労働法専門弁護士が回答! 労務管理担当者が知っておくべきFAQ集(第48回)
これからの管理職に求められるものは何ですか?
2022年6月
Q. これからの管理職に求められるものは何ですか?
当社の管理職に対し、現代の社会情勢に合わせてコンプライアンスを遵守したマネジメントをしなければならないという意識を持ってもらうにあたり、どのようなことを伝えるべきでしょうか。
A. 労働法と職場の健康・労働環境を守る力
(1)管理職の職責とは何か
管理職の役割は、部下の信頼を得てチームを率い、部下への指示・助言を行いながら、担当部署の業務を管理して成果を出すことである。管理職の職責についての一般的な理解はこのようなものと思われます。
しかし、管理職の職責・役割はそれだけではありません。管理職は、労働法を守り、職場の健康・労働環境が害されるのを防止する責務も負っています。
そもそも、労働法を守らなければならない「使用者」とは、法人としての企業(事業主)だけでなく、部下への指揮監督権限を有する者(事業主のために行為をするすべての者)も含まれます(労働基準法10条)。つまり、現場の管理職も、労働法遵守の責任を負う「使用者」なのです。
最高裁判例も、管理職(業務上の指揮監督権限を有する者)は、労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意しながら指揮監督権限を行使するべきと判示しているところです(最高裁平12.3.24民集第54巻3号1155頁)。
(2)職場の環境問題とサステナビリティ
いま、労働法において最も重要なのは、長時間労働やパワハラをなくし、健康に働ける職場環境を作ることです。
2017年3月の働き方改革実行計画は、厳格な労働時間管理とパワーハラスメント防止によって「労働者が健康に働くための職場環境」を整備しなければならないと宣言していましたし、最近のトピックでいえば、2021年6月改定の東京証券取引所のコーポレートガバナンス・コードは、「上場会社は、社会・環境問題をはじめとするサステナビリティを巡る課題について、適切な対応を行うべきである」との基本原則を掲げた上で、プライム市場・スタンダード市場において求められる補充原則として「従業員の健康・労働環境への配慮」を定めています。
サステナビリティ(持続可能性)という課題のもと、気候変動やエネルギー資源といった巨大な地球規模の環境だけでなく、各職場内というミクロの環境(労働者が健康に働ける職場環境)も整えなければならない、ということです。
(3)設問への回答
少し前まで、できる管理職のイメージは、バリバリ働いて成果や数字を上げるものであったかも知れません。勿論、仕事において一定の厳しさは必要です。しかし、それが行き過ぎるあまり、部下の健康・労働環境を損なうようなことがあってはなりません。
これからの管理職は、現場の業務を管理して成果を上げる力に加え、その前提として労働法と職場の健康・労働環境を守る力を求められます。それが部下からの信頼にもつながるはずです。
企業の管理職研修では、法律の条文や最高裁判例などを根拠に示しながら、(1)労働法を遵守した労務管理も管理職の職責であること、(2)部下の健康・労働環境を損なうマネジメント(長時間労働やパワハラ)は管理職としての評価に響くことを周知・啓発すべきです。
労働法専門弁護士が回答! 労務管理担当者が知っておくべきFAQ集
勤怠編
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- 第7回 上長承認のない出勤を勤怠上どう扱えばよいでしょうか?
- 第11回 自宅やサテライトオフィスで働いている社員にWeb会議システムで打合せをした場合、
勤怠上の扱いはどうなりますか? - 第17回 会社で「学習」「研修」をした時間は労働時間になりますか?
- 第22回 出張帰りに会社に立ち寄って仕事をしたら「移動」も労働時間ですか?
- 第24回 勤怠入力とPCログとの「乖離」は何分間開いたら違法になりますか?
- 第27回 在宅勤務中の「ながら勤務」と隠れ残業にどう対応すればよいですか?
- 第30回 勤怠ルールを守らない社員を厳しく注意したいのですが、気を付ける点はありますか?
- 第31回 在宅勤務時に隠れて残業した時間を労働時間としないことは可能ですか。
- 第32回 帰宅後・休日も携帯電話での対応を義務付けたら勤務にカウントすべきですか?
- 第34回 在宅勤務後にオフィスや客先に「移動」する時間は労働時間ですか?
- 第35回 年休の承認制を設けることは違法ですか?
- 第36回 休日の急な顧客対応を勤怠管理上どう取り扱うべきですか?
- 第38回 月30時間の残業でも慰謝料が発生することはありますか?
- 第39回 朝9時より前に早出する社員にどう対処すべきですか?
- 第43回 自宅持ち帰り残業は労働時間になりますか?
規則・モラル編
- 第2回 副業・兼業のモデル就業規則への企業対応は必要ですか?
- 第4回 協調性に問題のある社員にどう対応すればよいでしょうか?
- 第9回 テレワークを運用する際に注意すべきことはありますか?
- 第15回 メンタル不調の社員について主治医診断書に従わなければなりませんか?
- 第16回 職場内でボイスレコーダーによる録音を行う者を処分できますか?
- 第20回 髪色や服装についてルールを作ることは可能ですか?
- 第25回 新型ウイルスに感染した疑いのある者に休業手当を支払う必要はありますか?
- 第26回 新型ウイルスへの感染リスクを理由に出社しない社員にどう対応すべきですか?
- 第33回 メンタル不調で休職した者を軽易業務で復職させる必要はありますか?
- 第37回 マスコミに「ハラスメント企業」と真実でない情報を発信した社員を解雇できますか?
- 第44回 副業・兼業を週1日やりたいという申請を認める必要はありますか?
- 第45回 フレックスタイム制で「朝9時の会議に出てほしい」と指示できますか?
- 第46回 いわゆる「シフト制」について。いつ勤務するかを特定しない雇用契約は可能ですか
- 第47回 賞与・ボーナスの金額が低すぎると申し立てられたら?
ハラスメント編
- 第12回 パワハラ防止法とは何か?
- 第18回 パワハラに当たるかは「受け手」の感じ方で決まりますか?
- 第19回 セクハラ事案で「女性が拒否しなかった」という弁解をどう考えるべきですか?
- 第21回 取引先からの暴言や威圧的なメール、無理難題にどう対応すべきですか?
(カスタマーハラスメント) - 第23回 上司・同僚の「マタハラ」とはどのような言動を指しますか?
- 第29回 パワハラ相談申告で本人が「調査は望まない」と述べたら?
- 第42回 パワハラは部下の態度にも原因があるのではないですか?
採用・解雇編
- 第3回 採用前に応募者の健康状態を確認することは違法でしょうか?
- 第5回 試用期間満了に伴う本採用拒否も「解雇」に当たるのでしょうか?
- 第10回 個人情報漏洩を起こした社員を懲戒解雇できますか?
- 第13回 労働条件通知書をメール送信で済ませてもよいですか?
- 第28回 有期雇用社員の勤務条件を期間満了時に変更することは可能ですか?
- 第40回 不況による退職勧奨が「違法」にならないためには
- 第41回 60歳定年後の再雇用で処遇の大幅ダウンは違法ですか?
管理職編
筆者プロフィール
橘 大樹(たちばな ひろき)
石嵜・山中総合法律事務所 パートナー弁護士
専門分野 労働法(企業側)
慶応義塾大学法学部法律学科、一橋大学法科大学院卒業。司法試験合格後、司法修習を経て弁護士登録(第一東京弁護士会)、石嵜・山中総合法律事務所に入所。労働法を専門分野として、訴訟、労働審判、団体交渉などの紛争対応、顧問企業からの法律相談、労務DD、労基署対応などを行う。
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