労働法専門弁護士が回答! 労務管理担当者が知っておくべきFAQ集(第12回)
パワハラ防止法とは何か?
2019年5月(改訂:2021年4月)
Q. パワハラ防止法とは何か?
職場のパワハラ防止策を義務付ける改正法案が施行されたと聞きましたが、企業はどのような対応をとる必要がありますか?
A. 方針策定や相談窓口が基本線だがパワハラ特有の内容も
職場のハラスメントのうち「セクハラ」「マタハラ」に関しては、均等法・育児介護休業法により、企業が防止策を講じるよう義務付けられています(均等法11条、11条の2、育児介護休業法25条)。
企業の具体策は厚労省指針に定められており、(1)セクハラ・マタハラを許さない旨の会社方針を明確化し、社内に周知・啓発すること(方針策定)、(2)相談窓口を設置すること(相談窓口)、(3)相談に応じて事実確認を行い再発防止や必要な処分を行うこと(事後対応)などが挙げられています。
これに対し、「パワハラ」に関しては、これまで法律に条文が置かれていませんでした。そこで、2020年6月1日施行の労働施策推進法30条の2という改正法により、企業にパワハラ防止措置が義務付けられることとなりました。同条は、パワハラを「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」と定義した上で、企業がその防止のために「雇用管理上必要な措置」を講じるよう義務付けています。
企業が講ずべき具体策は、やはり厚労省指針で定められる形となっており、基本的にはセクハラ・マタハラと同じ上記(1)~(3)のような措置です(事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針)。そのため、各企業が現時点でセクハラ・マタハラにつき実施済みの措置(方針、相談窓口など)に「パワハラ」も追加するのが対応の基本線になります。
厚労省のパワハラ指針では、単にパワハラ言動の防止を周知・啓発するだけでなく、パワハラの「要因」そのものを解消するための取組みも重要であるとされています。具体的には、職場内でのコミュニケーション不足がパワハラの要因であるという認識のもと、「日常的なコミュニケーション」「定期的に面談やミーティングを行うこと」「コミュニケーションスキルアップについての研修」を実施することが提案されています。企業として、こうしたパワハラの要因論にも着目した施策も検討していくべきです。
労働法専門弁護士が回答! 労務管理担当者が知っておくべきFAQ集
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規則・モラル編
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ハラスメント編
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管理職編
筆者プロフィール
橘 大樹(たちばな ひろき)
石嵜・山中総合法律事務所 パートナー弁護士
専門分野 労働法(企業側)
慶応義塾大学法学部法律学科、一橋大学法科大学院卒業。司法試験合格後、司法修習を経て弁護士登録(第一東京弁護士会)、石嵜・山中総合法律事務所に入所。労働法を専門分野として、訴訟、労働審判、団体交渉などの紛争対応、顧問企業からの法律相談、労務DD、労基署対応などを行う。
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