自治体が担うケーブルテレビの現状と更なる情報発信
自治体の情報発信とメディアの役割について考える [第1回]
2015年10月

執筆者:養父市企画総務部情報センター 副主幹
長谷川 伸也(はせがわ しんや)氏

はじめに

今回、私のような者がコラムを書かせていただくことになったのは、ある人からの強いご依頼に負けてしまったからです。文才もないのに引き受けてしまうことになりました。つたない文章かと存じますがご覧いただければ幸いです。

さて、私の住んでいます「兵庫県養父(やぶ)市」を皆さんご存じでしょうか。昨年あたりから全国的にも少し名前が出るようになりました。そう「国家戦略特区」に指定されたのです。

養父市というのは、2004年4月に兵庫県養父郡の4町(八鹿町・養父町・大屋町・関宮町)が合併して誕生した市で、いうまでもなく地域の代表的産業は「農業」です。しかしながら、年々進んでいる高齢化には勝てず、農業生産者が減っているのが現状です。かつ、シカ・イノシシ等をはじめとした獣害にも悩まされています。

そのような中ですが、農業を見つめてみますと、更なる発展性も秘めています。養父市には、せっかくたくさんの農地があるのですから、少しでも再生産、新たな動きができないかと、地元企業や都市部からの参入などで、一歩ずつ動き出したところです。悲しいところは、作物を植えて実るまで時間がかかってしまうことでしょうか。取り組みの成果はまだまだですが、これからの発展が期待されているところです。

農村型ケーブルテレビができた状況とは

平成に入った頃、都市と農村の情報格差を是正していこうという動きが出てきました。そのような中、平成3年ごろから当時の「関宮(せきのみや)町」で動き出しました。いわゆる農村型ケーブルテレビの開局です。

その関宮町というのは、地域全体が難視聴という環境の中、各地区ごとに共同受信施設を運営してテレビを視聴してきたわけですが、山頂のアンテナや伝送路ケーブルの維持が大変な地域でもあったことから、町民の皆さんに共同受信からケーブルテレビに移行していただいたことが始まりです。そして、空きチャンネルを利用した自主放送(コミュニティチャンネル)を開始しました。

当時は、近隣に同じようなことを行っている自治体が少なかったようで、模索しながら番組づくりを行ったようです。さらに、現在のようなパソコンで編集するのではなく、業務用テープを使った「リニア編集」が主流。一度失敗すると最初からやり直しという、今では考えられなかった環境でした。

その後、現在の養父市(当時は養父郡)内の他の自治体でもケーブルテレビ施設を作ろうという動きがあり、平成10年頃から施設整備を行いました。市内の一部地域では直接受信できる地域もありましたが、難視聴地域も多く、関宮町と同じように共同受信から新たにできるケーブルテレビに移行していただきました。自主放送だけではなく、アナログではありましたが、多チャンネルも開始し、多くの皆さんにご利用いただきました。

このように、初めはテレビの難視聴解消が第一歩で、それに自主放送などが付属してきたという状況下、何もかもが手探り状況だったという記憶が残っています。

当時の自治体ケーブルテレビの状況とは

前述させていただいたとおり、まだまだ模索してきた時代、自主放送の枠を埋めるのが精一杯な上、かつ公営ということで「あれはダメ、これはダメ」と言って、放送できるものに制限が多かったように思います。今では当たり前に取り組んでいるCM放送も行政だからと言ってできなかった時代です。制限が多く、視聴者を満足させられる番組は少なかったのではと思います。そして近隣にもケーブルテレビ局ができていく中、連携もまだまだで番組交換もできず、よりよい発信ができていませんでした。せいぜい、CS放送のグリーンチャンネルで地域情報発信枠に取り上げてもらうくらい。自問自答する日々でした。

もちろん、地上テレビ局は雲の上の存在で、連携の話すらできる機会がない状況でした。私のところだけではなく、他の自治体も同じような状況だったと思います。

三セクを含む民間のケーブルテレビ局は、横とのつながりができたり、ケーブルテレビ連盟のような団体もあり、ある程度の連携をとられていたように思います。自治体型のケーブルテレビにも有線テレビ協議会というものはありましたが、民間主導の連盟のような組織ではなく、なかなか連携がとりづらいものでした。そして、せっかく培ってきた技術もノウハウも上手に引き継げないこともありました。

