労働法専門弁護士が回答! 労務管理担当者が知っておくべきFAQ集(第14回)
管理監督者は「経営」に参画していないといけないのですか?
2019年7月
Q. 管理監督者は「経営」に参画していないといけないのですか?
法律上は企業経営にタッチしていないと管理監督者に該当しないという解釈を聞きました。部署を統括する立場にあって部下をマネジメントしていても、経営層クラスでないと管理監督者扱いしてはならないのですか?
A. 行政通達の「経営者と一体」とは経営者の代わりに部門を統括するという意味です
労働基準法の労働時間・休憩・休日の規制は管理監督者には適用されません(同法41条2号)。そのため、管理監督者は三六協定の対象ではありませんし、時間外・休日勤務の割増賃金も不要です(深夜割増は必要)。
行政実務・裁判例では、管理監督者に該当するかの判断基準として「経営者と一体の立場にある者」「事業主の経営に関する決定に参画」というフレーズがよく出てきます(昭22.9.13発基17号、昭63.3.14基発150号、札幌地判平14.4.18労判839号58頁)。
今から10年ほど前、ファストフードのチェーン店店長の管理監督者性が問題となった事件で、東京地裁は、店長の権限は店舗内に限られており「企業全体の運営」には関与していないから管理監督者に該当しない、という判断を下しました(東京地判平20.1.28労判953号10頁)。この判断はいまだ一定の影響を及ぼしており、企業全体の経営に参画していないと管理監督者でないという行き過ぎた解釈に今もしばしば接します。
しかし、このような解釈は誤解とさています。少しテクニカルな読み方が必要ですが、「経営者と一体」「経営に関する決定に参画」というのは、企業内の重要な組織部分(部門、部署など)を経営者の代わりに管理する立場を意味します(菅野和夫『労働法・第十一版』475頁)。
つまり、自らが経営層である必要はなく、あくまで経営者に代わって部門、部署を統括し、部下をマネジメントする立場のことを指して、「経営者と一体」「経営に関する決定に参画」という言い方をしているのです。普通の語感とは異なりますが、法的にはこのような解釈をされているため、行き過ぎた解釈に巻き込まれないよう注意が必要です。
労働法専門弁護士が回答! 労務管理担当者が知っておくべきFAQ集
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管理職編
筆者プロフィール
橘 大樹(たちばな ひろき)
石嵜・山中総合法律事務所 パートナー弁護士
専門分野 労働法(企業側)
慶応義塾大学法学部法律学科、一橋大学法科大学院卒業。司法試験合格後、司法修習を経て弁護士登録(第一東京弁護士会)、石嵜・山中総合法律事務所に入所。労働法を専門分野として、訴訟、労働審判、団体交渉などの紛争対応、顧問企業からの法律相談、労務DD、労基署対応などを行う。
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