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情シス奮闘記 中堅企業編

第3回 テーマ「中堅企業のクラウド移行」

2019年3月

クラウドは安くつくのか。
表面的なコストではなく、IT運用管理全体を見通したコスト比較を

従業員500人規模の製造業企業「ライゾウ社」ではITコスト削減と企業競争力強化という2つの命題の両立が求められていた。クラウド活用を思いついた情シス担当役員・高橋博は、さっそくクラウド活用にあたっての具体的な対応を情シス部員の上野紘司に命じた。ただ情シスは人員が限られ、新たなシステム企画を担当するのは実質的に上野一人。多忙をきわめるなかで、役員からほとんど丸投げされた課題を解決するのは、大変なことだった。

IaaS導入を前提に検討開始。SIベンダーの“目利き”に相談

情シス担当役員・高橋博からはITコスト削減、情報システム部門の仕事の効率化、BPO対策の一環としてシステムのクラウド化を指示され、そのメリット、デメリットなどについてレポートを書くように申し渡された上野紘司。自席に戻るとさっそく最近のクラウド状況と、ライゾウ社にとっての導入の意義について検討を始めた。

高橋役員がイメージしているのは、IaaS=Infrastructure as a Serviceだということはわかった。サーバやストレージ、ネットワークなどのハードウェアやインフラまでを提供するサービスだ。これを利用することで、情シス部門の仕事も効率化するし、BPO対策にも貢献できる。まずはIaaSを提供するクラウド事業者のメニューを調べて、オンプレミスに比べてのコスト削減効果、BCPを実現するための堅牢性、スピードやシステム変更にも柔軟に対応できるかどうか、その使い勝手などを比較してみることにした。

「俺としては、システムをクラウドに預けるからには、オンプレのサーバをお守りする苦労から解放されたい。正直、俺自身の働き方改革に繫がらないと、これをやる意味がないんだよなあ……」

「どうしたんですか。独り言なんか言っちゃって」

話しかけてきたのは総務の伊藤里奈だ。

「ちょっと今、役員から無茶ぶりされててね。ちょっとまいってるんだよ」

「そうなんですね、何か手伝えることがあれば言ってくださいね」

別部署ながらいつも何かと手伝ってくれる総務の伊藤。1人で情シスを担当している上野にとってはいつも頼ってしまう存在だ。

Iaasのサービスについて情報はたくさんあるものの、それゆえ判断に迷ってしまう。そこで、上野はこの分野に詳しい専門家を“目利き”として活用しようと思った。これまでライゾウ社のシステム構築を手伝ってくれていた中堅SIベンダー「モンジュシステムサービス」の中村和人だ。以前は中小製造業にいて、唯一の情シス担当だったと聞いたことがある。だからなのか、上野の置かれている立場を理解し、いつも親身になってアドバイスしてくれる。

クラウドは必ず安くなるとは限らない

「お久しぶりです、上野さん。相変わらずお元気そうですね」

約束の時間ぴったりに現れた中村は、上野とは年齢も近く話しやすい間柄だ。

「悪いね、こんなところに呼び出して」

「いやいや、上野さんにはお世話になっているし、いろいろ情報交換をしたいと思ってたところなんですよ」

「ところで、どうして伊藤さんがここにいるんだい?」

「いやいや、私も行くってさっき言ったじゃないですか」

そうなのだ。中村との電話を聞いていた伊藤が、飲み会なら私も行きますよ、と言ってきたので、一応場所と時間を伝えていたのだ。とりあえずビールで乾杯して、伊藤のことを紹介した後に、上野はライゾウ社のクラウド化案件について早速話を切り出した。

「役員がクラウド化したがっていて、IaaS導入って話の流れになっているんだ。IaaSでは自社に必要なシステム環境を自由に設計でき、料金も構成したスペックに応じて利用した分だけを支払うというメリットがあるよね。つまり、コストは安くなるんだよね」

