ページの先頭です。
サイト内の現在位置を表示しています。
  1. ホーム
  2. ビズサプリ 情報システムポータル
  3. 専任担当者が少ない、中堅・中小企業の情報システム部門の方へ
  4. 第6回 テーマ「中堅企業の働き方改革 第3回」
ここから本文です。

情シス奮闘記 中堅企業編

第6回 テーマ「中堅企業の働き方改革 第3回」

2019年7月

クラウド型Officeとグループウェア、さらにWeb会議導入で会社はどう変わった?

ITを強化することで、働き方改革につなげる——そんな動きがあらゆる企業で見られる。中堅製造業のライゾウ社も例外ではない。一人で情シスを担当している上野紘司は、SIベンダーであるモンジュシステムサービス社の中村和人と協議し、グループウェアサービスとデスクトップアプリケーションをセットで利用できる法人向けのクラウドサービスとして、マイクロソフト社の「Microsoft 365」を導入し、それを働き方改革の突破口にする——という方向を定めた。そして、早速その導入案をIT担当の役員・高橋博に上申することになった。

いよいよMicrosoft 365導入へ。働き方改革の第一歩を踏み出す

「Microsoft 365の導入、とっかかりとしては悪くないんじゃないかな」

役員室で、上野のプランを聞きながら、高橋は満足そうだった。

「システム導入はモンジュシステムサービス社が手伝ってくれるというんだが、ただ、コスト的には大丈夫なのか。SIベンダーに乗せられて、高い費用を払ったはいいが、効果があまり上がらなかったという話もときどき耳にするよ」

「その点は、大丈夫です。モンジュシステムサービス社とは長い付き合いですし、提案書に添付した見積もりも、当期のIT予算に十分収まる範囲のものです。担当の中村氏はユーザー企業の立場をよく理解して、仕事も丁寧だということは役員もご存知でしょう」

「それはわかる。ただ、システム導入のコストパフォーマンスが合わなければ、働き方改革も意味がなくなる。その点は留意しておいてくれよ。それから、働き方改革ってのは、即売上向上につながる施策じゃない。だからこそ、その効果は長期間にわたって測定しなくちゃいけない。どのぐらい残業時間の削減につながったのか、顧客対応スピードは短縮されたのか、社員はどの程度満足しているのか、といった定量的な調査もあわせて行うようにしたほうがいい」

役員の指摘はもっともだった。

上野もこう考えていたのだ。

システム導入はモンジュシステムサービス社にある程度任せることができるから、自分としてはIT担当としての本来の役割、つまり、システム導入にあたっての企画立案や効果測定、さらにITによる働き方改革の可視化という仕事に専念することができる。それこそが自分がやってみたい仕事なのだ。

「役員もそう言ってくれている。ようやく情シスらしい仕事ができるかもしれない」と、心の中で呟くのだった。

導入は簡単。リモートでファイル共有。営業効率が改善された

翌週から早速、Microsoft 365の導入が始まった。まずは、社員たちが日常業務に使っているOfficeアプリケーションを、クラウド版に切り替えるのが第一歩だ。調べてみると、Officeアプリケーションのバージョンは部署、というか個人によってバラバラ。上野としても、バージョン管理やライセンス管理はしていたつもりだったのだが、社員が増えていくうちにその管理が曖昧になっていたことがわかった。

これをクラウド版に切り替えれば、バージョンを統一できるだけでなく、最新機能の追加やOffice製品のセキュリティパッチもインターネットを介して自動的に配信されるようになるので、セキュリティの抜け穴を未然に防ぐこともできる。こうした管理コストの削減は、情シス的には大きなメリットになるのだ。

「Exchange Online って、メールだけじゃなくて、社員のスケジュールや連絡先管理も共有化できるんですね。まだみんな試行錯誤中だけれど、これまでのように他部署の人のスケジュールがわからなかったり、アドレス帳を一人ひとりがバラバラに持っていて、いざというとき、お客さまの連絡先がたどれない、ってこともなくなりそう。これ、とても便利だと思います」

と報告してくれたのは、総務部の伊藤里奈だ。モンジュシステムサービス社の中村と、Microsoft 365導入を検討したときに、一緒に会話に加わってくれたのだ。

「でも、上野さんは大変でしたね。システムを変えるって、技術的な手間もかかるだろうし、何よりこれまでの習慣を変えようとしない社員の教育とかも、負担じゃなかったですか」

と伊藤は上野の労をねぎらう。

「いや、その点は意外と簡単だったよ。切り替えに数カ月かかるかなと思っていたんだけど、中村さんたちの頑張りもあって、システム切り替え自体は2週間で終わったし、導入時の設定や社員教育も手伝ってくれたからさ」

