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情シス部門の仕事術

第2回テーマ「ITが原因で環境変化に追随できない?ブラックボックス化という切実な問題」

2020年12月

ITが原因で環境変化に追随できない?ブラックボックス化という切実な問題

一定規模以上の企業でも、IT部門の体制が不十分というケースは少なくない。1人または少人数の担当者が日々のトラブル対応、問い合わせ対応など後ろ向きの業務に追われている。そして、「ITの将来像」を描く、あるいはデジタルトランスフォーメーション(DX)について考えるような前向きの仕事に取り組むことができない。大きな原因の1つが、ブラックボックス化したITである。この問題に対していかに切り込むべきか。あまねキャリア工房代表の沢渡あまね氏が、ブラックボックス化したITを解きほぐすためのアプローチを語る。

ブラックボックス化の原因はシステムを作ることしか考えていないから

新型コロナウイルスは、日本におけるIT化の遅れを浮かび上がらせた。政府や自治体のITの不備が指摘されたが、もう一方の民間企業が進んでいるというわけでもない。

テレワークを例にとれば、すぐに新しいワークスタイルに適応できた企業は多いとはいえないだろう。テレワークへの移行に相当の時間を要したケースもあれば、ITが整っていないため最初からテレワークを諦めていた企業もある。

ITはいまや、ビジネスの継続や成長に欠かせない存在。日ごろからITを重視し、投資してきた企業は新型コロナウイルスがもたらした環境変化にも、すぐに対応できたはずだ。例えば、迅速にテレワークに移行できただけでなく、オンラインショッピングの立ち上げなど、環境変化に柔軟に対応する施策を早期に実現することができた。

ITを駆使して自ら変化する企業と、そうでない企業の差は広がるばかりだ。そして、日本では、後者の企業がかなり多いことが懸念される。とりわけ、長年使ってきた情報システムのブラックボックス化は、日々の業務に追われるIT担当者にとって切実な課題である。

ある程度の規模の企業であってもITに関わる組織体制が不十分で、社内で1人、部門で1人しか担当者がいない、あるいは総務部門などの担当者が片手間にITの面倒を見ている、といったことが常態化しているケースもある。IT担当者が少ない企業では、ブラックボックスが放置されがちだ。

なぜ、ブラックボックス化が起きるのか。企業によっていろいろな事情はあるだろうが、端的にいえば、「システムをつくることしか考えてないから」である。新サービスを実現するシステム開発は目に見えやすく、経営者やユーザー部門から評価されやすい。一方で、地味な運用業務はあまり評価されない。従って、後々のことを考えてドキュメントを作成しよう、運用しやすい設計を工夫しようといったインセンティブが働きにくい。

こうして、「システムのつくり逃げ」ともいうべき状況が生まれている。このままでは、ブラックボックス化は進行するばかりだ。「ブラックボックス化→トラブル対応などの運用負荷の増大→ドキュメントを残す時間がない→一層のブラックボックス化」という負のサイクルに、あなたの企業の情報システムは陥っていないだろうか。

経営者に対してビジネスリスクを説明しITの現状を可視化することが出発点

ブラックボックスがもたらす負のサイクルを抜け出すために、IT担当者はどこから手をつければいいのだろうか――。

1つのアプローチは、運用担当者を開発プロセスに参加させること。これにより、運用負荷のかかりそうな設計を回避することができる。ただ、システムを動かしてみて分かることも多いので、最初から運用しやすいシステムができるとは限らない。徐々に開発手法を成熟させるという、息の長い取り組みが求められる。

ブラックボックス化してしまった既存システムをどうするかという別の問題もある。長年の間に肥大化、複雑化したレガシーシステムをどのように改善し整理し直すかは大きなテーマだ。解決に向けたキーワードは可視化である。

ITの現状を可視化すれば、障害原因の特定が容易になり、素早いトラブル対応が可能になる。可視化して問題点を改善すれば、障害頻度そのものを減らせるだろう。また、テレワークへの移行に象徴される変化対応、新ビジネスの創出といった次の一手を打ちやすくなる。逆にいえば、可視化をせずに放置すれば事業の成長は期待できず、いずれは事業継続すら危うくなるでしょう。IT担当者は経営者に対して、こうしたリスクを訴えるべきである。

