コンサルタントのコラム
正しいIT戦略のつくりかた
[第1回]正しいIT戦略の構造とは
2010年8月(2020年10月改訂)
「IT戦略」とは、「情報技術(IT)を企業の経営戦略の一部としていかに利用するかに関する、企業の中長期的かつ具体的な方針・計画」(Wikipediaより)と定義されることが多いようです。
IT戦略を立案することの必要性は多くの場で語られており、その有効性については議論の余地のないところです。
正しいIT戦略とは
では、正しいIT戦略とはどんなものでしょうか?
例えば、
- 関係者の合意が得られていること
- 「見える化」されていること
- ITシステムの実現性が高いこと
- IT投資対効果が表現されていること
などなど、多くの条件を考えることができると思います。ですが、これらは良いIT戦略の条件に過ぎないのです。
正しいIT戦略とは、『経営目標や事業目標の達成に寄与する』ものであることが求められます。そしてそのためには、
「何のために」
「何を、何に変えるか」
「どうやって変えるか」
がIT戦略の中に明確に示されており、「何のために」の部分が経営目標や事業目標と整合していることが必要であると言えます。
「何のために」を表現したものを『目的』、
「何を、何に変えるか」を表現したものを『方針』、
「どうやって変えるか」を表現したものを『方策』
このコラムでは呼ぶことにします。
特に「何を、何に変える」という「方針」の部分はIT戦略の中核となる部分です。
「目的・方針・方策」のセットがIT戦略の基本構造となります。また多くの場合、一個の目的に対して複数の方針が考えられ、また一個の方針には複数の方策が考えられます。
目的の見つけ方
IT戦略における『目的』は、ある程度小さい粒度(下位目的)にまでブレークダウン(分解)されている必要があります。
なぜなら、IT戦略としての方針や方策はそれを立案したプロジェクトが当事者として取り組んでいくものであり、そのためにはある程度の具体性と実現可能性をもった方針や方策である必要があるからです。
トップダウンの視点では目的を定めるのは困難
経営目標などの最上位の目的からトップダウンで目的の粒度を落としていくと、多くの場合、IT戦略としての目的を定めることが困難になります。
例として、ある企業の経営目的から下位目的までを考えてみます。
-
上位目的
5年後に売上高を2倍にする
-
中間目的[1]
5年間、年率15%の売上高成長率を維持する
-
中間目的[2]
今年度の売上高を前年比115%にする
-
中間目的[3]
既存品の売上をキープする、新製品を投入する、顧客満足を8ポイント上げる、等々
なかなかIT戦略のための目的にたどりつけませんね。
一般的には、トップダウンで目的をブレークダウンするためには多くの経験と知恵が必要で、その正しさの検証も難しいことが知られています。
そんなにも多くの経験と知恵を持たない人でも、正しい目的をみつけることができないでしょうか?
そこで視点を変えてみることにします。
現場の問題意識から「方針」を見つける
IT戦略の中核は「何を、何に変えるか」(方針)であることはお話しました。
これは現実と目指す姿のギャップを表している文章です。つまり「方針」は、一般的に言われる「問題」の構造を持つものです。
ということは、私たちを含めた現場の人々が日常的に抱いている問題意識を集約して、経営目標などの上位目的との整合性が高いものを選択すれば、具体性が高い「方針」が見つかることになります。
また、「方針」にとっての「目的」は集めた問題意識の中に述べられていることが往々にしてあります。
私たちはIT戦略の「方針」となるテーマを『重要課題』と呼んでいます。
現場の方々から集めたものを『問題』、
問題を集約し経営目的との整合性が確認されたものを『課題』と呼び、重要課題は課題から抽出されることになります。
一般的な用語とは少し定義が異なりますので解説しておきます。
-
問題
「現状」と「理想」のギャップ。「こうである(As-is)」と「こうありたい、こうあるべき(To-be)」の差をあらわしたもの。上位目的との整合性があいまいな問題は、単なる願望や思いこみ。
-
課題
解決すべき問題または、解決するに値する問題。
-
重要課題
企業には様々な課題があるため、上位目的(企業理念・ビジョン・経営戦略)との整合性が高い課題を「重要課題」として集中的に解決する事が合理的である。
戦略の「方針」に相当するテーマ。重要性・有効性・具体性などを尺度として課題から抽出する。
今回のポイント
- 正しいIT戦略とは、経営目標や事業目標の達成に寄与するもの
- 「目的・方針・方策」のセットがIT戦略の基本構造
- トップダウンではIT戦略としての目的を定めることが困難
- 『重要課題』をIT戦略の「方針」とすると良い
次回は、IT戦略における方針、つまり重要課題を抽出する方法について考えていこうと思います。
執筆
NECネクサソリューションズ
シニアコンサルタント 冨澤 雅彦
[日本TOC推進協議会 正会員、日本UML推進協議会 BPMN研究会副主査]
本コラムに関連するコンサルティングサービス
- ITシステム企画サービス
ツボを押さえたシステム企画を立案し、次期ITシステムの投資対効果を最大化します。
ご質問・ご相談などお気軽にどうぞ
資料ダウンロードはこちらから