「いや、それが、必ず安くなるとは限らないんですよ。オンプレだったら基本的にサーバとは社内LANで接続できますが、IaaSはインターネット越しに仮想サーバにアクセスするわけですから、セキュリティ的には通信の暗号化やVPNの利用が前提です。その費用が発生しますね。仮想マシンのCPUとメモリ、搭載するOS、ストレージ容量によっても料金が変わってくるし、ユーザーサポートやヘルプデスクのサービスをどこまで対応してもらうかで追加料金が発生するケースもあります。あと、ユーザーあたりの月額利用単価を設定しているクラウドサービスだと、一般的にはユーザー数が少なければ安くつきますが、これが多いとオンプレよりも高くなりますね」

最初のコスト問題で、上野は思い違いをしていたことに気づいた。ただ、コストを考えるときは、単にクラウド利用料だけでなく、ITの運用管理コスト全体を考える必要がある。そんな上野の心の内を察してか、中村も次のように言うのだった。

「オンプレだとハードウェアのメンテナンスやトラブったときには、上野さんたちが動くことになりますよね。この人件費もコストのうちに含めておかないといけません。細かく言えば社内サーバを24時間稼働させる電気代だって、経費のうちですからね。クラウドサービスに移行することで、IT担当者による運用管理のコストをどのくらい少なくできるかは重要なポイントだと思うんです」

クラウド事業者—SIベンダー—ユーザの三位一体で

「それに」と、中村は話を続ける。

「クラウド事業者は、物理的なインフラ基盤やセキュリティのコア技術は用意していますが、それを顧客側が有効に活用するためには、クラウドのインフラ基盤を活用しながら、アプリケーション導入やネットワーク設定、セキュリティ管理などを行うSIベンダーが必要だと思うんです。そういうことをまとめてやってもらえるベンダーがいれば、上野さんたちの業務負荷もずいぶん軽くなって、本来のシステム企画の仕事に専念できるようになるはずです」

「なるほど、しっかりした基盤を持つクラウド事業者と、うちのようなユーザー企業との間に、システム構築をまとめて面倒をみてくれるSIベンダーを介在させることが大切ということだね。まずはクラウド事業者だけど、中村さん的には、ずばりどこがいいと思う?」

中村は迷うことなく、外資系クラウド事業者A社のクラウドサービスの名前を挙げた。国内だけでなく、グローバルでもシェアが高く、個人や小規模企業から大企業まで、幅広い導入実績がある。

「A社だったら私も知ってます。私、最近のお買い物はほとんどA社の通販サイトなんですよ」

と、伊藤が口をはさんだ。

「じゃぁ、中村さんがプッシュするんだったら、それを検討してみようかな」

と、上野は応じ、中村が商談で何度も使っているという、A社と他社比較の検討表を後日見せてもらうことにした。

失敗しないクラウド移行には、セキュリティ・ネットワークに強く、信頼できるSIベンダー選択が鍵になる

翌日から、上野は中村とも連絡を取りながら、A社のクラウドサービスを中心に比較検討を始めた。

中村がA社を推す理由の一つとして、セキュリティ対策がしっかりしていることが挙げられていた。クラウドサービスを正常に稼働させるための物理的な設備やハードウェアには定評があるという。OSやアプリケーション、仮想ファイアウォールなどの管理は最終的にはユーザーの責任になるものの、中村も言うように、A社のクラウド上でシステム構築を行った経験とノウハウをもつSIベンダーと組めば、さまざまなセキュリティソリューションが活用できる。

「クラウドは、クラウドサービス単体ではなく、SI対応力をもつベンダーとの協業作業を行うことで、より確実、安全な運用ができる」というのが、中村の持論なのだ。

ネットワークについても同様だ。

「クラウドだと、インターネット越しの使用になるから、サーバやアプリケーションを実際に利用するときのレスポンスがどうなるかも気になっているところなんだ。やっぱり、専用線とか引かないと難しいかな」

と上野が中村に相談すると、中村は、A社はインターネット、インターネットVPN、閉域型VPNサービスなどいくつかのネットワーク形態をメニューとして用意しているという。「そのうちどれが自社の業務に最適なのかわかりづらいですよね。でも、SIベンダーに相談すれば、どんなネットワークが最適なのか考えてくれますよ。ネットワーク設計から構築、保守・運用まで任せることのできるSIベンダーもありますから」

