労働法専門弁護士が回答! 労務管理担当者が知っておくべきFAQ集(第45回)
フレックスタイム制で「朝9時の会議に出てほしい」と指示できますか?
2022年3月
Q. フレックスタイム制で「朝9時の会議に出てほしい」と指示できますか?
社員にとって柔軟な働き方を実現するため、フレックスタイム制の導入を検討しています。この制度を導入すると、始業・終業時刻の選択権が社員に移るため、コアタイム外に勤務するよう求めるのはNGになるのでしょうか。
A. 上長が本人に確認してピンポイントでの勤務を求めることは可能
(1)フレックスタイム制とは何か
フレックスタイム制とは、毎日の始業・終業時刻(その日に何時から何時まで働くか)を労働者の決定に委ねる制度です。
基本、始業・終業時刻は使用者が決定するものです。例えば、使用者が就業規則に「始業・終業時刻:9時~18時(休憩1時間)」と定めれば、それに従って9時から18時まで働かなければなりません。
これに対し、フレックスタイム制を導入すれば、「昨日は9時から20時まで働いたから、今日は10時から17時までにしておこう」といった形で、労働者自身が働く時間を柔軟に決めることができます。
このように、フレックスタイム制では、始業・終業時刻の自主的決定がポイントになっています。元々は昭和62年の労働基準法改正でできた制度ですが、最近も、多様で柔軟な働き方の推進がいわれる中、ワークライフバランスや生産性向上の観点から導入する例が増えています。
(2)勤務予定表を通じた確認
問題は、フレックスタイム制を導入した場合に「この日はお客様との関係で朝9時からの会議に出てほしい」「この日は18時まで勤務してほしい」といえるかです。
勿論、コアタイム(必ず勤務しなければならない時間帯)を設定して、その枠内で業務を命じることは可能です。しかし、フレックスタイム制は始業・終業時刻の決定を労働者に委ねる制度ですから、コアタイム以外については、原則、業務を命じることができません。
とはいえ、実務上、取引先との関係でどうしてもこの時間に勤務してほしいという場面が出てきます。こうした場面への対処として、労使協定・就業規則に「従業員は、毎週金曜日正午までに、翌週の勤務予定表を上長に提出しなければならない」「会社は、業務上の必要性がある場合、勤務予定表に基づき、従業員に早出又は居残りを命じることがある」という条項を入れておくことが考えられます。
例えば、上長との間で「翌週水曜は朝9時の顧客打合せに出席する」と勤務予定表や勤怠システム上で確認し、これに基づいて朝9時の打合せ出席を求める形です。いったん勤務予定表で確認したにもかかわらず、朝9時の顧客打合せに出てこなかった場合は、上長との確認に反して業務に支障を及ぼしたことを理由に、注意・処分を行うことが可能です。
(3)設問への回答
フレックスタイム制では、毎日のように「9時から仕事しろ」「18時まで勤務しろ」と命じることはできませんが、(2)のような形で、ピンポイントでコアタイム外の勤務を求めることは可能です。
労働法専門弁護士が回答! 労務管理担当者が知っておくべきFAQ集
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管理職編
筆者プロフィール
橘 大樹(たちばな ひろき)
石嵜・山中総合法律事務所 パートナー弁護士
専門分野 労働法(企業側)
慶応義塾大学法学部法律学科、一橋大学法科大学院卒業。司法試験合格後、司法修習を経て弁護士登録(第一東京弁護士会)、石嵜・山中総合法律事務所に入所。労働法を専門分野として、訴訟、労働審判、団体交渉などの紛争対応、顧問企業からの法律相談、労務DD、労基署対応などを行う。
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