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情シス奮闘記 中堅企業編

第5回 テーマ「中堅企業の働き方改革 第2回」

2019年6月

情報共有基盤のクラウド化で進める中堅企業の働き方改革

残業時間の罰則付き上限規制、5日間の有給休暇所得の義務化、勤務間インターバル制度の努力義務などを含む、いわゆる「働き方改革法」が2019年4月より施行された。中小企業には実施までの猶予期間が与えられているものの、いずれは日本の全企業が推進しなければならない課題で、誰もが法の適用を免れることはできない。「働き方を変えるためには、ITの力を借りて、社内システムによって改善を進めるべき」と主張するライゾウ社の情報シス担当役員・高橋博。その命を受けて、実質一人で情シスを担当している上野紘司は、現状の勤務実態に即したITによる働き方改革プランをまとめることになったのだが……。

情報基盤をクラウド化すると、なぜ働き方改革につながるのか

高橋役員とのランチミーティングが終了すると、上野はどっと疲れが出るのを覚えた。

「来週までプランを考えてこいって、また高橋役員の無茶ぶりが始まりましたね」

そう慰めるのは、役員秘書の本田遙だ。

「いや、全体的な課題を切り出す力はさすが高橋さんだよ。ただ、いつも全体最適な話しかしないし、結局、具体的なプランは僕が考えなくちゃいけない。でも、今度ばかりは愚痴ってばかりいられない。働き方改革は一部の社員だけじゃなくて、僕ら全員に関わりのあることだからね」

役員とのミーティングで示されたのは、単なる残業規制だけでなく、柔軟な仕事環境を実現することが重要で、それこそが働き方改革につながるという考え方だ。その実現の手段として情報系システムのクラウド化を急ぐべし、という方向性は決まった。

「情報システムのクラウド化って、つまりどういうことなんですか」

本田が聞いてくる。

「うーん、メールやグループウェアなどを、これまでのように自社が自前で設置していたサーバで運用するのではなく、ベンダーが提供するサービスに切り替え、それをネットワーク経由で利用するということだと思うんだ」

「例えば、Microsoft 365 みたいなものですか」

「そうそう、ウチでは一部の部署では導入しているけれど、全社的にはまだ。スケジュール管理は部門ごとにバラバラで、Excelでやったり、一部はまだ紙で管理しているところもある。例えばだけれど、それらを全部クラウド版グループウェアに移行して、会社の情報基盤をクラウド化しようということなんだろうね」

「でも、それって働き方改革とどうつながりがあるの?」

「そうだね。それがポイントだ。単にクラウドの方が安いし、所有から利用への移行は時代の流れだとか、社内でメンテナンスする必要がないというだけでは、働き方改革との関連がはっきりしない。それをどう打ち出すかだな、問題は」

情報システムのクラウド化と働き方改革の関連。それを明確にすれば、社員たちも納得し、新たなIT投資も歓迎されるはずだ。

上野は本田からヒントをもらったような気がした。ただ、それを言語化するためには、もう少し調査が必要だ。上野の頭には、システム開発でいつも助けてもらっているモンジュシステムサービスの中村和人の顔がちらついていた。

「そうだ、また中村さんに相談しよう」

メールチェック、日報、スケジュール管理とか、なぜ会社に戻ってやらなきゃいけないの

いつも居酒屋で私的に相談するのはなんなので、今回は中村をライゾウ社に呼び出し、オフィシャルにミーティングをすることにした。情報基盤のクラウド化をモンジュシステムサービスに委託するかどうかはまだ決めていないが、少なくともコンサルティング料は支払うつもりだ。会議には、総務部の伊藤里奈も同席させることにした。彼女は情報システムは本務ではないが、話を具体化するためには現場の声も聞いておく必要がある。いわば、現業社員の代表として中村とのミーティングに参加させることにしたのだ。

「まず、現状の御社の情報共有の課題を整理するところから始めたらどうでしょうか」

ミーティングの席上、中村にそう問われた。情報システムのクラウド化といっても、それだけでは漠然としている。何が問題か、何が働き方改革を阻害しているか、現状の問題点を列挙して欲しいというのだ。

「うちは遅れているんですよ。会議のたびに人数分の書類をコピーして配らなきゃいけないし、営業の人も日報を書くためだけに出先から帰社するのは面倒だといつもグチってます。部署内のメンバーのスケジュールはわかっても、他部署の人のことはいちいち電話しないとわからない。これって、すごく不便」

