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情シス奮闘記 中堅企業編

第2回 テーマ「中堅企業のクラウド移行」

2019年2月

中堅企業のクラウド移行 運用担当者の悩みは「何からスタートすべきか」

クラウド、IoT、AIなど情報システム部門が対応すべき課題は多いものの、社内のIT部門は人手不足が深刻だ。重要なタスクをほとんど一人でこなさなくてはならない企業も多く存在している。従業員500人規模の製造業企業「ライゾウ社」ではトップダウンでITコスト削減と企業競争力強化という2つの命題の両立が求められていた。クラウド活用を思いついた情シス担当役員・高橋博は、さっそくクラウド活用にあたっての具体的な対応を担当者の上野紘司に命じるのだったが……。

中堅企業のクラウド化―——サーバOSサポート切れをきっかけに

先週末に情シス担当役員・高橋博の秘書・本田遙から上野紘司に届いた社内メールには、「高橋役員が至急お会いしたいそうです。なんでも、人手が少なくても効率的にシステムを開発したり、運用するために、社内のITシステムをクラウドに切り替えるべきではないかとお考えのようで、来週早々、打ち合わせがしたいとおっしゃっています」とあった。

もちろん、上野もクラウド化が、現在のそして今後のITシステムのキーワードであり、その取り組みが喫緊の課題であることは承知している。大企業では基幹システムも含めてそれまでのオンプレミスのシステムを全面的にクラウドに置き換える動きが加速化しているという話はよく聞く。大企業はIT投資額も大きく、クラウド化によるコストメリットも大きい。その動きは業種を問わず広がっているようだ。

ただ、従業員500人規模のライゾウ社のような中堅企業では、まだまだその動きは鈍いようにも感じていた。予算が限られており、クラウド化によるコストメリットを十分享受できないと考える企業が多いのかもしれない。

とはいえ、ライゾウ社が使っている期間システムのオンプレミスサーバは、OSがWindows Server 2008/R2というもの。2020年1月にマイクロソフトの延長サポート期限が切れることは、上野も承知していた。これ以降は、セキュリティ更新を含む更新プログラムが提供されなくなる。システムに脆弱性が発見されれば重大な問題につながる可能性もある。システム更新は必至なのだが、それを機会にサーバをクラウド化することについて、上野は考えていないわけではなかった。

「ただ、クラウド化するにしても、現状のシステム構成のままクラウドに移行できるかどうか、ちょっと不安だ。高橋役員はどこまでのことをお考えなのだろう」

上野は、高橋の構想を図りあぐねていた。

それと同時に、「何のためのクラウドなのか」というポイントも重要だと思った。まさにその話が翌週の役員との議論のテーマにもなったのだ。

「役員は単にITコスト削減のためにクラウドが重要だとお考えなのでしょうか」

月曜朝の役員室。クラウド化の目的について、上野はおそるおそる話を切り出した。

「いや、たんにコストを削るのが目的じゃないよ。もちろん、それもあるけれど、資産や保守体制を社内に持つ必要がないと思ってね。つまりオンプレのサーバのお守りをする必要がなくなるから、君たち情シスは本来のシステム開発や企画立案などの仕事に専念できるようになるはずだ。クラウドならシステムの変更にも柔軟に対応できるようになるだろうし、なによりこれは君たちの働き方改革にもつながるんじゃないかと思うんだよ」

高橋は話を続けた。

「それに近頃、大規模な自然災害が増えているだろう。当社の本社ビルだって耐震補強をしているとはいっても築30年も経っていて、今後起こるかもしれない大地震が不安で仕方がないんだよ。2011年の東日本大震災のときも、サーバが使えなくなるんじゃないかとヒヤヒヤしたろう。つまり、災害からデータを守って、事業を継続するBCP対策としても、クラウド化は有用なんじゃないかとも考えているんだ。クラウド化のタイミングとしては、来年早々Windows Serverのサポートが切れるのがよい機会かなと思ってね」

「なるほど」と上野は思った。

「ま、そのあたりを考えて、クラウド化について検討して欲しいわけだよ。頼むよ、来週の連休明けまでに、簡単でいいからレポートをまとめておいてくれないか。それじゃ、僕は会議があるから」

と言うと、高橋役員はあっという間に席を立ってしまった。

(えっ、今回も俺に丸投げ?)と上野は心の中で思った。高橋役員の構想はいつも雄大だが、細かいことになると、いつも自分に丸投げなのだ。

「大変なことになりましたね」

上野の呆然とした表情を見て、役員秘書の本田遙が声をかけてくれる。

「うん。高橋役員はいつもこうだからね。ただ、クラウドについては僕なりに以前から調べていたことはいたんだ。その知識が役に立つといいんだけれど……」

コスト削減、BCP対策……クラウド化のメリット・デメリット

高橋役員はクラウド化のメリットばかりを語ったが、デメリットについても検討しておく必要がある。

例えば、BCP対策を一つとってもクラウドはシステムやデータを外部サーバに分散保管するわけだから、たしかにリスク分散につながる。しかし通信回線に大規模な障害が発生するとサービスの復旧が遅れる。一方、オンプレミスは自社サーバさえ堅牢であればリスクは小さいが、ビル自体の停電や倒壊という事態になったらもうアウトだ。