少しずつ変化してきた時代

そのような中、兵庫県内でも動きが出てきました。このままでは、ケーブルテレビ業界が廃れてしまう。何とかしなくてはという思いがあったのか、いくつかの任意団体を経て、「兵庫県ケーブルテレビ広域連携協議会」という県内すべてのケーブルテレビ局が参加する協議会が発足しました。自治体ケーブルテレビ局は技術やノウハウなどが民間ケーブルテレビ局と比べて劣る中で、新たな情報交換の場となりました。そして、番組の共同制作、共同放映、番組交換をするためのサーバの構築など、少しずつでしたが変化してきました。

その頃、CS放送、BS放送に始まった「デジタル化」は地上波にも及び、ケーブルテレビ業界だけではなく、テレビ業界全体にとっても大きな変革期を迎えました。今では地上波も含め、完全にデジタル化が完了するに至ったのです。そして、インターネット社会になり、今まで番組交換といえば、テープを郵送するといったことが主流だったのがインターネット回線を介して、サーバに登録するという、非常に容易にかつ早い交換ができるようになりました。

自治体型ケーブルテレビが担う必要があるものは

少し話が前に戻ってしまうのですが、本来、自治体型ケーブルテレビが担う部分とは何でしょうか。始めた頃は、広報紙の映像版という程度だったと思います。「何か流してるわ・・・」というくらいだったかもしれません。今から思えば、とにかく撮りに行ったものを何とか編集らしいことをして流す、そのような姿の繰り返しだったと思います。

私のところに限らず、自治体が運営するケーブルテレビの職員のほとんどは「一般行政職」というもので、税務課や建設課、総務課などにいる職員と立場は変わりません。数年おきに人事異動もあり、その人事異動でケーブルテレビに詳しい者がやってくるのでもなく、何とか維持しているといった自治体も多いのではないでしょうか。

もちろん、ケーブルテレビ局ですから、番組制作だけやっていればいいのではなく、伝送路施設の維持、加入管理、経理等々民間局と同じような内容を自治体も行っているわけです。専門性が高い分野でありながら、自治体が補助金を使って整備をしたはいいが、維持するのに苦慮している。そのような感じに思えます。

中には、世帯数が少ない自治体ですと、運営コストがかかり、一般財源からの補填が必要になったりと苦労が多いようです。

そして、どの施設でも起こりうる「老朽化」です。整備後10年以上、長いところでは20年以上経過するようになり、故障や障害が出るようになりました。今のところ何とかしのいでいますが、そのうち大きな障害が出てしのぎきれない、そのようなことを危惧するようになりました。裕福な自治体ですと、ネットワーク網をHFCからFTTHに更新するというところもありましたが、それでもいずれ、「老朽化」はやってきます。

もちろん、情報発信は続けていく必要はありますが、今後のことを考えるとどの自治体も岐路に立たされているように思います。

地域情報の発信は必要ですが、今までの枠にとらわれてしまい、地域で行われた行事をその地域のケーブルテレビ局だけで放送していては駄目です。近隣にもケーブルテレビ局はできましたし、別に近隣に限る必要もないと思います。他の地域にない変わった行事などであれば番組交換の需要はあると思います。是非、全国に向けて発信すべきです。

また、ゲリラ豪雨等による災害も増えており、災害・防災情報の発信も求められています。いち早く情報提供できる仕組みがあることで、視聴者の皆さんは安心されることと思います。もし万が一、大きな災害が発生した場合、発生しそうな場合は、近隣自治体への情報発信も忘れないようにすべきです。発信するためにも、日頃から地域外との連携を密にし、いつでも情報発信すべく体制を整えておくべきでしょう。

ケーブルテレビ局ですから、弱点として、断線してしまう、停電してしまうとテレビが視聴できなくなる。そのようなところがありますので、もし、万が一ケーブルテレビ局で放送できなくなったとしても、地上テレビ局から情報発信してもらう。そのような方法もありではないでしょうか。

今回は、自治体型のケーブルテレビが開局した経緯を少しだけお伝えしましたが、まだまだ、お伝えしたいことはたくさんあります。次回をご期待ください。

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