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特集

過重労働を防ぐには。企業の働き方を考える

2018年12月

過重労働を防ぐには。企業の働き方を考える

世間では働き方改革が進んでいるが、顕著な成果が表れた企業はまだ少なく、過重労働を強いられている従業員は依然として多い。この状況に政府も危機感を強め、2017年11月に啓発のための「過重労働解消キャンペーン」を行うなど、過重労働の防止に取り組んでいる。総務人事が中心となって、過重労働を防ぐためにどのような対策を取るべきか、事例などを踏まえて説明する。

過重労働改善の動きが進む

企業では働き方改革に向けた意識が広がり、政府も「働き方改革関連法案」の制定を進めるなど本気の姿勢を見せている。その働き方改革の柱の一つが長時間労働是正だ。社会全体で見れば長時間労働を改善する方向で進んでいることは間違いない。しかし実態を見れば、大手企業の過労死が社会問題化してメディアを騒がせたこともあり、注目度は高まっているものの、現実的に過重労働はまだまだなくなっていない。

ところで長時間労働は何時間以上のことを言うのだろうか。労働基準法では法定労働時間を原則1日8時間以内かつ週40時間以内と定め、休憩時間(労働時間が6時間超で45分以上、8時間超で1時間以上)や休日(毎週1日以上または4週を通じて4日以上)についても同法で決められている。長時間労働とは、この定められた上限時間を大幅に超えて残業する法定外の労働時間のことを言う。そして、この長時間労働などにより、身体的、精神的に過度な疲労やストレスを追わせる労働を一般的に過重労働と言われている。

現実としては、業種の特性や業務内容にも関わってくるが、過重労働が強いられているというケースは少なくない。法定労働時間を超えた労働をさせる場合、企業は労働者との間で労働基準法36条に基づく時間外労働協定、いわゆる「36(サブロク)協定」を結ばなければならない。これにより、ある程度の残業(一般的な場合、1カ月45時間以内など)をさせることが法的に可能となる。もちろん法定労働時間を超えた残業について、企業は労働者に割増賃金を支払わなければならない。

とはいえ36協定を締結すれば無制限に時間外労働をさせてよいわけではなく、延長時間は労働者との間で決めておく必要がある。どの程度の延長が可能かについて労働基準法では定められていないが、一般的に週15時間以内、月45時間以内、年360時間以内といった基準が厚生労働省によって示されている。

過重労働によってうつ病、最悪の場合は過労死も

過重労働はストレスを生み、うつ病をはじめとする精神への影響をもたらす。最悪の場合、過労死に至るケースもあることは周知の通りだ。仮に過労死まで至っていないとしても、うつ病やそれに伴う長期休業・離職を強いられる労働者は増加傾向にある。また、過剰な疲労や睡眠時間不足により心身に不調をきたす可能性もあるだろう。

長い労働が直接的にもたらす悪影響以外に、プライベートの時間が減ってしまったり、日常生活で余裕がなくなってしまったりといった間接的な悪影響も心身のトラブルにつながりかねない。企業としても、労働に伴う精神・身体のトラブルに関するケアを強めるべきであることはいうまでもないが、そもそもの原因である過重労働自体の改善にはより力を入れて取り組むべきだ。

36協定による残業が法律で認められているので、法定労働時間を超えたものが即、過重労働であるとはいいがたい。36協定を締結してさえいれば、長時間労働自体が違法とはいえないわけだ。

とはいえ、従業員の心身への悪影響を防止するため、時間外労働時間の目安は必要だろう。そこで厚生労働省では、過重労働の認定基準として週80時間の時間外労働を目安と考え、脳・心臓疾患の発症前2カ月間ないし6カ月間に概ね週80時間を超える時間外労働があった場合、業務と発症の関係性が強いとしている。さらには、より短期間で、脳・心臓疾患の発症前1カ月間に概ね週100時間を超える時間外労働があった場合も同様に過重労働と考えている。こちらの基準は一般に危険ラインとも呼ばれている。

厚生労働省は実際に2017年1月、月に80時間を超える時間外労働をさせた企業に対して行政指導を実施した。同年11月には長時間労働削減の流れを推進するため「過重労働解消キャンペーン」も実施し、過重労働防止の啓発と改善に取り組んでいる。継続的に長時間の残業をさせている企業は過重労働と見なされる可能性があるため、企業としても注意が必要だ。過重労働と認定された場合は罰則が科されることもある。