「上野さん、ビルが壊れちゃうことも考えているんですか」

役員が去った後、上野の話相手になってくれたのは、本田だった。

「あくまでも、最悪の想定だよ(笑)。ただ、そういう場合に備えて、オンプレとクラウドのハイブリッド運用という体制も考えないといけないな。基幹システムをクラウド化するにしても、バックアップ体制を完備することは欠かせないだろうな」

「役員はコスト削減のことも言っていましたけれど、クラウドって安いんですか」

「うーん、これは調べないとわからないんだけれど、一般的には、クラウドの初期導入コストは安くなっているので、導入そのものにそれほどコストはかからないと思うんだ。運用コストも業務内容によるとは思うけど、ネットワークやサーバなどのシステム維持コストの負担が小さくなるから、全体としてはかなり削減されるだろうね」

「でも、コスト問題は、クラウド化で業務効率が改善されるかどうかという観点と一緒に考えないといけないんじゃないかしら。オンプレのサーバ費用が要らなくなったからといって、クラウド運用がうまくいかなくて、かえって業務負担が増加すれば、元も子もないでしょう」

本田がかなり的確に突っ込んでくるのに、上野は驚いた。

基幹系システムをまるごとクラウドに移行? 検討すべき課題は何か

ほかにもクラウド導入にあたっては、検討しなければならない課題がいくつもある。クラウドといってもさまざまなタイプがある。どこまでクラウドに預けるかによって、呼び方も異なる。

例えば、仮想サーバ、共有ストレージなどのITインフラを、外部サービスとして利用する場合は「IaaS=Infrastructure as a Service」と呼ぶのが一般的だ。これに対して、アプリケーションソフトが稼動するためのハードウェアやOSなどのプラットフォーム一式を利用する場合は「PaaS=Platform as a Service」、さらにこれまでパッケージ製品として提供されていたソフトウェアを、インターネット経由でサービスとして利用するというだけなら、「SaaS=Software as a Service」ということになる。

「当社の基幹システムの運用状況からすると、どのタイプのクラウドを選んだらよいのかなあ。ま、役員は基幹システムを可能な限り移行したいと言っているわけだから、IaaSってことになるか。ま、呼び方はたいした問題じゃないけれどな……」

上野は独り言のように呟いている。考え事に集中すると、目の前の相手のことをふと失念してしまうのが、上野の悪い癖だった。

そんな上野に水を浴びせるように、本田は鋭い一言を放つ。

「最終的にはどのベンダーを選定するかも重要ですよね」

「えっ、あっ、そうそう、それももちろんだ」

本田は自分のスマホで調べたベンダーの検索結果を見せてくれた。

「ベンダーってたくさんあるんですね」

「そうなんだよ。国内外でかなりのベンダーがあるんだけど、IT系のニュースを見たりすると、海外ベンダーのクラウドがよく導入されているみたいなんだ。でも、国内ベンダーの存在も無視はしたくないし……。うーん。レポートでは、それぞれのコストやセキュリティ比較もしなくちゃいけないな。来週までにって、役員は言ってたけど、できるかなあ」

「たんにデータをクラウドに預かるというだけじゃなくて、アプリケーションの運用とかネットワーク、セキュリティのノウハウも必要じゃないかしら。そういうことをまとめてやってくれるベンダーがいいですよね。全部やってくれないと上野さんたちの負担軽減にならないですし…。でも、そんなことを考え出すと、上野さん、また忙しくなっちゃいそう。今週の部活にも顔を出せそうにない?」

「うーん、ゴメン。考えれば考えるほど、調べなくちゃいけないことが増えてきそうだ。でも、それが本来の僕の仕事。久しぶりに腕のふるい所さ」

上野は本田に余計な心配をかけまいと、務めて笑顔を返すのだった。

上野が導入しようとしているIaaSのメリット

  • 初期費用が不要:申し込みや各サービスの利用開始に当たり、初期費用なくID取得やサービスの利用が可能
  • 低額な利用料金:利用するサービスやリソースを組み合わせ、従量制料金で利用可能
  • 実使用分のみの支払い:サーバ利用時間やディスク使用量など、実際に利用したリソース分のみの支払いでOK
  • セルフサービスなインフラ:利用者によって各サービスのリソース調達が可能
  • スケールアップ・ダウンが容易:調達したリソースを簡単にスケールアップ、スケールダウンが可能
  • 市場投入と俊敏性の改善:利用者のビズネスプランへの迅速な対応が可能
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