労働法専門弁護士が回答! 労務管理担当者が知っておくべきFAQ集(第27回)
在宅勤務中の「ながら勤務」と隠れ残業にどう対応すればよいですか?
2020年8月(改訂:2021年4月)
Q. 在宅勤務中の「ながら勤務」と隠れ残業にどう対応すればよいですか?
在宅勤務を導入したものの、日中に私的なことをしながら勤務しているのではないか(ながら勤務)、その分を取り返そうと深夜まで仕事をしているのではないかといった課題が生じています。
A. 管理の程度が弱くなる現実を踏まえた労務管理が必要
2020年の新型コロナウイルス感染症(COVID-2019)を受けて注目を集める在宅勤務ですが、元々は、政府の働き方改革によりテレワークが推進された経緯があり、原点に立ち返って考える必要があります。
2018年2月に働き方改革の流れで発表された厚労省ガイドライン(2021年3月に改定)は、テレワークについて「労働者が使用者と離れた場所で勤務をするため使用者の管理の程度が弱くなる」といったおそれがあること等から、長時間労働による健康障害防止を図ることが求められる、と明記しています(テレワークの適切な導入及び実施のためのガイドライン)。つまり、テレワークが物理的に会社から離れた場所で働く形態である以上、会社や上長による「管理」は必然的に弱くなり、長時間労働が引き起こされやすいことを踏まえた対策が必要、ということです。
在宅勤務の運用に当たっては、まず厚労省ガイドラインに明記されたこの「現実」を踏まえなければなりません。
その上で、いわゆる「ながら勤務」に対しては、在宅勤務といえども勤務時間中は職務に専念しなければならないこと、ながら勤務は職務専念義務への違反であることを服務規律の一環として周知すべきです。育児や介護との両立を目的としたワークライフバランス型のテレワークでは、勤務中の中抜けを認める運用とすることが多いですが、それ以外のテレワーク(新たな働き方の導入、災害・感染症対策)で中抜けを認める必然性はありません。
また、在宅勤務中の勤務に問題が見られる場合には、在宅勤務の適用を「解除」するという根拠条項を在宅勤務規程に持っておき、それにより対処することも重要です。「会社は、業務上の都合、勤務状況等により在宅勤務の適用を解除することがある」といった条項です。
さらに、厚労省ガイドラインが挙げる長時間労働対策も忘れてはなりません。隠れ残業は過重労働や残業代未払いのリスクにつながりかねません。通常勤務よりも時間管理のレベルを一段上げ、時間外は事前承認制とする、休日・深夜は原則禁止とする、隠れ残業がないかPCログを適宜チェックするといった対策を検討すべきです。
労働法専門弁護士が回答! 労務管理担当者が知っておくべきFAQ集
勤怠編
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勤怠上の扱いはどうなりますか? - 第17回 会社で「学習」「研修」をした時間は労働時間になりますか?
- 第22回 出張帰りに会社に立ち寄って仕事をしたら「移動」も労働時間ですか?
- 第24回 勤怠入力とPCログとの「乖離」は何分間開いたら違法になりますか?
- 第27回 在宅勤務中の「ながら勤務」と隠れ残業にどう対応すればよいですか?
- 第30回 勤怠ルールを守らない社員を厳しく注意したいのですが、気を付ける点はありますか?
- 第31回 在宅勤務時に隠れて残業した時間を労働時間としないことは可能ですか。
- 第32回 帰宅後・休日も携帯電話での対応を義務付けたら勤務にカウントすべきですか?
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- 第35回 年休の承認制を設けることは違法ですか?
- 第36回 休日の急な顧客対応を勤怠管理上どう取り扱うべきですか?
- 第38回 月30時間の残業でも慰謝料が発生することはありますか?
- 第39回 朝9時より前に早出する社員にどう対処すべきですか?
- 第43回 自宅持ち帰り残業は労働時間になりますか?
規則・モラル編
- 第2回 副業・兼業のモデル就業規則への企業対応は必要ですか?
- 第4回 協調性に問題のある社員にどう対応すればよいでしょうか?
- 第9回 テレワークを運用する際に注意すべきことはありますか?
- 第15回 メンタル不調の社員について主治医診断書に従わなければなりませんか?
- 第16回 職場内でボイスレコーダーによる録音を行う者を処分できますか?
- 第20回 髪色や服装についてルールを作ることは可能ですか?
- 第25回 新型ウイルスに感染した疑いのある者に休業手当を支払う必要はありますか?
- 第26回 新型ウイルスへの感染リスクを理由に出社しない社員にどう対応すべきですか?
- 第33回 メンタル不調で休職した者を軽易業務で復職させる必要はありますか?
- 第37回 マスコミに「ハラスメント企業」と真実でない情報を発信した社員を解雇できますか?
- 第44回 副業・兼業を週1日やりたいという申請を認める必要はありますか?
- 第45回 フレックスタイム制で「朝9時の会議に出てほしい」と指示できますか?
- 第46回 いわゆる「シフト制」について。いつ勤務するかを特定しない雇用契約は可能ですか
- 第47回 賞与・ボーナスの金額が低すぎると申し立てられたら?
ハラスメント編
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(カスタマーハラスメント) - 第23回 上司・同僚の「マタハラ」とはどのような言動を指しますか?
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採用・解雇編
- 第3回 採用前に応募者の健康状態を確認することは違法でしょうか?
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- 第13回 労働条件通知書をメール送信で済ませてもよいですか?
- 第28回 有期雇用社員の勤務条件を期間満了時に変更することは可能ですか?
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- 第41回 60歳定年後の再雇用で処遇の大幅ダウンは違法ですか?
管理職編
筆者プロフィール
橘 大樹(たちばな ひろき)
石嵜・山中総合法律事務所 パートナー弁護士
専門分野 労働法(企業側)
慶応義塾大学法学部法律学科、一橋大学法科大学院卒業。司法試験合格後、司法修習を経て弁護士登録(第一東京弁護士会)、石嵜・山中総合法律事務所に入所。労働法を専門分野として、訴訟、労働審判、団体交渉などの紛争対応、顧問企業からの法律相談、労務DD、労基署対応などを行う。
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