長時間働くことが美徳の時代は終わった。残業を無くすための工夫を考える

かつての日本企業では長時間働くことが美徳とされた時代もあったが、現在もその考え方が通用するわけではない。大幅な残業を強いれば心身のトラブルが起こり得る以前に、従業員の意欲が減退し、生産性はむしろ下がってしまうだろう。まずは残業を当たり前とする風潮を改めるとともに、労働時間の削減に注力すべきだ。

とはいいながら、とりわけ人手不足が深刻な中堅企業では、時間外労働を完全になくすことは難しいだろう。業種によっては特定の時期に業務が集中し、残業を強いなければならないケースもある。

そこで、まずは従業員がどれくらいの時間外労働をしているか、どのような働き方をしているかをきちんと把握することが重要だ。残業が当然のこととして行われている、あるいは増加傾向にあるようなら、従業員の残業に対する意識や職場の慣行を改めることが求められる。定時退社を推進し、その上でどうしても必要のある残業については、その必要性に対する理解を浸透させるべきだ。

こうした実態把握と意識周知の後、業務自体に長時間の労働を生む要素があれば、業務の見直しを行う。また、人員不足により特定部署に負担が集中しているケースでは、適切な人員配置を検討すべきだろう。残業を事前申請にすることも有効だ。不要な残業を無くすだけでなく、どのような理由で残業が発生しているかデータをとることもできる。そのほかには、管理職の人事評価に部下の残業時間を組み込むという方法もある。部下の残業を管理職自身の自分ごとにすることで、残業削減にさらに真剣に取り組むようになるだろう。さらに、業務のローテーション制にすれば、仕事がある一人に一極集中しても他の社員が助けることができ、過度な残業も減らすことができる。有給休暇の取得を推進したり、ノー残業デーを実施したりといった対策も有効だ。

心身のトラブルを未然に防ぐため、産業医との面接を定期的に行う対策も考えられる。産業医面接は厚生労働省が推進する過重労働対策の一つだが、基本的に面接は本人の希望があった場合に行うこととなっている。しかし企業の風土や本人の性格によっては自分から言い出しにくいケースも多いため、会社側が主導して面接を受けさせる配慮が必要だろう。

組合と企業で時間外労働について協議している例も

それでは、過重労働対策に成功している企業の例を見ていこう。

港湾運送業などを行うある企業では、顧客を巻き込んだ業務効率化や改善を実施。自社のコスト削減や業務効率化が図れるとともに、顧客のコスト削減につながるような提案を行った。具体的には、顧客とやり取りする書類の書式を自社と同じにしてもらうように提案。その結果、自社と顧客両方ともに内容整理や確認の時間が低減され、両社の業務効率化、労働時間削減につながっているという。

また、印刷業を行うある企業では、時間外労働に関して組合と企業で時間外労働をどのように削減するかを毎月協議し、対策を検討し、各種取り組みを実施している。労使が取り組みに参画することで、企業からの一方的な施策ではなく、従業員の意見を汲んだ取り組みとして認識され、対策もスムーズに取り入れてもらえるという。その一つとして、毎週水曜日にノー残業デーを設定。ノー残業デーの実施をきっかけに、「早く仕事を終わらせて帰る」という意識が浸透。結果、業務効率化が進み、時間外労働の削減につながった。

このほか、残業を行う際は申請制とし、一定回数以上の残業を行うとペナルティを科すルールを導入して過重労働削減に成果を上げた企業もある。従業員の多くはそれぞれ時間の使い方を工夫して定時に帰宅するようになったが、これはペナルティを避けるためというより、自分がどれだけ残業しているかを意識するようになったことが大きな理由だという。

過重労働対策は、企業の経営層がまず労働時間削減に向けた意識を強く持たなければならないテーマだが、総務人事としても経営層が打ち出した方針の意義をしっかりと理解することが大切だ。その上で、改善に効果のある施策を提示・推進していくことが重要な仕事となるだろう。また、これらの対策は、ただ単に労働時間を削減するということではなく、新しい働き方を従業員に提示するという側面もある。効率的で新しい働き方ができる環境や方法を用意することで、従業員のモチベーションやエンゲージメントが高まり、結果として企業としてもメリットを得ることができるだろう。

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