伊藤に限らず、Microsoft 365の社員からの評判はおおむね好評だ。

とりわけ営業先にノートPCを持ち歩く外勤の営業部隊からの評価は、上野にとっても嬉しいものだった。

「社内で作成したファイルを、OneDrive for Business に保存するようにしました。そうすると、自宅や社外からもリモートでアクセスが可能になります。これまでは、分厚い紙のカタログをカバンに詰めたり、ファイルが保存されているノートPCを、落としたり置き忘れたら大変だと恐る恐る持ち運んでいたんですけれど、今は軽いタブレット端末から簡単にファイルを参照できるようになったんです。特に出張時などは便利ですね。これまでは出張前にファイルを移したり、印刷するのが結構手間でした。仕事の効率はものすごく改善されています」

と、営業部の一人が言ってくれたとき、上野はこれまでの苦労が報われたように感じた。

Web会議に役員も参加。そのメリット、デメリット

Microsoft 365導入で、ライゾウ社の社員はほとんどがクラウド型Officeを使うようになった。さらに、メールサービスをExchange Onlineに切り替えたことで、スケジュール管理や連絡帳機能を便利に使う社員も増えてきた。社員の馴れというのは案外早いものだ。

導入後、ひと月ほど経ったころ、高橋役員からメールがあった。

「ところで、上野君。Microsoft 365にはTeamsを使ったWeb会議機能もあるようだが、これも導入するのかね」

「はい、試験的に一部の部署で試してみようと思っています。とりあえず、本社の生産管理部門と、長野にある工場との間で、来週にもトライしてみようと思っています」

「そうか、そうか。実はテレビ会議ってのはやったことがあるんだが、Web会議は私も初めてなんで、一度その場に立ち会わせてくれないかな」

まあ、今回は社員に馴れてもらうためのWeb会議なんで、役員に加わってもらっても会議メンバーは戸惑うことはないだろう——。そう考えて、会議の様子を役員にも見てもらうことにした。メンバーはそれぞれのオフィスの会議室で、1台のPCを囲む形で集まり、役員には役員室のPCから会議に参加してもらうように設定をした。

ところがWeb会議の当日、ちょっとした問題が発生した。

15時きっかりにWeb会議をスタートさせるため、東京と長野でそれぞれのメンバーが会議室にスタンバイしていたのだが、向こうの画面がPCに全然現れないのだ。電話で「どうしました?」と尋ねると、長野のメンバーから「申し訳ない。ネットワークが切れちゃって、いまルーターを再起動しています」との返事。

役員室にいる高橋の心配そうな顔を思い浮かべ、上野は冷や汗をかいた。

その後、なんとかネットワークがつながって、Web会議は始まったが、会議中もマイクの位置から遠いメンバーの声が聞き取れなかったり、会話が途切れて無音になっているだけなのに、ネットワークの障害を疑ったりと、会議は必ずしもスムーズに運んだとはいえない。

「プレゼン資料はあらかじめファイル共有で全員に行き渡っていたからよかったんだけど、それを説明する社員の顔がよく見えないことがあったね。滑舌が悪くて聞き取れないことも。PCのカメラや音声品質にもよるのかな」

と、会議後に高橋はそんな感想をもらした。

「やはりみんながリアルに顔を突き合わせてやる会議とは臨場感が違いますし、みんなまだ操作に馴れていないですよね。でも、ですね、役員……」

「いや、わかっているよ。業務改革を進めるときは必ずといっていいぐらい、問題が発生するものだ。そこで挫けるんじゃ改革をやる意味がない。今日のテストも問題点が浮かび上がっただけよしとすべきだ。課題を一つひとつ潰して前に進もうじゃないか」

高橋は力強くそう言った。

「それに費用対効果を考えても、今日の会議をリアルで開くとなると、メンバーの出張費だけでも相当なものになったはずだ。移動の時間も考えると、ふだんなら一日仕事だからね。Web会議のメリットは十分に感じたよ。場所を問わずに参加できるから、これからは自宅のPCから参加するのも有りだね」

上野は、高橋がWeb会議の意義を理解してくれていることがわかって、少しホッとした。

「役員、Web会議の導入するにあたって率先垂範の精神でまずは役員会をWeb会議でやるようにした会社もあるようですよ。当社でもWeb役員会議というのはいかがですか」

と、話に加わってきたのは、役員秘書の本田遙だ。

何事も経営トップがお手本を示すことが大事。役員会議がWebで開かれているのを知れば、一般の社員もこぞってWebを使うようになるかもしれない。

「うぅ、本田さん、そう来るか。いや、私はこれに馴れることができるとは思うけれど、他の役員たちがどう言うかなあ。なかには、PCも満足に使えないような年配の方もいるからねえ」

「それを助けられる人って、高橋役員しかいらっしゃらないじゃないですか」

今日ばかりは本田に攻められ、おだてられ、タジタジの高橋だった。

ページ共通メニューここまで。

ページの先頭へ戻る