とはいえ、こうした直言に対して理解を示す経営者ばかりではないだろう。もしも経営者がこれを無視するようならその企業には将来性がない。IT担当者は、転職を考えたほうがいい。辛辣に聞こえるかもしれないが、IT担当者のキャリアや企業の行く末を思えばこその意見だということをご理解いただきたい。

ITの可視化には相当の工数を要する。可視化に取り組む際には、まずこの点を理解し、覚悟を決める必要がある。専門的な知見も必要だ。

日常業務で忙しい担当者、特に少人数の情シス部門にとって、ITの現状を可視化するのは容易なことではない。この分野で経験を持つ専門家の手を借りることも含めて、可視化の方法を検討する必要があるだろう。

可視化のアプローチとしては、ITサービスマネジメントの世界標準であるITIL(Information Technology Infrastructure Library)の考え方を推奨したい。ITILの管理項目は20以上あるが、特に重要と思われるのは構成管理、サービスカタログ管理、インシデント管理の3つである。

ムダなシステムを廃棄し、ITの刷新を図る最適化を進める上で、クラウドは有力な選択肢

構成管理は資産を可視化し把握すること

構成管理はサーバーなどのハードウエア、ソフトウエア、ライセンスや仕様書などの資産を可視化し把握すること。その際、システムやネットワークの構成図、依存関係などを含めて可視化するのである。「どこにリスクがあるのか」、「どこにパフォーマンスの限界があるのか」といったことが分かるので、「次に強化すべき部分」を適切に指摘することもできる。ITの状況は時間の経過とともに変化するので、構成管理もその都度アップデートしなければならない。

サービスカタログ管理はサービス提供のための業務を可視化すること

サービスカタログ管理は、利用できるITサービス、それらのサービスを提供するためにどのような業務が発生しているかを一覧にして可視化することだ。一般に、経営者とIT部門との距離が遠いケースは多い。サービスカタログを見せることで、経営者は「このサービスを維持するために、IT担当者はこのような業務を行っているのか」と理解することができる。サービスカタログ管理は、経営者のITに対する認知の向上、さらにいえばIT予算の確保にもつながるはずだ。

インシデント管理はトラブルを記録・管理すること

そして、インシデント管理。IT担当者は日々、現場からの問い合わせやトラブル対応などで多くの時間を取られている。どんなトラブルが起き、どのように対応したのか、どれだけの負荷がかかったかを記録、管理することが重要だ。ITのブラックボックス化が後ろ向きの仕事を大量に生み出している現状が、インシデント管理のレポートにより明らかになるだろう。

以上のような手法により、ITの「いま」を可視化することで様々なムダが見えてくる。ほとんど使われていなサービスが見つかれば、そのシステムは廃棄すべきかもしれない。似通ったサービスが複数動いていれば、1つに統合したほうが効率的という判断もありうる。運用の工数がかかりすぎているものなら、クラウドに切り替えるべきかもしれない。

日本企業の多くはこれまで、自社独自の業務プロセスにこだわってきた。それが独自の強みにつながっているなら別だが、単に「昔からこうしているから」と維持しているケースも多いのではないか。それが非効率の原因になっている。

クラウドの標準的なプロセスに移行すれば、運用負荷を低減し、スピードや拡張性を高めることができる。もちろん、すべてをクラウド化するわけにはいかない。クラウド移行によりコスト高になる場合もあるので一概にはいえないが、特にIT部門のリソースが逼迫している企業にとって、クラウドは有力な選択肢になるだろう。

当然のことながら、クラウドはあくまで手段にすぎない。どんな企業になりたいかというビジョンや戦略に基づき、こうした上位の目的に整合する形でITを導入しなければならない。クラウドの適否を判断する際には、目的に立ち返って考える姿勢が重要だ。

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