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情シス奮闘記 中小企業編

第13回テーマ 「IoT」(後編)

2018年3月

中小企業でIoTの導入・活用するにはどうすればいいの?

前回、同僚・加藤彩との対話を通して、中小製造業におけるIoTの課題がだんだんつかめてきたアミダ社の情シス担当、中村和人。「製造業にとってのIoT導入の意義は、まずはプロセス改善が目的。稼働状況やメンテナンス状況を“見える化”することが重要だ」という認識をもつようになった。続いて彼が取った行動は、中小企業におけるIoTの導入事例を調べることだった。

生産性向上を目的にしたIoT導入。改善ポイントを明確に

IoT やビッグデータ、AI などの技術が集積して展開される第 4 次産業革命によって、ものづくり産業の在り方が変わり始めている。日本でもこの数年、IoTを活用する企業が増えてきた。ビジネス系の新聞や雑誌も毎号のように記事にしており、経産省などの官庁もIoTの動向を調べた報告書を発行している。

中村はそのいくつかを入手し、事例の分析を始めた。なかでも中村が注目したのは、生産性向上を目的にした中小製造業における導入事例だ。生産性向上と一口にいっても、改善ポイントは現場作業改善、工程管理、品質確保、事務作業効率化、技能継承・脱属人化、経営改善など多岐にわたる。

その一つに、金型の仕上げ加工工程の一つである熱処理で、歪みを極小に抑える独自技術をもつO社の事例があった。

その工場には熱処理炉があるが、夜間も休みなく運転している。しかしトラブルで熱処理炉が止まることは珍しくない。炉が止まると、製品劣化や納期遅延に直結してしまう。

「そのため、これまでは夜間でも社員が常勤で、熱処理炉の稼働状況を確認していたんだって」

と、中村は加藤相手に事例の概要を説明する。

「それは大変ね。何かいい手立てはなかったのかしら」と加藤。

「そこでIoTの登場なんだ。この会社では熱処理炉メーカーと共同で、既設や新規の熱処理炉をIoT化し、スマートフォンでリアルタイムに炉内の細部の状態を監視し、異常時には緊急停止できる仕組みを作ったんだって」

「わぁ、すごい」

「この会社がすごいのは、たんに製造工程の中核部分をIoT化するだけでなく、それにあわせる形で営業業務のIT化も推進したこと。受注作成表や納品・請求書発行などをデジタル化して、インターネット回線を介して本社に伝送する仕組みを導入したんだ」

「実際、どういう効果が出たのかしら」

「まず、夜間・休日に熱処理の稼働確認のためだけに社員が出勤する必要がなくなった。どこにいてもスマートフォンで稼働状況がわかるからね。それと、IoT化によって熱処理の温度調整などの実績がデータとして蓄積されるようになったことも大きい。今まで経験と勘に頼りがちだった温度調整をデータ化することで、製品品質と温度の関係がよりクリアに見えるようになったんだってさ」

「これは一種のビッグデータ活用ということかしら」

「データの蓄積が進めば、より精緻な分析ができるようになるだろうね。もちろん、単にデータを集めればいいというだけでなく、分析ノウハウの確立も重要になるだろうけれど」

「営業業務のIT化と、熱処理炉のIoT化はどういう相乗効果があったんですか」

「ある受注案件で、こういう部品をこのように加工してほしいという依頼があるよね。これまでは受注伝票がFAXで送られてきたのを、メールで受信するようにしたんだ。受注データや納品・請求書発行などもデジタル化することで事務の作業効率が格段に向上した。この部分をこの会社はIT化と呼んでいるようだ。さらに、実際の加工状況、例えばどのぐらいの温度で何秒間、加工したかなどの実加工データを、センサーなどを使って自動収集するというのがIoT化だね。受注・加工・納品の全工程に渡って、デジタル化されたデータは共有されているから、それらを突き合わせて検討することが簡単になる。単純に考えても、紙ベースの帳票を工程ごとに回す必要がなくなるから、作業工程の改善、納期の改善につながるんじゃないかな」

ものづくり産業支援のための公的補助金。その活用も視野に

同様な事例には、自動車部品や医療部品を射出成形で製造している従業員50名規模の会社の例があった。

ここでも、これまで様々な情報管理を紙で行っていたものをデジタル化した。さらに、各機械の稼働状態を追跡でき、直近、数カ月の注文・生産データを分析できるIoT活用の生産管理システムを導入した。

「こういう工場って、機械が複数あるし、それぞれのメーカーも違いますよね。どうやってそれを横断的に一括管理できるのかしら」

加藤の疑問は当然だ。

「成形機メーカーの展示会で、複数のメーカーの射出成形機と接続できる生産管理システムを開発しているITベンダーと出会ったことが大きいと書かれているね。そのシステムは具体的には成形機が稼働しているときの信号を取得して、どの製品が何をどの程度作っているかが、リアルタイムにデータとして残せるんだって。そのデータを作業者の一人ひとりがタブレット端末で確認できるようにもなっているんだよ」

