「ICT×農業戦略」を考える
~養父市(兵庫県)を歩きながら~

「ぷらぷら☆旅をしながら情報化について考える」 ~ICT×国づくり×人づくり~ [第3回]
2014年12月

執筆者:NPO法人 HINT 理事長、ai株式会社 代表取締役
総務省地域情報化アドバイザー/総務省地域力創造アドバイザー
 井上 あい子(いのうえ あいこ)氏

養父市が、日本農業の先陣を走る

2014年9月に、国家戦略特別区域「中山間農業改革特区」に指定された養父市は、兵庫県北部の但馬(たじま)地方にあります。

養父市とのお付き合いは、およそ10年になりますが、ここ最近において、総務省地域情報化アドバイザーとして、また、総務省ICT地域マネージャーとして、養父市の情報化に関わらせて頂くきっかけになったのは、【人】との繋がりです。

当時より、県域での広域連携や地域の情報化に対する首長はもとより、情報部門を担当する職員も、大変熱心に活動をされていました。そして、今でもそのスタンスは変わらず、積極的に情報を収集し、異業種との連携や新たな事業に対して、建設的に取り組まれています。
そんな、養父市のたくさんある魅力をギューッと凝縮して、あえて一言で表現すると、【技】があるということです。
そして、【技】に出会うシーンが多いと感じます。

職場では、先輩から後輩へ、農業分野では、今まさに【技】の伝承が強化されようとしています。地域では、節句や四季折々の伝統行事の準備には、老若男女が集い、まるで全員が家族のように協力し合い、当たり前の日常に、そこに暮らす世代を超えた人々の、広い意味での【技】の継承があふれていて、微笑ましく和ませてくれます。

これからも、農業の時代

農業を取り巻く社会情勢ですが、今回のコラムの舞台となる養父市だけの問題ではなく、全国の中山間部において起こっている問題です。

  1. 農業従事者の高齢化における大量リタイア
  2. 新規農業就労者の低迷
  3. 農業を担う継承者の育成
  4. 耕作放棄地の増加(=耕作利用率の低下)
  5. 有害鳥獣の被害(とくに山間部)
  6. ICTを利活用した農業やICTを利活用した事業と農業とのコラボレーションによる
    儲ける仕組みづくりの確立 等

全国的に見ても、高齢化とともに農業従事者が減る中で、農産品の出荷が不足する地域が出てきます。また、人の手でなければ、収穫できない品種や、耕作機械が使用できない場所で収穫できる品種もあり、当然ながら、出荷が不足する地域が出てきます。

ということは、出荷が不足する地域への人手の供給と人の手でなければ、収穫できない品種について、特化して生産し販売する戦略を立てることも一考です。お米や野菜を必要としない人は、ごく一部の方を除いて、ほぼ皆無に近いと思います。ですから、これからも農業は必要であり、無くなると困る業(なりわい)です。

暑い中寒い中、昼夜を問わずに働いてくださる農家の皆さんのお陰で、人が生きて行くために必要な食べ物を、食卓に並べる事ができています。

だからこそ、食べ物を粗末にしてはいけないという、当たり前のことを前提に、農業について考えて頂きたいと思います。

農業の技術伝承とは

農業技術は、一言では表せません。本当に幅広い分野に及びます。
例えば、お米(八十八の手間があるので、米という字になったとか。)を例にとっても、私のお手伝い程度の経験からお話します。田を耕し、もみを育て、田植えから稲刈り、お米が口に入るまでには、農作業全般の段取りはもとより、土の管理、水の制御、肥料等の散布のタイミング、耕作機械のメンテ、稲刈り、脱穀し、乾燥して精米するまでの各種作業、水源を同じに持つ地域の人々との連携等、相当な手間と時間が必要です。

そして、そのすべての手順に技術が必要となります。

これまでは、熟練の勘や経験により、後継者への技術伝承が行われてきましたが、これからの技術伝承は、農業未経験者が、後継者として、また新たなイノベーションのきっかけにして頂く場合を想定して、データの共有やわかりやすい映像コンテンツを利活用して頂きたいと思います。

そして、農業にICTを利活用するということを考えて頂くにしても、机上で議論を行うのではなく、実際に農業現場に携わり、農業従事者のご意見をしっかりと聞いて、システム構築や新たな事業に盛り込んで頂きたいと思います。

