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IoT
IoT最新事例

トヨタ自動車はハノーバー・メッセで未来工場を見つけたのか

内向きのIoT事例、トヨタ自動車の生産現場に走る衝撃

「ドイツか日本かは関係なく、もっともいい技術を採用した」
(トヨタ自動車、先進技術開発カンパニー工程改善部長、大倉守彦氏)

2016年4月25日~29日にドイツのハノーバーで開催された世界最大級の産業技術の展示会「Hannover Messe 2016」(ハノーバー・メッセ2016)で、トヨタ自動車は、工場の生産設備をつなぐネットワークの新しい標準規格に独ベッコフオートメーション社「EtherCAT:イーサキャット」を採用すると発表しました。

イーサキャットは、ドイツで開発・オープン化された通信規格で高速性に加えて省配線化が可能な技術です。今回トヨタ自動車が採用したのは、“EtherCAT P”と言うデータ通信と電源共有を1本のケーブルだけで可能にした新型モデルです。トヨタ自動車では、これまで日本電機工業会の「FL-net」を生産設備のネットワークに使ってきましたが、今後はイーサキャットが標準規格となります。その意味するところは、トヨタ自動車の工場だけではなくトヨタ系列の全ての工場や生産に関連する取引先がイーサキャットを採用することになります。

欧州のドイツ自動車関連企業は、イーサキャットを利用しているところが多くトヨタ自動車は欧州での自動車生産や部品調達などがやりやすくなります。また、国内部品メーカーなどもこれをきっかけとして欧州自動車関連企業との取引チャンスが出てくるかもしれません。

写真1、ハノーバー・メッセ2016 トヨタ自動車がEtherCATを採用写真1(左から)EtherCATの推進団体であるEtherCAT Technology Group(ETG)チェアマンのマーティン・ロスタン氏と握手するトヨタの大倉守彦氏、この立役者である日本ベッコフオートメーション川野社長(写真提供:ベッコフオートメーション 川野俊充社長)

インダストリー4.0で先行するドイツのネットワーク規格をトヨタ自動車が採用したということは、トヨタ自動車が「つながる工場」(インダストリー4.0)に本気で取り組む姿勢を示していることを意味しています。「とりあえず“つなぐ”、“つないで”集めたデータを利用する」といった漠然としたIoTの可否を議論する段階は終わり、どんな手段で何を目的に“つなぐ”のかといった具体的な議論がここからのテーマとなります。

イーサキャット採用の決断は、これまで自前主義(クローズド戦略)を貫いてきたトヨタ自動車が、世界標準のオープン戦略へ舵を切ったと言えるでしょう。トヨタ自動車は、これまで自社系列内の閉じた世界で守られてきた領域をオープン化して『競争領域と協調領域』を見極めながらグローバル市場で闘う決断を選択したのです。

IoT/インダストリー4.0の取り組みには、製品を生産するために工場や仕入先などとのデータ連携で生産性向上やコストダウンを目指す“内向き”(守りのIoT)の活用と、製品にセンサー類やシステムを搭載してこれをネットワークでつないで、電気や水道のようにサービスを従量課金型で提供する“外向き”(攻めのIoT)の活用の2つがあります。トヨタ自動車のイーサキャット採用は、“内向き”のIoT化を進めるための第一歩となります。その狙いは、世界標準規格へ移行することで“日本国内で作って世界へ売るモデル”から“世界で作って世界へ売るモデル”への転換を意味しています。

【解説】「攻めのIT、守りのIT」:顧客向けシステム(SoE)と基幹システム(SoR)

[図]内向きのIoTと外向きのIoT図表1:内向きのIoTと外向きのIoT

製造業がIoTに取り組むべき目的は、世の中のトレンドがIoTだからではありません。ビッグデータを使えば、今まで出来なかったことができるようになるかもしれないからでもありません。最近「IoT」がバズワードだと言われる所以は、IoT導入を目的だと勘違いしている企業が多く手段と目的を取り違えているからです。『トヨタ生産方式』の著者、トヨタ自動車の大野耐一氏はその著書のなかで、“私どもの課題は、多種少量生産でどうしたら原価が安くなる方法を開発できるか、であった。”と書いています。(第一章:ニーズからの出発)カンバンという手段の導入が目的ではなく、多種少量生産を実現する手段のひとつがカンバンなのです。

“多種少量を安く作る、これは日本人でなければ開発できないことではないか。”と大野耐一氏は書いていますが、これこそ日本が目指すIoT活用目的のひとつではないかと思います。今年のハノーバー・メッセ2016では、約5,400社の企業や団体が出店していました。その内訳はドイツが2,340社、次いで中国が718社、米国が415社で、日本は58社と台湾78社、韓国71社にもおよばない状況です。

日本の製造業には、トヨタ自動車や三菱電機のように世界トップクラスの企業もありますが、その存在感は年々低下しているような気がしてなりません。ハノーバー・メッセの展示内容で、多種少量生産を実装ラインとして展示していたのは日本企業ではなくドイツ企業です。独ロボット大手メーカーのクーカ社の展示は、セル生産方式で完全自動化された多種少量生産を実現した実装ラインです。顧客が自分の欲しい仕様の製品をスマートフォンやタブレットから注文すると、そのオーダー内容に沿って生産ラインが動いて一品生産“ロットサイズワン”であっという間に製品を作ってくれるというものです。“Coffee4.0”と題するデモでは、自分の好みのコーヒーを注文すると、ロボットがその通りの味のコーヒーをその場で淹れてくれます。

また、スマートフォンのケースを注文ごとに一点ずつセル生産する実装ラインも展示されていました。

複数の実装ラインで多種少量生産を実現したクーカ社は、大野耐一氏が著書のなかで描いていた世界を実現する時代が到来したことを示しています。

この一品生産“ロットサイズワン”は、マスカスタマイゼーションと呼ばれているもので、顧客ひとりひとりの要望に沿って製品やサービスを生産するものです。一品ごとの個別生産を大量生産と同様に安い原価で実現することができます。クーカ社が展示していた実装ラインのデモは、完全自動化された生産ラインで実現しています。“Coffee4.0”の実装ラインは、スターバックスのスタッフやバリスタの役割を全てロボットに置き換えることが可能であることを証明しています。1,2年後には、コンビニの淹れたてコーヒーはクーカ社のロボットが淹れてくれるのかもしれません。

今年のハノーバー・メッセは、IoTが今後ものづくりの現場である工場をどのように変えていくのかを具体的にイメージさせるものが数多く展示されていました。昨年までは、ロボットやセンサーなどの機能やデータ活用例など要素技術がバラバラに紹介されるものが多く、日本企業の今年の展示も概ね要素技術中心でしたがクーカ社やシーメンス社、ボッシュ社やSAP社などの実装ラインベースの展示は、そのまま工場の実用化につながる内容だったと言えるでしょう。また、完全自動化工場は、既に日本国内企業でも導入が始まっていて金型大手アマダが “生産能力1.5倍、納期50%短縮”を掲げて2017年7月稼働予定で新工場建設に着手しています。今後こうした動きは、国内外の製造業で一気に拡大していくことと思われます。工場を対象とした内向きのIoT活用が、製造業で着実に広がってきています。

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