労働法専門弁護士が回答! 労務管理担当者が知っておくべきFAQ集(第22回)
出張帰りに会社に立ち寄って仕事をしたら「移動」も労働時間ですか?
2020年3月(改訂:2021年4月)
Q. 出張帰りに会社に立ち寄って仕事をしたら「移動」も労働時間ですか?
大阪出張中の社員に「夜に社内会議を30分ほどやるから直帰せずに東京本社に戻ってきてくれないか」と上司が指示した場合、社内会議の時間は労働時間になると思います。これに加えて、大阪~東京の移動(例えば18:00-21:00の3時間)も労働時間としてカウントする必要がありますか?
A. 自由利用が保障されていれば労働時間に当たらない
まず、上司の「指示」によらず本人が自主的に東京本社に立ち寄り、翌日でも間に合うような事務作業やメール返信を行った場合、大阪~東京の移動(18:00-21:00の部分)は労働時間に当たりません(更に言えば、東京本社での作業時間も、あくまで自主的なものであって使用者の義務付け等に基づくとはいえないため、労働時間に該当しないとの整理が可能です)。
これに対し、問題は、設問のように上司が東京本社に戻ってきて業務に就くよう「指示」した場合です。この場合、社内会議に参加した部分は、使用者の義務付けに基づく業務ですから、労働時間としてカウントしなければなりません。
それでは、大阪~東京の移動部分(18:00-21:00)はどうでしょうか。会社の指示により業務場所(出張先)から業務場所(本社オフィス)に戻る以上は、移動も労働時間になってしまうのでしょうか。
しかし、会社に立ち寄らず大阪から自宅まで「直帰」する場合と、上司の指示で会社に立ち寄る場合とで、大阪から新幹線に乗って移動する時間の「実態」が何か変わるわけではありません。社内会議用の資料を急いで準備するなどの事情があれば別ですが、お弁当を食べたり、新聞や雑誌、スマートフォンを見たり、座席で睡眠をとったりと、車中での過ごし方は直帰のときと同様です。
学説上も、トラック運転手が「運転業務→フェリー乗船→運転業務」を行う場合のフェリー乗船中の時間について、その時間中の自由利用が保障されていれば労働時間に該当しない、と解されています。また、テレワークの利用者が午後に出社するよう指示を受けた場合の「自宅(業務場所)→オフィス(業務場所)」の移動について、移動中の自由利用が保障されていない場合には労働時間、とするのが行政解釈です(テレワークの適切な導入及び実施のためのガイドライン7(4)イ)。
つまり、会社指示により業務場所→業務場所の移動を行う場合でも、フェリーや電車内でどう過ごすかなど、移動中の自由利用が保障されていれば労働時間に該当するわけではないと解されています。
したがって、移動中の過ごし方に何らか制約(上司のメールや電話にレスポンスしなければならない、資料を急いで準備しなければならないなど)が掛かっていれば別ですが、直帰のときと同じような過ごし方が可能とされていれば、自由利用が保障されているとして労働時間に該当しない、と整理することができます。
労働法専門弁護士が回答! 労務管理担当者が知っておくべきFAQ集
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管理職編
筆者プロフィール
橘 大樹(たちばな ひろき)
石嵜・山中総合法律事務所 パートナー弁護士
専門分野 労働法(企業側)
慶応義塾大学法学部法律学科、一橋大学法科大学院卒業。司法試験合格後、司法修習を経て弁護士登録(第一東京弁護士会)、石嵜・山中総合法律事務所に入所。労働法を専門分野として、訴訟、労働審判、団体交渉などの紛争対応、顧問企業からの法律相談、労務DD、労基署対応などを行う。
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