情シス部門の仕事術
第3回<前編>テーマ「まずはどこから進めればいい?クラウド移行のための3ステップとは」
2021年4月
まずはどこから進めればいい?クラウド移行のための3ステップとは
多くの企業が情報システムのクラウドシフトを加速している。一方、なかなか最初の一歩を踏み出せない企業もあるかもしれない。そうした企業の中でも「自分たちもクラウド化を進めたい」と考えているIT部門、あるいはIT担当者は多いはずだ。ただ、「どこから始めればいいのか」、「経営者をどう説得するか」と悩み、入口の段階で足踏みしているケースもありそうだ。あまねキャリア工房代表の沢渡あまね氏は、IT担当者のそんな声を多く聞いてきた。沢渡氏がこうした体験をもとに、オンプレミスからクラウドへの移行の注意点を語る。
クラウドに適した対象エリアとクラウドシフトの3つのステップ
ITの専任担当者が1人または数人という規模の企業を念頭に、オンプレミスからクラウドへの移行について考えてみたい。設計開発や運用工数の削減、コスト削減などのメリットを考慮して、社内にクラウド導入を働きかけているIT担当者は少なくない。導入に向けた各段階では、いくつかの注意すべき点がある。
まず、クラウドの対象エリアについて。どのような契機(きっかけ)で、クラウドに移行すべきだろうか。ビジネスの観点で考えると、3つの契機が有力候補になる。
クラウド化を検討する3つの契機(1)システム更改時にクラウド切り替えまず、サーバーの保守切れなどシステム更改のタイミングを選んで、クラウドに切り替えるという考え方がある。オンプレミス環境での更改に比べると、コストや時間などの点でクラウドのメリットを社内に説明しやすい。 (2)リスク対応リスク対応が求められる分野も考えられる。コロナ禍で必要性が増したテレワーク対応が好例だろう。テレワーク環境を構築する上で、クラウドは有力な選択肢となる。また、技術者の退職・休職リスクに備えるために、クラウドに移行するというケースもあるだろう。オンプレミスの自社システム運用の場合、どうしても運用スキルが属人化しやすい。退職などのリスクを考えれば、クラウドのほうが適しているだろう。 (3)新規のビジネスやサービスの立ち上げ外部パートナーなども参加する新規プロジェクトでもいい。こうした分野でクラウドを使ってみるのである。既存システムとは離れた「更地」なので、新しいクラウドがスムーズに受け入れられる可能性が高い。 |
では、IT観点で見た場合、どういうシステムからクラウド化を進めればいいだろうか。クラウドシフトの3ステップについても説明しよう。
クラウドシフトの3ステップ(第1ステップ)コミュニケーション基盤メールやビデオ会議、ファイル共有といったコミュニケーション基盤からクラウド化を進めるのが一般的だろう。コミュニケーションツールは特定業務に依存しないので、業務システムとの連携を考える必要性が低く導入が容易だ。また、基本的に全従業員が対象なのでインパクトが大きい。全社に向けて、クラウドの利便性をアピールできるはずだ。 (第2ステップ)お金を扱うシステム会計や受発注、支払などお金を扱うシステムである。こうした業務が属人化すると、経営の目が届きにくくなりガバナンス上の課題になる。クラウド化はこうしたリスクの最小化につながるだけでなく、将来的には人手不足への対応策としてのBPOに向けた布石にもなる。 (第3ステップ)秘匿性の高いデータを扱うシステム営業や設計・開発などの業務をクラウドに載せるかどうか、どの程度までクラウドに任せるかについては微妙な判断が求められる。第1・第2ステップを進みながら、自社のビジネス戦略に適したクラウド戦略を考えておく必要があるだろう。 |
筆者プロフィール
沢渡 あまね(さわたり あまね) 氏
あまねキャリア工房代表/株式会社なないろのはな取締役兼浜松ワークスタイルLab所長/株式会社NOKIOO顧問/株式会社エイトレッド フェロー
1975年生まれ。業務改善・オフィスコミュニケーション改善士。IT運用エバンジェリスト。大手自動車会社、NTTデータ、大手製薬会社などを経て、2014年秋より現業。企業の業務プロセスやインターナルコミュニケーション改善の講演、アドバイス、執筆活動などを行っている。著書に『IT人材が輝く職場、ダメになる職場』(日経BP社)、『ここはウォーターフォール市、アジャイル町』(翔泳社)、『仕事ごっこ』『システムの問題地図』『マネージャーの問題地図』『職場の問題かるた』『職場の問題地図』『業務デザインの発想法』(技術評論社)、『新人ガールITIL使って業務プロセス改善します!』『運用☆ちゃんと学ぶ、システム運用の基本』(C&R研究所)など。