いきなり伊藤里奈が語り出した。総務部員として、日頃から鬱憤がたまっているようだった。

「残業時間はいまどれぐらいで、この数年、どんな感じで推移していますか」と、中村が聞く。

「これは全社員のデータを取っています。4〜5年前は平均で1人あたり月に40時間ぐらいありました。うちには労使協定があって、サブロク協定のことですけれど、その上限目一杯の1カ月45時間よりは少ないですけれど、それでも月に20日勤務としたら、毎日2時間はみんな残業していたわけで、うちってブラックじゃないけど、グレーかなっては思ってました」

このあたりは、さすが残業代を計算する業務が本業の伊藤は詳しい。

「でもその頃から、残業を減らそうということがトップ方針で提唱されてきて、現在は月平均で20時間ぐらいには落ち着いていると思います。それでも、残業が多い個人や部署には、私たち総務部がヒアリングをして、なんでそうなっているのと調査するようにしています」

上野も噂では聞いたことがある。総務の伊藤の社内残業調査は、けっこう手厳しいということを。

「伊藤さん、残業時間を減らすためには、何かよい方法はあると思いますか」

「それはやっぱり、ITじゃないでしょうか。メールチェックとか営業日報とかスケジュール管理とか、なんで会社に戻ってやらなきゃいけないのか、私、ワケわかんない。みんないまノートPCやスマホを持ち歩いているだから、それでちゃちゃっとやればいいのに」

言葉づかいはあけすけだが、伊藤の言うことはもっともだ、と上野も思った。

Microsoft 365の情報共有機能を活用して、仕事のムダを省き、働き方を変えていく

「メールでもスケジュールでも、あるいは顧客管理システムでも、インターネットさえつながっていれば、いつでもどこでもそこにアクセスできて、そこで仕事ができる環境というのがまず重要だと思うんです」

と中村。

「もちろんそれで会社にわざわざ戻る手間が省ければ、働き方改革の一助になります。それ以上に情報が迅速に社内に共有化され、顧客への対応スピードも向上します。働き方改革を進めながら、業務改善・顧客満足度も同時に達成できるというわけです」

中村は、それ以外にも、グループウェアの全社導入によるコミュニケーションの活性化、工場と本社をつなぐWeb会議などを活用した会議の効率化、申請業務のデジタル化、リモートワークの推進などを働き方改革の課題に挙げた。

「もしこれらの施策を導入したら、残業時間がさらにどのぐらい軽減し、顧客対応スピードがどのぐらい向上するか、さらには、部品の納期がどれぐらい短縮化されるか、そのあたりを定量的に把握しておく必要がありますね」

「その通りだね。時間と手間の双方のコスト削減効果を予測し、施策を導入し、その結果を共有する。こういうPDCAサイクルを回すうちに、システムは定着していくものだからね。でも、外出先からアクセスできるように、今からメールサーバーやグループウェアサーバーを改修したり、セキュアなアクセスサーバーを用意したりするのは大変だ。とても僕一人じゃ……」

と、上野は少し弱気になる。

「大丈夫ですよ。だからこそ、クラウドがあるんじゃないですか。例えばMicrosoft 365などのクラウドサービスを上手に活用すれば、はじめからインターネット上でサービスが提供されているわけですから、セキュリティ設定や監査機能の実装といったことを考えなくても、外出先からもサービスを利用することができるんです。クラウド型のグループウェアでは、社内という物理的な場所に限らず、どこにいても情報共有が可能になるんですよ」

「なるほどね〜。クラウドって、単なるコスト問題じゃなくて、私たちの働き方改革にも効果があるんですね」

と、伊藤は中村の話にしきりに頷いている。

この日のミーティングは、とりあえずグループウェアとデスクトップアプリケーションをセットで利用できる法人向けのクラウドサービスとして、Microsoft 365を全社に導入し、それを働き方改革の突破口にする、というような方向でまとまった。導入コストの算出や実際のインテグレーションも、中村のモンジュシステムサービスが請け負ってくれそうだ。

Microsoft 365には多種多様な機能があるが、ライゾウ社では主要には、メールやスケジュール管理のためにExchange Onlineへの移行を進め、仕事のファイルをクラウドに保存して、閲覧・編集を共同編集できるようにSharePoint Online の活用も実施することにした。Microsoft 365には 法人版Skypeの後継サービスであるTeamsを使ったWeb会議機能もあるが、これも試験的に試してみることにした。

今後の1年間は、こうしたMicrosoft 365の全社運用を続け、それが残業代などのコスト削減や業務改善にどのぐらい定量的な影響を与えるのか、実際のユーザーをモニタリングしながら、調査することも決まった。

「なんか、先が見えてきたような気がするよ」と、上野。「それにしても、伊藤さんに同席してもらってよかった。現場目線で貴重な視点を提供してもらえたし」

上野に褒められて、少しはにかむ伊藤だった。

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