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情シス奮闘記 中堅企業編

第4回 テーマ「中堅企業の働き方改革」

2019年4月

情シス担当役員が考える働きやすい職場のつくり方とは

2018年6月に成立した「働き方改革法案」が、2019年4月より順次施行された。大企業だけでなく中堅中小企業を含むすべての企業で対応が必要になる。「うちはそれほど残業が多くないし、ましてや過労死など起こりえない」と考える企業にとっても、この対応を怠っていると、思わぬ労使トラブルが発生したり、ひいては社員の採用活動にも悪影響を与えかねない。むしろ、働き方改革をこれまでのムリ・ムダを一掃するよい機会と捉え、業務の効率化を通して社員の生産性を高めるバネにすべきではないのか。従業員500人規模の製造業企業「ライゾウ社」でも、そうした気運が生まれつつあった。ITをそのための武器にしようというのだ。

働き方改革は単なる残業時間の規制が目的ではない

ライゾウ社も年度末はいろいろと忙しい。役員室の高橋博も今日中に目を通さなければならない膨大な書類にウンザリしていた。そこに追加の書類を持ってきたのが、役員秘書の本田遙だ。

「役員、お忙しそうですね。そんなときに何なんですが、さっきエレベーターで若手の社員たちが、こんなことを話していたんですよ」

高橋は書類から目を上げた。

「話題は働き方改革のことなんです。4月からいよいよ施行だよなって。ただ、ウチって数年前から残業規制は厳しくやってきていて、夜中まで働くような社員はほとんどいないじゃないですか。それでも働き方改革って必要なのか、って彼らはブツブツ話しているんですよ」

高橋もふだんから働き方改革には関心があった。ちょうどいいタイミングなので、本田と議論しながら自分の考えを整理しようと思った。

「本田さん、でも、働き方改革って単なる残業時間の規制が目的じゃない、と私は思うんだよ」

「えっ、そうなんですか」

驚いたように本田が言う。

「長時間労働が常態化している職場では、むろん残業時間を強制的にでも規制することは大切だ。有給休暇取得を義務づけたり、勤務時間の間に休憩を取るようにしたりすることも必要だろうね。ただ、それ以上に重要なのは、社員がイキイキと働ける柔軟な仕事環境を提供することなんじゃないかな。大きく言えば、一人ひとりの意思や能力、個々の事情に応じた、多様で柔軟な働き方を選択可能とする社会をつくるために、企業は何ができるかということ。働きやすい職場があれば、そこで働きたいと思う人は増えるし、生産性も上がり、ひいては優れた製品やサービスが生まれ、競争に勝っていける。そんなふうに企業体質を改善するチャンスなんじゃないかな、と思うんだよ」

さらに、高橋は続ける。

「それからね、少子高齢化で人材不足がこれから顕著になってくるし、うちみたいな製造業は女性も含めて、外国籍などの優秀な人材獲得が急務になっている。そのためにも働きやすい職場というアピールが必須だしね」

働き方改革の理念を一気にまくし立てる高橋に、本田は少し圧倒されていた。(こんなふうに熱く語る役員は久しぶりに見たわ)。

「で、イキイキと働ける職場って具体的にはどうやったら実現できるんですか」

「こればかりは、掛け声だけでできるものじゃない。制度を変えなくちゃならないし、それを支える仕組みをITで補強しなくちゃいけない。ITの力を借りなければ、働き方改革は実現しないとまで、私は思っているんだよ」

(さすが、IT担当役員だ。自分の課題に引きつけてものを考えていらっしゃる)。本田の心の中には、あらためて高橋への敬意に似た感情が芽生えていた。

リモートワーク、チームワーク、スマートワーク、管理基盤――働きやすい職場をつくるための4つのテーマ

「どうやったら、働きやすい職場をつくれるか。テーマは4つぐらいあると思うんだ」

高橋は話を続けた。「なんだと思う?」と、本田に問いかける。

「えーと、まずは、いつでもどこでも仕事ができる環境って大切じゃないですか。よく営業の人が、日報を書くためだけに外勤からオフィスに戻らなくちゃならないのは面倒だって、こぼしています」

「そう、リモートワークの推進だね。外出先でも仕事ができたり、ときには在宅勤務で家にいても仕事ができる日があったりすれば、家事や育児にかかわりながら、仕事を進めることができる」

