情シス部門の仕事術
第1回テーマ「ひとりでは手が回らない! システム管理問題はどう解決すべき?」
2020年8月
ひとりでは手が回らない! システム管理問題はどう解決すべき?
情報システム部門は、日常業務に追われて疲弊している。彼らは、全ての情報システムを把握し、運用しなければならないため、問題が発生した場合でも他の仕事に追われていることも多く、迅速な対応は難しい。では、現状の課題はどこにあるのか。そして、この問題を解決するためのアプローチとは。豊富なコンサルティング経験を持つ、あまねキャリア工房代表の沢渡あまね氏が解説する。
情シス担当者の抱える苦悩と課題
中堅中小企業において、情報システム管理の未整備が経営の足かせになっているケースをよく見かける。十分なIT予算を確保できないまま、使い勝手のよくない古いシステムを使い続けている企業は多い。このままでは、システム管理を行うIT担当者の負担は増すばかりだ。かといって、担当者の増員は容易ではない。こうした切実な課題を抱えているIT現場は多いだろう。
多くの企業では、1人または少人数の担当者に過大な負荷がかかっている場合がある。情報システムに関してのユーザー部門からの問い合わせ、運用管理といった日常業務に追われて疲弊している担当者は少なくない。
こうした課題の背景には、経営者のITへの理解不足がある。ビジネスを成長させ、業務効率を高める上で、ITの重要性はますます高まっているものの、すべての経営者がこうした認識を持っているとはいえない。また、現場の大変な実情が経営者に届きにくいという事情もあるだろう。
このように業務の負荷が高まる中、忙しさにかまけて課題を先送りにすると、後々大きな問題に発展する可能性がある。
例えば、スキルアップの時間が取れない点。次々に登場する新しいサービスや技術について、担当者が学ぶ機会は少ない。それは、時代遅れの情報システム環境の温存につながる。
属人化の問題も深刻だ。設計書や仕様書、トラブル対応履歴などを文書化する時間がとれないため、社内での情報共有は容易ではない。もし担当者が退職でもすれば、その企業のITと業務は大混乱するだろう。事業継続性の観点からも、経営にとって大きなリスクである。
情報共有の難しさは、社外との連携にも悪影響を及ぼす。ITベンダーに対して先のような文書を提示できないので、必要以上のコミュニケーションコストが発生する。また、自身の知識が十分でなく、時間もとれないため、何かを依頼するときにはITベンダーに“丸投げ”になりがちだ。
加えて、セキュリティ対策に不安が残る。OSやアプリケーションのアップデート、パッチ適用などに遅れが出れば、情報漏えいなどのリスクが高まる。
情報システムの負荷を記録し、見せる化する
以上のような様々な問題を一気に解決するのは困難であり、一歩ずつ前進するほかない。そこで、情シス担当者向けに、経営者への向き合い方、現場レベルでの工夫という両面で改善への3つの提案をしたい。
具体的に見える化・見せる化する
経営者を意識した取り組みとしては、見える化・見せる化が重要だ。情報システムの運用管理のような見えにくい仕事は内容が分かりづらく、悪気なく軽んじられる場合がある。だからこそ、経営者に対しては、見せる化が大切なのである。
単に「大変なんです」と訴えるだけでなく、システム管理の現場の負荷について具体的に示すことだ。日常業務について測定・記録して、「何に、どれだけの手間がかかっているか」を経営者や部門長に対して明示するのである。
経営課題に役立つことをアピールする
一方で、経営課題に対して「情報システムが何に役立つか、いかに役立つか」を知ってもらう必要がある。例えば、テレワークや女性活躍、外部とのコラボレーションを実現するためには、ITのサポートが有効だ。こうした経営テーマとITを紐づけて説明すれば、興味を持つ経営者は多い。人手不足に悩んでいる企業であれば、「テレワークは離職の抑制、採用活動にも役立つ」とアピールすればより効果的だろう。
中堅中小企業のIT投資については、政府や自治体が補助金の対象としている場合もある。公的支援の情報を収集して提案すれば、経営者の心も動かされるだろう。こうした活動を通じて予算を確保し、情報システムの刷新または改善を目指すのである。その方向性については後述する。
利用者とルールを決める
現場レベルの活動としては、業務ユーザーとの調整が必要だ。例えば、ユーザーからの問い合わせ対応時間を決め、それ以外の時間には受け付けないようにする。例外的なトラブル対応は発生するかもしれないが、ルール化しておけば全体的な負荷は低減する。
また、コミュニケーション手段を絞るというやり方もある。以前から電話とメールで問い合わせを受けていたとすれば、これをメールだけ、メールとチャットだけに変更する。電話対応がなくなるだけでも、現場の業務は軽減できる。
経営と業務に貢献する情報システムを目指して
情報システムの刷新・改善の方向としては、クラウドサービスの導入が望ましい。
自前でサーバーやパッケージソフトを購入してシステムを構築し、メンテナンスし続けるような時間は、少人数の情シス部門にはないはずだ。クラウドなら設計や構築、メンテナンスなどの手間を大幅に削減することができる。
ポイントは規模感とサポート
その際、クラウドの選定が極めて重要だ。どのような業務に、どのクラウドを使うか。その判断基準は大きく2つある。
第1に、規模感である。例えば、ユーザー200人程度を想定したクラウドを使いたい場合、ユーザーが1000人以上を想定したものだと使いにくいだろう。将来の拡張可能性を含めて、自社のユーザー規模に適したクラウドを選ぶのがポイントだ。
第2に、ユーザーサポートである。安いからといってサポートが不十分なサービスを選べば、ユーザーからの問い合わせが担当者に押し寄せる。多少価格が高かったとしても、しっかりしたサポートを受けられるサービスのほうが長い目で見ればお得だ。クラウド事業者のWebページのFAQの充実ぶり、説明会の有無・頻度なども踏まえて検討したい。
社内に味方を増やす
クラウドへの移行により負荷を低減させた先に目指すのは、経営と業務に寄与する情報システムである。ただ、現状ではその実現は難しいかもしれない。自社に適したクラウドにより、ユーザー部門の利便性向上・業務負荷低減に貢献して社内に味方をつくれば、情報システム担当者の増員要求も認められる可能性が高まるはずだ。経営者のITへの理解も進むに違いない。
目指すところに到達するまでの道のりは、決してラクなものではないだろう。しかし、従来のやり方を見直さないまま、問い合わせ対応のような業務に忙殺されることを考えれば、何かを変えなければならないのは明らかだ。できるだけ早く、第一歩を踏み出してもらいたい。
筆者プロフィール
沢渡 あまね(さわたり あまね) 氏
あまねキャリア工房代表/株式会社なないろのはな取締役兼浜松ワークスタイルLab所長/株式会社NOKIOO顧問/株式会社エイトレッド フェロー
1975年生まれ。業務改善・オフィスコミュニケーション改善士。IT運用エバンジェリスト。大手自動車会社、NTTデータ、大手製薬会社などを経て、2014年秋より現業。企業の業務プロセスやインターナルコミュニケーション改善の講演、アドバイス、執筆活動などを行っている。著書に『IT人材が輝く職場、ダメになる職場』(日経BP社)、『ここはウォーターフォール市、アジャイル町』(翔泳社)、『仕事ごっこ』『システムの問題地図』『マネージャーの問題地図』『職場の問題かるた』『職場の問題地図』『業務デザインの発想法』(技術評論社)、『新人ガールITIL使って業務プロセス改善します!』『運用☆ちゃんと学ぶ、システム運用の基本』(C&R研究所)など。