職場における仕事の基本はOJT(職場内研修)
-OJTの進め方は3段階方式から4段階方式へ-

滞納整理責任者が語る「公務員としての仕事の進め方」 [第1回]
2015年4月

執筆者:東京都主税局特別滞納整理担当部長
藤井 朗(ふじい あきら)氏

はじめに

はじめまして。東京都主税局の藤井朗です。
東京都の職員として、地方税の徴収事務に長年携わり、自分の失敗をベースに滞納整理研修等を都内はもとより全国に出かけて実施しています。職員、管理職を経験した中で、滞納事案にどのように取組んでいけばよいのかを考えることをライフワークと思っています。

研修では、当初は滞納整理のスキルアップを内容としていましたが、管理職になってからはマネジメントや人材(財)育成をメインに研修を実施しています。また、最近は首長や管理職を対象とした研修も行っています。興味のある方は『(改訂版)滞納整理と進行管理』(公益財団法人 東京税務協会発行)を読んで頂きたいと思います。

このコラムでは、徴収職員の経験を踏まえた「公務員としての仕事の進め方(心構えやモチベーション、そして進行管理)」について6回シリーズでお話ししたいと思います。

職務遂行はOJT

今回は最初のコラムということ、そしてちょうど人事異動の4月でもあり組織における異動の影響をいかに早く安定化させるかということで職場内研修(On the Job Training 以下OJTという)の進め方について提案したい。

職務を遂行する上で最も身に就くのが、OJTである。新規採用職員は当然のこと、新しく異動してきた職員は1日も早く仕事の進め方を学ばなければならない。例えば同じ法律に則って仕事を進めている税の徴収業務であっても自治体・組織により仕事の進め方は千差万別である。“郷に入れば郷に従え”ではないが、まずはその自治体・組織の仕事の進め方を素直な気持ちで受け入れたい。もちろん仕事の進め方が明らかに間違っていれば修正することも必要であるが、そうでなければ一旦受け入れることが必要である。

さて、職員一人ひとりに与えられた仕事を処理する上でも、前任者とか職場の周りの人達から仕事の仕方を教えてもらうことは大切なことである。このOJTが適切に行われている組織は、組織体制も組織運営も上手く機能している。つまり円滑に業務が回っているということが言える。

アメリカ・ハーバード大学のOJT

ところで私は2005年(平成17年)2月4日(立春の日)に心臓の僧帽弁腱索形成術をT医科歯科大学病院で行い、今に至っている。このとき執刀していただいたA教授は私の手術の後アメリカのハーバード大学に短期留学され、その後国内だけでなくインド・タイ・東欧の国々に心臓手術の指導に出かけられている。そのA教授から術後の定期検診の際、ハーバード大学留学の話しとなり心臓外科の手術におけるOJTの話題へと進展したことが、その後の私のOJTのあり方を見直し再構築することになった。

冒頭述べたようにOJTの重要性は私自身認識している。とくに滞納整理事務を担当するようになってからというものは、どのように効率的・効果的に自分の受命している滞納事案を処理することができるか日々試行錯誤であった。だからこそ次に続く人のためにも同じ失敗を繰り返さないことを念頭に、どうしたらいいのか思い悩んでいた折でもあった。そうした経緯もあり、A教授と話しをしていてハーバード大学のOJTは日本流のOJTと違うということに気づいた。

3段階方式から4段階方式に変更

これまでの日本のOJTの手順は、(1)説明する、(2)やって見せる、(3)やらせる、という手順で進めている。説明する人が(1)と(2)を行い、説明を受ける人が(3)を行うことで特定の内容について理解の共有化を図るものだ。これは知識移転の最たるものである。A教授との会話を振り返ってこの説明の方法を3段階方式と私が勝手に命名した。一方、ハーバード大学のOJTはこの3段階にもう一つ(2)と(3)の間に追加で“確認行為を入れる”という説明であった。

つまりハーバード大学でのOJTは、(1)説明する、(2)やって見せる、(3)(理解した内容を)確認させる、(4)やらせる、というものであった。A教授から教えて頂いた説明の仕方を4段階方式と呼ぶこととした。その後、日本のOJTに関する本などいろいろなところの説明を調べて見ても全て3段階方式であり、4段階方式を採用しているところはなかった。

確認行為で理解力がアップ

この4段階方式は間違いなく教えてもらう内容の理解度をアップさせる。なぜならただ漫然と教えられたことを受け身で行うのではなく、説明を聞いた段階で理解していることと理解していないことを分け、何が分からないことなのかを明確にすることが求められるからである。これがOJTの本来の姿であり、なおざりに言われたまま聞いていることと大きく違う。

説明者が説明し、やってみせる中で、自分が理解していることを説明しなければならないとなると自然と真剣になる。つまり自ずと理解度も速く、マスターする度合いも通常の3段階方式と比べて大幅にアップする。もちろんA教授が学んだハーバード大学での分野は心臓外科の最先端医療技術を学ぶためのOJTであり、一つ間違いをすると患者が死亡するということに繋がりかねないことを想定すれば、至極当然なことのように思える。

これまでのOJTは、説明する側から受ける側へ一方的に実施しているものが多いように思われる。そのため説明する側が説明を受ける側にどれだけ分かりやすく説明するかが問われてきたように思われる。しかし説明する側(教える側)の問題だけでなく、説明を受ける側(教えを受ける側)の心構えも変える必要があるのではないかと考える。教えを受ける側も主体的にならなければならない。いずれにしてもこの心臓外科の4段階方式のOJTは、全てのことに共通するのではないかと思い付いた。つまり一般実務においても4段階方式が使えると理解し、各地の研修でこの内容を説明している。

職場における職員間の信頼関係は組織の潤滑油

OJTを実施する上でもう一つ大切なことは説明する側と受ける側の双方に信頼関係を構築するという努力が必要である。よく研修で使われる山本五十六元帥の言葉に“やってみせ、言って聞かせ、させてみて、ほめてやらねば人は動かず”という言葉が出てくる。

これは一般的には上司として率先垂範すると同時に部下を褒めることが必要だと言われている。これは上司の率先垂範に限らずOJTに活用する上でも上手く出来たときには褒めることが大切なことだと考えている。そのことが仕事をする上での潤滑油となる。

仕事は組織で行うものであるが、その組織を構成しているそれぞれ多くの人が運営している。つまり人で仕事をしていることになる。仕事を進める上で他人から褒められて嫌な人はいない。気持ちよく仕事を進めるためにも人間関係を構築する必要がある。OJTを通じて職場内の人間関係を良好にすることで、円滑な業務運営に励んでもらいたい。

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