労働法専門弁護士が回答! 労務管理担当者が知っておくべきFAQ集(第21回)
取引先からの暴言や威圧的なメール、無理難題にどう対応すべきですか?(カスタマーハラスメント)
2020年2月
Q. 取引先からの暴言や威圧的なメール、無理難題にどう対応すべきですか?(カスタマーハラスメント)
当社の若手社員から、取引先の担当者から急な依頼で短い納期を指定してきて、それができないと分かると「ふざけるな!」「死ぬ気でやってこい!」などと、大声で怒鳴られたという相談が寄せられました。また、きつい表現のメールが送られてくる、取引停止をちらつかせる、催促の電話を30分おきに入れてくる、等で精神的に参っているとも話しています。会社としてどう対応すればよいのでしょうか。
A. 事案を放置せず、厚労省指針を参考にした措置を検討すべき
これまでのハラスメント問題は主に「自社内」のものであったと思います。同じ職場で働く上司が部下に対して暴言や嫌がらせを行うようなケースです。
これに対し、本問は、取引先や顧客といった「他社」の社員からパワハラ被害を受けたというケースです。このような問題はカスタマーハラスメント(顧客からの著しい迷惑行為)と呼ばれ、特に流通業界や介護業界、鉄道業界などで問題視されてきました。
2020年6月1日、企業のパワハラ防止措置義務を定める改正法が施行され、それに伴い厚生労働省がパワハラ指針(事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針)を示すことになっています。このパワハラ指針の中では、自社内でのパワハラは勿論のこと、上述した「他社」との関係で起きるパワハラについても考え方が示されています。
具体的には、取引先等から自社社員が被害を受けた場合について、(1)相談体制の整備(例として上司や職場内の担当者といった相談先を決めて周知しておく)、(2)被害者への配慮の取組(例として迷惑行為をする者に一人で対応させないようにする)を行うことが望ましいとされ、(3)被害防止の取組(例として迷惑事案に対する対応マニュアルの作成や研修の実施)が有効であるとされています。
これらは法律上の「義務」というわけではないものの、企業として自社の社員を守るため、指針を参考にした措置を検討していくべきです。本問についても、若手社員の相談を聴いた上で、その担当者に若手一人で対応させず管理職を同席させる、若手を担当から外してあげるなどの措置を検討すべきと考えられます。
また、この問題をめぐっては、自社の社員が「加害者」にならないようにするという点も重要です。厚労省の指針でも、他社の社員、個人事業主、就活生、インターン生などに対してパワハラを行わないよう周知・啓発することが望ましいとされています。
労働法専門弁護士が回答! 労務管理担当者が知っておくべきFAQ集
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規則・モラル編
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- 第26回 新型ウイルスへの感染リスクを理由に出社しない社員にどう対応すべきですか?
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- 第37回 マスコミに「ハラスメント企業」と真実でない情報を発信した社員を解雇できますか?
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- 第46回 いわゆる「シフト制」について。いつ勤務するかを特定しない雇用契約は可能ですか
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ハラスメント編
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- 第21回 取引先からの暴言や威圧的なメール、無理難題にどう対応すべきですか?
(カスタマーハラスメント) - 第23回 上司・同僚の「マタハラ」とはどのような言動を指しますか?
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採用・解雇編
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- 第13回 労働条件通知書をメール送信で済ませてもよいですか?
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管理職編
筆者プロフィール
橘 大樹(たちばな ひろき)
石嵜・山中総合法律事務所 パートナー弁護士
専門分野 労働法(企業側)
慶応義塾大学法学部法律学科、一橋大学法科大学院卒業。司法試験合格後、司法修習を経て弁護士登録(第一東京弁護士会)、石嵜・山中総合法律事務所に入所。労働法を専門分野として、訴訟、労働審判、団体交渉などの紛争対応、顧問企業からの法律相談、労務DD、労基署対応などを行う。
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