と、中村はその点は太鼓判を押すのだった。

「で、そのSIベンダーってどこのこと。もしかして、中村さんのとこ?」

「アハハ、ま、そういうことになりますね。もし上野さんと一緒に仕事ができれば嬉しいです。当社はA社のクラウドサービスの運用や移行実績が数多くありますし、セキュリティ・ネットワークにも強いです。後、実は私もそうなんですが、A社の技術トレーニングを受けて、認定された技術者もたくさんいますから、安心ですよ」

と太鼓判を押すのだった。

上野の気持ちは、クラウド事業者としてはA社を、SIベンダーとしては中村の「モンジュシステムサービス」を選定することに傾いていた。そこで、最後に一番肝心の疑問をぶつけてみた。

「実際、オンプレからクラウドへ移行するのって大変なんだろう」

「確かに、A社の場合、32bit版OSの移行には注意が必要だし、インターネットに接続していない仮想マシンをどうやってメンテナンスするかという問題もあります。オンプレの既存システムのどこから移行するのか、全部を一挙に移行するのか、部分的な移行から始めるのか、どのぐらいの期間をかけて移行するのか、といった問題はあります。その他にも、それぞれライゾウ社さんならではの特有の問題も浮上することでしょう。でも、分析、設計、準備、移行というようにしっかり段階を追って進めれば、何も怖いことはないと思います」

ということで、話は決まった。

ある日のランチタイム、「結局、中村さんと組むことになるんですね」と声をかけてきたのは、総務の伊藤里奈だ。

「私もこの前の飲み会のとき、そばで話を聞いていて、そうなるんじゃないかと思ってましたよ。すごく親身になって相談に乗ってくれたし、中村さんならすぐに駆け付けてもらえそう」

「うん、中村君はクラウドに詳しいし、1人で情シスを担当している人の気持ちがよくわかっているからね」

と、上野は答えるのだった。

役員プレゼン大成功。働き方改革の第一歩へ

伊藤にも協力してもらいながら、上野は次のような方向性でレポートをまとめることにした。

クラウド事業者はA社を想定。IaaSのクラウドを採用する。コスト試算によれば、オンプレとほぼ同じという結果になったが、上野らの人件費分を含めると、クラウドの方が安くつく。

何よりも大きいのは、業務改善効果だ。これまでリソースアップする際は、サーバ購入などが必要だった。クラウドだと必要なときにサーバのリソースを素早く追加可能。柔軟性やスピード、生産性がアップ。システムの更新やパッチを当てるのも自動化される。24時間365日体制で保守運用もしてくれるので、ライゾウ社の情シスのお守りが必要なくなって、働き方改革につながる。

オンプレからクラウドへのシステム移行については、アプリケーション運用はもとより、ネットワークやセキュリティ環境構築をスムーズに進めるために、何らかのSIベンダーと組むことが重要になる。A社のクラウドサービスに豊富な実績をもち、A社が認定するプロフェッショナル認定者を複数名保有している「モンジュシステムサービス」を、今回のSIベンダーとして推奨する。

セキュリティ的には、共通回線でVPN利用を前提とする。A社のデータセンターは堅牢なことで知られており、BCP対策については現状では望むべく最高の水準といえるが、実際の運用については、モンジュシステムサービスのノウハウを活かす。

オンプレからクラウド移行に伴って、日常的な業務のオペレーションやレスポンスの変化が予測されるが、これにモンジュシステムサービスが用意するクラウド・デモ環境でテストを重ねて、詳細を詰める。

クラウドへの移行は決済後、半年を想定。移行中も現在のシステムは止めずに運用を続ける。

こうした内容の提案を上野はレポートにまとめ、高橋役員に提出した。

「短期間にしてはよくまとまっているレポートだ。よし、これを来週の役員会議にかけてみよう。君の友人の中村君っていったかな、実際のクラウド移行では彼の会社にも手伝ってもらうという案もいいね。君の負担もずいぶん減るだろうし」

と、上野の肩に手をおき、苦労を労う高橋。それを間近で見ながら、ほっと安堵の息をもらすのは秘書の本田だった。

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