労働法専門弁護士が回答! 労務管理担当者が知っておくべきFAQ集(第35回)
年休の承認制を設けることは違法ですか?
2021年4月
Q. 年休の承認制を設けることは違法ですか?
社員が年休を取得する場合、勤怠管理システムを通じて上長に年休申請を行い、承認を経ることになっています。一方、年休は、労働者の権利なので本人が申請したら取得させなければならないと思います。年休について承認制を敷く当社の運用は違法なのでしょうか?
A. 違法ではないが、不承認の意味合いに注意
(1)労働法の考え方
年休は、労働基準法39条で保障された労働者の権利であり、社員が申請すれば当然に取得することができます。会社には、それを承認する・承認しないを判断する権限はありません。最高裁判決でも「年次休暇の成立要件として使用者の承認という観念を容れる余地はない」と明確に述べられているところです(最判昭48.3.2 民集第27集2号191頁)。
他方、企業実務では、勤怠管理システムにより年休につき上長承認を経る仕組みをとられていることがあります。これは労働基準法違反になってしまうのでしょうか。
ここは少しテクニカルな理解が必要です。上で述べたように会社には年休申請を不承認とする権限はなく、年休申請に対して会社が唯一行使できるのは時季変更権です。つまり、「年休取得を却下する」とは言えず、あくまで「その日に休まれると支障が出るから別の日に取得してくれ」と時季変更を主張できるにとどまります。
(2)企業の実務
企業実務で見られる承認制もこれに沿った理解が必要です。文献上も「使用者の承認・不承認はそれぞれ、時季変更権を行使しない旨の通知・時季変更権行使の意思表示としての意味を持つ」とされています(東京大学労働法研究会編・注釈労働基準法下巻721頁)。
このように、承認制をとること自体は違法ではありません。しかし、そこでの承認とは「時季変更権を行使しませんよ」という通知、不承認とは「別の日に取得してくれ」という意思表示と理解しなければならないのです。
文字通り年休取得を却下したりすることはできません。管理職の中には「こんな忙しいのに年休を取るな」と言って、部下の年休申請を却下してしまう例も見られますが、労働基準法違反となってしまいます。不承認は時季変更権行使の意味を持つものですから、代替要員確保が困難といった事情が必要になりますし、同時に「代わりにこの日に取得してくれ」と時季の変更をセットで伝えなければなりません。この点の誤解が生じないよう、経営・人事として管理職研修等を通じて正しい法知識を周知・啓発している企業もあります。
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