労働法専門弁護士が回答! 労務管理担当者が知っておくべきFAQ集(第30回)
勤怠ルールを守らない社員を厳しく注意したいのですが、気を付ける点はありますか?
2020年11月
Q. 勤怠ルールを守らない社員を厳しく注意したいのですが、気を付ける点はありますか?
当社では、法令遵守や長時間労働の防止のため、勤怠管理システムを通じて労働時間を正確に申告するよう、社内で繰り返しアナウンスしています。時間外勤務の申告があれば、それに沿って三六協定の手続きや残業代支払いを行っています。
多くの人はこのルールに従っていますが、「面倒くさい」「時間が長くなると色々言われるのが嫌だ」などの理由から、きちんと申告しないまま残業する社員が一部見受けられます。会社ルールに反するとして注意してもよいですか?
A. 勤怠ルール違反とリスク惹起という2つの観点から注意可能
(1)労働時間の把握と企業リスク
企業は、労働者の始業・終業時刻を把握することを求められています。厚生労働省のガイドラインによれば、勤怠管理システムでの時間申告など、自己申告制をとる場合には、社員に対して、労働時間の実態を正しく記録して適正に申告するよう十分な「説明」を行うべきとされています(労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン)。
正確な労働時間を把握できていなかった場合、実際には三六協定の枠を超えた残業が行われてしまったり、本来は支払うべき割増賃金の未払いが起きてしまったりする可能性(労働基準法違反のリスク)が生じます。かつ、健康を守る職場環境づくりが社会的に求められる中、社員の長時間労働を見過ごすことにもなりかねません。
そのため、Qにある企業も、厚生労働省のガイドラインに沿って、自社の社員たちに対して「勤怠管理システムで正確な時間を申告してください」とアナウンスしているところです。
(2)本件の実務対応
それにもかかわらず、一部の社員が未申告を起こした場合、会社の勤怠ルールに反する点で問題ですし、会社に労働基準法違反や長時間労働(労働災害、安全配慮義務違反による損害賠償責任など)のリスクを負わせる点でも問題です。会社経営にとってのリスクを惹起させる行為は許し難いとして懲戒処分を検討すべき、といった役員の声を聞くことすらあります。
実務的には、勤怠ルール違反と法的リスクを惹起する行為という2つの観点から、本人に対して「会社は法令遵守のために適正な申告を求めています。実際に残業した分は三六協定や残業代の計算対象にするのできちんと申告するように」と注意を行います。その際に「今後、ルールを守らない場合には企業秩序違反として懲戒処分の対象になることがあるので改善してください」と強めの言い方をすることも可能です。
ただし、業務量から見てその社員が長時間の残業を余儀なくされる状況にある中、上司から「三六協定の枠を超えるなよ」といった圧力をかけられ、やむなく未申告の残業をせざるを得ないような状況に追い込まれていないかは気を配りながら進めるべきです。
労働法専門弁護士が回答! 労務管理担当者が知っておくべきFAQ集
勤怠編
- 第1回 PCの起動時間を労働時間としないのはなぜですか?
- 第7回 上長承認のない出勤を勤怠上どう扱えばよいでしょうか?
- 第11回 自宅やサテライトオフィスで働いている社員にWeb会議システムで打合せをした場合、
勤怠上の扱いはどうなりますか? - 第17回 会社で「学習」「研修」をした時間は労働時間になりますか?
- 第22回 出張帰りに会社に立ち寄って仕事をしたら「移動」も労働時間ですか?
- 第24回 勤怠入力とPCログとの「乖離」は何分間開いたら違法になりますか?
- 第27回 在宅勤務中の「ながら勤務」と隠れ残業にどう対応すればよいですか?
- 第30回 勤怠ルールを守らない社員を厳しく注意したいのですが、気を付ける点はありますか?
- 第31回 在宅勤務時に隠れて残業した時間を労働時間としないことは可能ですか。
- 第32回 帰宅後・休日も携帯電話での対応を義務付けたら勤務にカウントすべきですか?
- 第34回 在宅勤務後にオフィスや客先に「移動」する時間は労働時間ですか?
- 第35回 年休の承認制を設けることは違法ですか?
- 第36回 休日の急な顧客対応を勤怠管理上どう取り扱うべきですか?
- 第38回 月30時間の残業でも慰謝料が発生することはありますか?
- 第39回 朝9時より前に早出する社員にどう対処すべきですか?
- 第43回 自宅持ち帰り残業は労働時間になりますか?
規則・モラル編
- 第2回 副業・兼業のモデル就業規則への企業対応は必要ですか?
- 第4回 協調性に問題のある社員にどう対応すればよいでしょうか?
- 第9回 テレワークを運用する際に注意すべきことはありますか?
- 第15回 メンタル不調の社員について主治医診断書に従わなければなりませんか?
- 第16回 職場内でボイスレコーダーによる録音を行う者を処分できますか?
- 第20回 髪色や服装についてルールを作ることは可能ですか?
- 第25回 新型ウイルスに感染した疑いのある者に休業手当を支払う必要はありますか?
- 第26回 新型ウイルスへの感染リスクを理由に出社しない社員にどう対応すべきですか?
- 第33回 メンタル不調で休職した者を軽易業務で復職させる必要はありますか?
- 第37回 マスコミに「ハラスメント企業」と真実でない情報を発信した社員を解雇できますか?
- 第44回 副業・兼業を週1日やりたいという申請を認める必要はありますか?
- 第45回 フレックスタイム制で「朝9時の会議に出てほしい」と指示できますか?
- 第46回 いわゆる「シフト制」について。いつ勤務するかを特定しない雇用契約は可能ですか
- 第47回 賞与・ボーナスの金額が低すぎると申し立てられたら?
ハラスメント編
- 第12回 パワハラ防止法とは何か?
- 第18回 パワハラに当たるかは「受け手」の感じ方で決まりますか?
- 第19回 セクハラ事案で「女性が拒否しなかった」という弁解をどう考えるべきですか?
- 第21回 取引先からの暴言や威圧的なメール、無理難題にどう対応すべきですか?
(カスタマーハラスメント) - 第23回 上司・同僚の「マタハラ」とはどのような言動を指しますか?
- 第29回 パワハラ相談申告で本人が「調査は望まない」と述べたら?
- 第42回 パワハラは部下の態度にも原因があるのではないですか?
採用・解雇編
- 第3回 採用前に応募者の健康状態を確認することは違法でしょうか?
- 第5回 試用期間満了に伴う本採用拒否も「解雇」に当たるのでしょうか?
- 第10回 個人情報漏洩を起こした社員を懲戒解雇できますか?
- 第13回 労働条件通知書をメール送信で済ませてもよいですか?
- 第28回 有期雇用社員の勤務条件を期間満了時に変更することは可能ですか?
- 第40回 不況による退職勧奨が「違法」にならないためには
- 第41回 60歳定年後の再雇用で処遇の大幅ダウンは違法ですか?
管理職編
筆者プロフィール
橘 大樹(たちばな ひろき)
石嵜・山中総合法律事務所 パートナー弁護士
専門分野 労働法(企業側)
慶応義塾大学法学部法律学科、一橋大学法科大学院卒業。司法試験合格後、司法修習を経て弁護士登録(第一東京弁護士会)、石嵜・山中総合法律事務所に入所。労働法を専門分野として、訴訟、労働審判、団体交渉などの紛争対応、顧問企業からの法律相談、労務DD、労基署対応などを行う。
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