「へえ、そんなシステムがあるんですね」

「最初はその会社のパッケージを標準仕様のまま導入していたんだけれど、その後は徐々にカスタマイズを重ねていったらしい。小さな会社であればあるほど、工程は独自のものがあるからね。ITベンダーと二人三脚で自社の状況に合ったシステムを作り上げる姿勢というか熱意は、僕たちも見習う必要があるよ」

「どんなシステム会社を選ぶかも、IoT活用では重要な鍵を握るということなんですね。ところで、IoT化するといっても、やはりコストがかかるでしょう。その効果はわかっても、中小企業にはなかなか手の出せないシステムもありますね」

中村が手にしている事例集でも、コストをどのように捻出したか、中小企業ならではの苦労に触れているものは少なくなかった。

「一つには、IoT化のための部品の工夫だね。今は機械に取り付けるセンサーもずいぶん安くなったとはいえ、まだ高価。専用の装置を導入するとなると気が重い。そこで中古のiPod Touchを大量に仕入れて、それをセンサー代わりにしたという企業もあるよ。創意工夫が重要だということだね」

一般に製造業のIoTに必要なものは、加工機などの機械・装置、それに取り付けるセンサー、それぞれの機器の間をつないだり、データを企業内のPCに集めるためのネットワーク、さらに大量のデータを集積するためのクラウドなどのストレージ、データを分析する基盤となるソフトウェアなどが必要になると言われる。

一つひとつを吟味してシステムを一から構築するのはそう簡単なことではない。事例を調べていくと、中小企業向けをうたうIoTシステムやプラットフォームもずいぶん登場していることがわかる。分析基盤のクラウド利用権やデータ解析のためのアプリケーションなどをセットで提供する例が多い。

「これならソフトウェアのかなりの部分はベンダーにお任せして、事業者はすぐにIoTの実証実験をスタートさせることができそうなんだ。しかも、こうしたソフトウェアやプラットフォームの使用料は思ったほど高くないんだ。それでもなるべくコスト負担は抑えたい。そこで多くの企業がIoT導入では、国や地方自治体の中小企業向けの補助金を活用したりしている」と、中村。

「あっ、ものづくり産業支援みたいなやつですね、アミダ社のある地域でもどういう補助金があるか、一度調べてみる必要がありますね」と、加藤は応じた。

“まずは隗より始めよ”——現場の知恵を活かすIoT実践へ

「いくつか他社の事例を検討していると、我が社でもどういうことをやるべきか、そのためには何を改善しなくちゃいけないかが、だんだん見えてきたよ」と、中村は言う。

「例えばどういうことですか」

「一つには、当たり前だけれど、現状の解決すべき課題をしっかりと認識すること。いきなりシステム導入という前に、例えば紙や口頭で共有されている情報をデジタル化、データ化して見える化することからスタートしたほうがいい場合もあるからね」

「まずは“隗より始めよ”ですか(笑)」

「それと、すべての現場作業者がIoTに慣れているわけじゃないから、現場作業者にも理解の得られる仕組みや導入方法が大切なんだということがわかった」

「ですよね。うちの工場のオジサンたちにいきなりIoTっていっても、何の話? ってことになりかねません。これまで慣れ親しんだ工程を変えるのはけっこう抵抗があるらしいですね」

「何より大切なのは、単に効率化だけでなく、IoTは新しいビジネスチャンスにつながるという視点なんだ」

「あっ、そうか。IoTで複数の企業をつなぐことができれば、これまで以上に大きな受注を取れるということもありそうですね」

「それとね……」

と最後に中村は声を潜めた。

「IoTが成功するかどうかって、けっこう経営トップの判断にかかっているみたい。特にうちみたいな中小企業は。IoTを活用して課題解決しようとする意識の高い経営者の存在が鍵になる、と報告している事例集もあるぐらいだよ」

「その点、うちはどうですかねえ」と、加藤は社長室のある方向へ顔を向けた。

「ま、IoTのことを調べろと言い出したのは、そもそも江窪社長だからね。関心はあるみたい。ただ僕らの報告を聞いて、『はい、それで終わり』じゃ意味がない。失敗を恐れずまずは小さなところからトライしてみること。それを社長には強く進言するつもりだよ」

中村は語気を強めるのだった。

今回のポイント

  • 中小企業のIoT実践例については、多くの記事や報告書が出ている。自社導入の前にそうした資料を参考にしたり、実際に工場見学を行ったりすることは必須。
  • IoT導入では、自社にIT人材が豊富にそろっていない限り、外部のITシステムベンダーとの二人三脚的な協業が欠かせない。
  • トップダウンのシステム導入ではなく、現場の人も納得するIoT導入が重要。
  • 経営トップの先を見越した経営判断、現場の若手のチャレンジ精神こそ日本型のIoT導入の成功の鍵を握っている。
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