「えっ、ウチも在宅勤務制度、導入するんですか?」

「いやいや、すぐにというわけにはいかないが、将来的にはあり得ることだと思っているよ。他には?」

「仕事はチームワークでやるものですから、情報共有やコミュニケーションを活性化させることも必要ですよね。きっと紙ベースで情報をやりとりしていた時代に比べれば、メールやグループウェアの導入で、そのあたりは改善されているとは思うんですけれど、まだまだ改善の余地はあると思います。それに、ウチでは上長の承認を得るための申請業務はまだ紙でやっていますからね。これがけっこう煩雑だったりしますしね~」

「さっき言った“リモートワーク”、今、本田さんが指摘してくれた“チームワーク”。それに、紙の申請を電子化するなど、業務を効率化し、質を保ったままスピードをアップさせる“スマートワーク”の3つが、重要な鍵になると、私は考えている。そしてその3つを推進するための基盤も必要だ。法律やコンプライアンスに則った全社的な管理システム、例えば入退室管理やアクセスログ管理といったものを作って、それが全体を支える構造にしなくちゃいけない。これらにはすべてITが関わっている。いや、ITによる技術的な支えがなければ絵に描いた餅になってしまう」

と、高橋は本田のために3つのテーマと管理基盤の関係を、手元のメモ用紙に絵解きしてくれた。

「この絵がイキイキと動き出すためには、いろんなシステムの改善が不可欠というわけですね。わかりました。いよいよ情シスの上野さんの出番ですね」

「アハハ、私が思っていることを、先回りするね、本田さんは。そうなんだ、働き方改革法の施行が目前に迫っているから、上野君にもひと頑張りしてもらわないと困る。すぐに会いたいからと、連絡しておいてくれないかな」

(そう来ると思っていたわ。でも、高橋役員はいつも大きな構想を考えつくのは得意だけど、後は上野さんに丸投げしちゃう。今度も大丈夫かしら)

と、少し不安になるのだった。

働き方改革を支えるIT改革。改善効果の数値化も課題

翌日、役員食堂でランチをしながら、高橋と上野が話し合っている。

「リモートワーク、チームワーク、スマートワークに、働き方改革を支える基盤という4つのテーマというか概念はよくわかりました。ただ、役員、これを一気にというのはさすがに無理があります。どこから手をつけたらいいでしょうか」

と、上野が言う。

「そうだな、システム的な観点でいえば、いま、ウチでは基幹業務のクラウド化が進んでいるよね。上野くんとSIベンダーのモンジュシステムサービスがよく頑張ってくれている。その流れを、情報系システムにも持ち込んだらどうかと思うんだ。例えば営業が外出先でも社内と同じように仕事ができるようにすればいいんじゃないかな」

「え、そうすると、クラウド型のグループウェアとか、クラウド型の顧客管理システムが必要にならないですか?」 「そうそう。それと、いま営業に配っている社用スマートフォンを内線電話としても利用できるようにしたら、社外にいる従業員との連絡もしやすいし、通信コストも下がるんじゃないか」

「はい、それはそうです」

「勤怠状況をタイムリーに確認できれば、人事部としても社員が無駄に残業していないかをチェックでき、適切な指導や勧告ができるようになる。ウチはまだ工場では、旧式のタイムカードを使っている事業所もある。勤怠、入退室、アクセスログ管理を強化するっていうのはどうだ?」

「ハア、今は外部ベンダーが開発したいろいろなソリューションがあるので、導入はしやすいと思うんですが、その前に、役員、現状の働き方の状況を可能な限り定量的に把握しておかないと、いろいろなソリューションを導入したとしても、その改善効果がわかりにくくなるんじゃありませんか」

上野には、高橋はいつもの癖で、何事も急ぎするという印象があったのだ。

「確かにそうだな。残業時間が何時間というデータだけじゃなくて、会議や出張にかかる経費と生産性の見合いとか、書類に上長の承認をもらうのにどのぐらい時間と手間がかかっているかとか、そうした職場の課題を数値化する必要はある」

「今でも、ウチは会議のたびに参加人数分の書類をコピーして配っていますからね。無駄だと思っていてもなかなか変わらないのは、改善効果のコストパフォーマンスを数字として実感できていないからだと思うんです。小さなところからでもいいから、社員がこれは効率的だ、これなら働き方改革を実感できるという成功体験を積み上げていくことも大事かと……」

「うん、わかった」

「で、どこから始めましょうか」

「それを考えるのが君の仕事だろ。私は午後から会議があるからこれで失礼するが、そうだな、来週までに社内の勤務実態に即した働き方改革プランをまとめておいてほしいな。今日のランチは私のおごりだから、じゃあ」

とさっさと高橋は席を立ってしまうのだった。

(えっ、また丸投げかよぉ……)

そうして上野の仕事はまた増えるのだった。上野自身の個人的働き方改革はまだ遠い先のことのようである。

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