重要です。ガイドラインには「役職者等から時間外、休日又は深夜におけるメールを送付することの自粛を命じること等が有効」とありますが、日々多数のメールを処理しなければならない管理職にとって、夜遅めの時間に合間を縫ってメール処理することを制約されるとかえって負担大ということもあり得ます。そうした場合は、部下に対して時間外、休日、深夜における「即時の対応」を求めるようなメール送付は控えるようにというアナウンスにとどめるのが現実的です。ガイドラインの記述はあくまで「例示」ですから個々の企業の実情に合った運用は可能と考えて差し支えありません。
労働法専門弁護士が回答! 労務管理担当者が知っておくべきFAQ集
勤怠編
- 第1回 PCの起動時間を労働時間としないのはなぜですか?
- 第7回 上長承認のない出勤を勤怠上どう扱えばよいでしょうか?
- 第11回 自宅やサテライトオフィスで働いている社員にWeb会議システムで打合せをした場合、
勤怠上の扱いはどうなりますか? - 第17回 会社で「学習」「研修」をした時間は労働時間になりますか?
- 第22回 出張帰りに会社に立ち寄って仕事をしたら「移動」も労働時間ですか?
- 第24回 勤怠入力とPCログとの「乖離」は何分間開いたら違法になりますか?
- 第27回 在宅勤務中の「ながら勤務」と隠れ残業にどう対応すればよいですか?
- 第30回 勤怠ルールを守らない社員を厳しく注意したいのですが、気を付ける点はありますか?
- 第31回 在宅勤務時に隠れて残業した時間を労働時間としないことは可能ですか。
- 第32回 帰宅後・休日も携帯電話での対応を義務付けたら勤務にカウントすべきですか?
- 第34回 在宅勤務後にオフィスや客先に「移動」する時間は労働時間ですか?
- 第35回 年休の承認制を設けることは違法ですか?
- 第36回 休日の急な顧客対応を勤怠管理上どう取り扱うべきですか?
- 第38回 月30時間の残業でも慰謝料が発生することはありますか?
- 第39回 朝9時より前に早出する社員にどう対処すべきですか?
- 第43回 自宅持ち帰り残業は労働時間になりますか?
規則・モラル編
- 第2回 副業・兼業のモデル就業規則への企業対応は必要ですか?
- 第4回 協調性に問題のある社員にどう対応すればよいでしょうか?
- 第9回 テレワークを運用する際に注意すべきことはありますか?
- 第15回 メンタル不調の社員について主治医診断書に従わなければなりませんか?
- 第16回 職場内でボイスレコーダーによる録音を行う者を処分できますか?
- 第20回 髪色や服装についてルールを作ることは可能ですか?
- 第25回 新型ウイルスに感染した疑いのある者に休業手当を支払う必要はありますか?
- 第26回 新型ウイルスへの感染リスクを理由に出社しない社員にどう対応すべきですか?
- 第33回 メンタル不調で休職した者を軽易業務で復職させる必要はありますか?
- 第37回 マスコミに「ハラスメント企業」と真実でない情報を発信した社員を解雇できますか?
- 第44回 副業・兼業を週1日やりたいという申請を認める必要はありますか?
- 第45回 フレックスタイム制で「朝9時の会議に出てほしい」と指示できますか?
- 第46回 いわゆる「シフト制」について。いつ勤務するかを特定しない雇用契約は可能ですか
- 第47回 賞与・ボーナスの金額が低すぎると申し立てられたら?
ハラスメント編
- 第12回 パワハラ防止法とは何か?
- 第18回 パワハラに当たるかは「受け手」の感じ方で決まりますか?
- 第19回 セクハラ事案で「女性が拒否しなかった」という弁解をどう考えるべきですか?
- 第21回 取引先からの暴言や威圧的なメール、無理難題にどう対応すべきですか?
(カスタマーハラスメント) - 第23回 上司・同僚の「マタハラ」とはどのような言動を指しますか?
- 第29回 パワハラ相談申告で本人が「調査は望まない」と述べたら?
- 第42回 パワハラは部下の態度にも原因があるのではないですか?
採用・解雇編
- 第3回 採用前に応募者の健康状態を確認することは違法でしょうか?
- 第5回 試用期間満了に伴う本採用拒否も「解雇」に当たるのでしょうか?
- 第10回 個人情報漏洩を起こした社員を懲戒解雇できますか?
- 第13回 労働条件通知書をメール送信で済ませてもよいですか?
- 第28回 有期雇用社員の勤務条件を期間満了時に変更することは可能ですか?
- 第40回 不況による退職勧奨が「違法」にならないためには
- 第41回 60歳定年後の再雇用で処遇の大幅ダウンは違法ですか?
管理職編
筆者プロフィール
橘 大樹(たちばな ひろき)
石嵜・山中総合法律事務所 パートナー弁護士
専門分野 労働法(企業側)
慶応義塾大学法学部法律学科、一橋大学法科大学院卒業。司法試験合格後、司法修習を経て弁護士登録(第一東京弁護士会)、石嵜・山中総合法律事務所に入所。労働法を専門分野として、訴訟、労働審判、団体交渉などの紛争対応、顧問企業からの法律相談、労務DD、労基署対応などを行う。
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