ICT×農業戦略 技術伝承と情報の見える化が『鍵』

さて、ICTを利活用した農業戦略について、私の考えをお話します。
農業従事者と農業を取り巻く事業者が、これから検討し、導入して頂きたいことは、特に農業技術の伝承と情報の見える化です。下記は、農業分野におけるICTの利活用の一例ですが、様々なICTの利活用が考えられたとしても、その使い手は、【人】であり、すべては【人】に委ねられています。

農業技術そのものに対して

  • 管理:生産管理・トレサビリティ(注1)・技術管理
  • 営農支援:経営管理・データ管理・市場分析
  • 遠隔制御:温度管理・水質管理・薬品散布管理・有害鳥獣監視

農業を取り巻く環境に対して

  • 集出荷コントロール:在庫管理・流通管理・顧客管理
  • オンライン化:耕作機械の管理・センサ技術によるデータ計測(注2)・データ分析
  • 技術の伝承:映像コンテンツを制作し、放送・eラーニング

農業と異業種の連携を図るため

  • システムの構築:物流システム・ネット販売システム
  • 地図管理:GIS(地理情報システム)による農地台帳の作成
  • 有害鳥獣対策・海外への輸出事業 等

★伝承★とは、古くからある慣習や信仰、技術や知識などを受け継いで後世に伝えていくことで、そこに暮らすお年寄りから、教え頂きます。

これからの季節ですと、しめ縄づくりや神仏への供物などの準備において、一緒に作業をする事で、【技】を伝授して頂けますが、総じて、あらゆる技術を後世に伝えいくためには、そこに暮らす住民と事業者が協力して、映像コンテンツに残して行く必要があります。

そこで、先導役(リーダー)となるのは、やはり自治体職員の皆様方だと思います。だからこそ、普段からICTを利活用していないと、イザという時には使えませんし、伝えたい相手をイメージし、伝える内容を考えていないと、大切な技術を伝承することができません。

情報通信インフラの整備がされ、農業もできる環境にある自治体には、都会の喧噪で暮らすよりも、様々なライフスタイルをもったまま、その地域に移り住み、起業を願う人々が集まります。
そのためには、今一度、技術伝承と情報の見える化、今スグにでもできる、皆様の身の回りで使える、ICT利活用から行って頂きたいと思います。

養父市は、これから3年をかけて情報通信インフラ基盤のリニューアルが行われる予定で、農業政策の分野においても、情報通信インフラ網をどんどん活用する検討が始まります。そして、様々な情勢を見据えて、果敢にチャレンジをして行きます。
養父市は、ちょうど、このコラムが掲載されるまでに、市役所が運営するケーブルテレビの設備を介して、広域民放との連携も始まります。

ICT×農業戦略を考える前に、技術伝承と情報の見える化、広域連携を行うことが、優先事項です。そして、やっぱり【人】。

第3回のコラムを終えますが、養父市(兵庫県)に興味を持たれましたでしょうか? 農業戦略を考える前に、第一次産業従事者と関わる人が、旅をして、食べてみて、色々と体感して頂かないと・・・とっとと、仕事や用事を片付けて、とにかく外へ出掛けて行って下さい。
何より、本コラムをご覧になって頂きまして、何かのHINTにして頂ければ光栄に思います。

次回は、天空の城でおなじみの「竹田城跡」のある朝来市(兵庫県)を歩きながら「ICT×定住促進」について考えてみたいと思います。
どうぞ、お楽しみに・・・養父市より、播但道で南下中☆

(注1)食品の安全を確保するために、栽培から加工・製造・流通などの履歴を明確にすること。
(注2)作物や土壌管理に役立てるための、温度・湿度・日射 等のデータ

旅のMEMO

養父市への交通

JR山陰本線「八鹿」駅

養父市のお薦めのスポットの一部をご紹介させて頂きます。
是非とも、冬のスキーシーズンにも、養父市においで下さい。

アウトドア

  • ハチ高原スキー場
  • 氷ノ山国際スキー場
  • 東鉢伏スキー場
  • おおやスキー場

お土産品

  • 蛇紋岩米純米吟醸酒「仙櫻」 幻の逸品
  • おだがきさん家の八鹿豚(ようかぶた) 絶品

温泉

  • とがやま温泉 天女の湯(ケア風呂あり 要予約)

宜しければ、blogをご笑納下さい。

※市内で採れた餅米を使って、お寺の行事の準備中(技の継承)

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