労働法専門弁護士が回答! 労務管理担当者が知っておくべきFAQ集(第44回)
副業・兼業を週1日やりたいという申請を認める必要はありますか?
2022年2月
Q. 副業・兼業を週1日やりたいという申請を認める必要はありますか?
ある正社員(フルタイム・残業あり)から「毎週水曜は午後に副業・兼業をしたいので午前で上がってもよいか」という申請がありました。副業・兼業の促進がいわれる中、拒否するのは難しいでしょうか。
A. 労務提供上の支障を理由に不許可とできる
(1)労働法の考え方
2018年1月に厚生労働省・副業・兼業の促進に関するガイドライン(2020年9月改定)が策定されるなど、1人の人が1つの企業に雇用されて働くだけでなく、別の企業の仕事をしたり、個人事業主として活動したりする「副業・兼業」の促進が叫ばれています。企業は、自社の社員が「副業・兼業をしたい」と申請してきたら、それを認めなければならないのでしょうか。
以前の企業実務は、副業・兼業は「一律禁止」というものでした。社員が当社以外の仕事もするなどけしからん、当社業務だけに集中せよという運用です。
しかし、法的には、職場秩序に影響しない範囲で、労働者が職場外・就業時間外に何をするかは基本自由です。(1)労務提供上の支障が生じる、(2)秘密漏洩のおそれがある、(3)競業会社への就職、(4)名誉・信用や信頼関係を損なうおそれがあるなど、職場秩序への支障が見られる場合はその副業・兼業を禁止できますが、(1)~(4)のような支障がないにもかかわらず「一律禁止」とすることはできません。
つまり、以前は、支障があれば禁止可という法律論と、支障の有無にかかわらず一律禁止という実務の間にギャップがありました。このギャップを埋め、支障の有無をきちんとチェックした上で、許可・不許可を判断する運用が求められます。
厚労省ガイドラインも、無条件に副業・兼業を促進せよとまでは述べていません。(1)~(4)のような支障の有無をチェックする運用を行えば十分です。
(2)設問に対する回答
フルタイム雇用の場合、(1)の労務提供上の支障により副業・兼業を許可しないケースは多々存在します。
フルタイム雇用であれば、月曜から金曜までの平日は9時から18時まで働く義務を負っています(労働契約上の労務提供義務)。特に正社員については、平日の9時から18時まで勤務すればよいわけではなく、相応の業務量を指示されている中、長時間労働にならない範囲で一定の残業や休日出勤を行う義務も負っています。
こうした労働契約上の「義務」に抵触する副業・兼業の申請は、(1)の労務提供上の支障を理由に禁止できます。設問のケースも、毎週水曜午後は勤務できないというのですから、労働契約上の義務との間にバッティングが生じており、不許可にできます(会社判断で任意に認める分には問題ありません)。
正社員が「副業・兼業により一切残業しない。毎日定時に帰る」というケースも同様です。相応の残業が必要である中、それを放棄して毎日定時で帰り、周囲に負担の皺寄せが出ているような場合は、労務提供上の支障を理由に不許可と伝えることが可能です。
労働法専門弁護士が回答! 労務管理担当者が知っておくべきFAQ集
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管理職編
筆者プロフィール
橘 大樹(たちばな ひろき)
石嵜・山中総合法律事務所 パートナー弁護士
専門分野 労働法(企業側)
慶応義塾大学法学部法律学科、一橋大学法科大学院卒業。司法試験合格後、司法修習を経て弁護士登録(第一東京弁護士会)、石嵜・山中総合法律事務所に入所。労働法を専門分野として、訴訟、労働審判、団体交渉などの紛争対応、顧問企業からの法律相談、労務DD、労基署対応などを行う。
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