情シス部門の仕事術
第3回<後編>テーマ「経営課題との接点で経営者を説得する5つのポイント クラウド移行に失敗しないための6つのチェック項目とは」
2021年6月
経営課題との接点で経営者を説得する
社員のモチベーションもポイント
クラウド移行には、経営者をいかに説得するかが重要だ。納得を得るために大切なことは、クラウドの利点を技術的に説明するのではなく、経営課題との接点で語ることだ。大きく5つのアピールポイントがある。
経営者に納得してもらう5つのアピールポイント(1)場所の自由度と利便性クラウドはテレワークの基盤になるほか、外部とのコラボレーションも容易。オンプレミスは人を場所・時間に縛り付ける面があるが、クラウドの自由度は高い。ユーザーのメリットはもちろんだが、リモートで管理ができるクラウドはシステム管理者の負荷も軽減できる。 (2)社員のモチベーション向上オンプレミスのシステムには多くの自社要件が盛り込まれ、“ガラパゴス化”しやすい。一方、世の中で広く利用されているクラウドは機能だけでなく、UI/UXの進化のスピードも速い。時代遅れのシステムを使わざるを得ないとすれば、ユーザーのモチベーションは低下するかもしれない。多くの従業員は、「イケてるサービス」を使いこなしたいと考えているはずだ。 (3)運用面でのメリットオンプレミスの場合、トラブル発生時に担当者がデータセンターに駆け付けることも多い。こうした工数も含めて、運用コストを数値化して示す必要がある。運用をクラウド側に任せれば、運用担当者を「攻め」の業務に当てることができる。それはモチベーション向上にもつながるはずだ。 (4)調達の手間オンプレミス環境においては、サーバー1台を購入するにも稟議から決裁、相見積もりなど多段階のプロセスを踏む必要がある。そのための手間とコストは無視できない。 (5)拡張性将来の事業成長、サービス拡充に合わせて、システムには拡張性が求められる。この点でも、簡単な設定変更でリソースを増減できるクラウドの優位性は明らかだろう。 |
具体的な検討段階、選定、導入で失敗しないための注意点
クラウドへの移行を具体的に検討する段階では、次の6個の項目をチェックする必要がある。
クラウド移行を検討するための6つのチェック項目(1)既存データにどこまでこだわるか大きく分けると、データをクラウドに移行する/移行しない、残す/捨てる/併用するという選択肢がある。この方針が曖昧なままクラウドに移行すると、後になってデータ移行に思わぬコストが発生する場合がある。また、過去データをオンプレミス、新しいデータをクラウドに載せて併用すれば、それなりの運用コストがかかることも押さえておく必要がある。 (2)セキュリティオンプレミスとクラウドを比較し、セキュリティ面でのリスクを評価する。少人数のIT部門であれば、セキュリティ専門家を抱えるのは容易ではない。その意味では、信頼できるクラウド事業者のほうが安心できるだろう。 (3)クラウド知識の不足への対処特にクラウドに慣れていない企業では、導入当初はスキル不足に悩まされることが多い。その場合、外部の力を借りるのが近道だろう。一定期間は外部のサポートを受け、徐々に内部のスキルを蓄積していくというアプローチだ。経験のある技術者を中途採用するという方法もある。 (4)コスト比較前述した機器調達の手続き、トラブル時のデータセンターへの駆け付けなど、隠れたコストにも注意が必要だ。オンプレミスとクラウドのトータルコストを数値化し、経営者に示すのが望ましい。 (5)クラウドの選定最大のポイントは可用性と拡張性である。どの程度までならシステム停止を許容できるのか、将来ユーザーの規模や利用エリアをどこまで拡張する可能性があるのか。これにより、対象となるクラウドはかなり絞り込まれるはずだ。 (6)クラウド側のAPIの状況既存データとの連携がどの程度必要か、クラウド側のAPIの状況なども考慮する必要がある。オンプレミスとクラウドのシステム連携を図る場合には、可用性の差にも注意したい。とりわけ密な連携を行うとすると、「一方が止まればもう一方も止まる」という状態になりがちだ。こうした事態も想定し、可用性のギャップを小さくする必要がある。あるいは、どちらかが止まっても、もう一方はスタンドアローンで動くような設計にしておくといった工夫が求められる。 |
クラウド技術者の見つけやすさも注意点の1つだ。一般に、広く利用されているクラウドほど技術者が多い。導入初期にサポートを受けるにせよ、担当者が退職するにせよ、比較的短期間で代替要員を見つけられるはずだ。
「クラウド導入後に、どんな問題が起きるか分からない」といった声を聞くこともある。これからクラウドを活用しようとする企業にとっては、もっともな懸念だろう。
想定される最もクリティカルな事態は、システム停止による業務停止。リスクへの対処の基本は冗長化である。クラウド側で冗長化のメニューがあれば、オプション料金を払ってこれを利用するという方法もある。また、システムが止まったら手作業で対応できるよう準備しておくという対策もある。クラウドを初めて導入するような企業なら、まずは停止してもさほど困らない業務で活用するという考え方もあり得るだろう。
以上、クラウド移行に際しての注意すべきポイントを述べた。社内でクラウドを定着させ、従業員の活用度を高めるためにも、最初の導入プロジェクトには慎重を期したいものである。
筆者プロフィール
沢渡 あまね(さわたり あまね) 氏
あまねキャリア工房代表/株式会社なないろのはな取締役兼浜松ワークスタイルLab所長/株式会社NOKIOO顧問/株式会社エイトレッド フェロー
1975年生まれ。業務改善・オフィスコミュニケーション改善士。IT運用エバンジェリスト。大手自動車会社、NTTデータ、大手製薬会社などを経て、2014年秋より現業。企業の業務プロセスやインターナルコミュニケーション改善の講演、アドバイス、執筆活動などを行っている。著書に『IT人材が輝く職場、ダメになる職場』(日経BP社)、『ここはウォーターフォール市、アジャイル町』(翔泳社)、『仕事ごっこ』『システムの問題地図』『マネージャーの問題地図』『職場の問題かるた』『職場の問題地図』『業務デザインの発想法』(技術評論社)、『新人ガールITIL使って業務プロセス改善します!』『運用☆ちゃんと学ぶ、システム運用の基本』(C&R研究所)など。