労働法専門弁護士が回答! 労務管理担当者が知っておくべきFAQ集(第46回)
いわゆる「シフト制」について。
いつ勤務するかを特定しない雇用契約は可能ですか
2022年4月
Q. いわゆる「シフト制」について。
いつ勤務するかを特定しない雇用契約は可能ですか
普通、社員を採用する際は「平日勤務9時~18時(休憩1時間)」「月水金勤務10時~16時(休憩45分)」などと、勤務日・勤務時間を特定すると思いますが、今回、業務がいつ発生するか不確定という事情があり、雇用契約上は勤務日・勤務時間を特定せず、その都度特定していく形態を考えています。このような雇用契約はそもそも可能でしょうか。また、留意事項があれば教えてください。
A. 可能だが、労働条件明示と就業規則の定めに留意
(1)法的に可能か
各企業の経営上・営業上の理由から、雇用契約書で勤務日・勤務時間(月何日働くか、何曜に何時間働くかなど)をあらかじめ特定しない働き方は可能か、という相談を受けることがあります。
結論から言えば、そのような働き方は可能です。労働法上、雇用契約書では勤務日・勤務時間を具体的に特定せず、その都度特定していくという形は特に禁止されておらず、許容されます。
(2)労働条件通知書、就業規則の定め方
ただし、労働条件明示と就業規則の定めに留意を要します。労働契約の締結に際しては「始業及び終業時刻」「休日に関する事項」を明示しなければなりません(労働基準法15条)。これらの事項は、就業規則の絶対的必要記載事項でもあります(同法89条)。
そのため、労働条件通知書、就業規則において、単に「その都度指定する」「シフトにより特定する」とだけ定める形では不十分です。勤務日(休日)と勤務時間は「その都度指定する」「シフトにより特定する」と定めるのに加えて、基本的考え方や原則的なパターンも付記しなければなりません。
2022年1月、厚生労働省は、シフト制(労働契約の締結時点では勤務日や勤務時間を確定的に定めず、勤務割や勤務シフトなどで初めて具体的な勤務日や勤務時間が確定するような形態)についての行政解釈を発表していますが、その中でも同様の解釈が示されています(いわゆる「シフト制」により就業する労働者の適切な雇用管理を行うための留意事項)。
(3)プラスアルファの検討事項
上述の行政解釈は、「労働契約に定めることが考えられる事項」と題して、
- シフト作成時に事前に労働者の意見を聴取すること
- シフトの通知期限(毎月○日)、通知方法(電子メール等)
- シフト変更時のルール(期限や手続)
- 設定される日数、時間数、時間帯(毎週月水金の中から指定する)
- 目安となる日数、時間数(月○日程度、週平均○時間程度)
などのルールを定めておくことが考えられる、としています。もっとも、これらは常に必須の事項というわけではありません。トラブル防止のために任意的に定めることも検討される事項という位置づけです。各企業の実情に応じて検討する形で十分です。
労働法専門弁護士が回答! 労務管理担当者が知っておくべきFAQ集
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管理職編
筆者プロフィール
橘 大樹(たちばな ひろき)
石嵜・山中総合法律事務所 パートナー弁護士
専門分野 労働法(企業側)
慶応義塾大学法学部法律学科、一橋大学法科大学院卒業。司法試験合格後、司法修習を経て弁護士登録(第一東京弁護士会)、石嵜・山中総合法律事務所に入所。労働法を専門分野として、訴訟、労働審判、団体交渉などの紛争対応、顧問企業からの法律相談、労務DD、労基署対応などを行う。
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