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中堅企業におけるIoT導入の実践的アプローチ

IoT導入におけるモノとコトの役割と使い分け

2019年12月

はじめに

前回は、「工場の電力消費量を削減する」というIoTプロジェクトのユースケースをあげてIoT導入についてご説明いたしました。今回は、もう少し踏み込んで、IoT導入における製品(モノ)とサービス(コト)の役割や使い分けについて掘り下げたお話をしたいと思います。

IoT導入とIT導入の違いは、IT導入はシステム導入によって省力化やコスト削減などに直接効果があるシステムの導入ですが、IoT導入はモノ(設備や機器など)から様々なデータを継続的に収集してこのデータを解析したサービスから効果を得るという間接的な効果で価値を得るという点にあります。まずはこの“継続的にデータを収集・蓄積・利用する”という考え方を意識する必要があります。

IoT導入成功のポイントは、モノの役割とコトの役割をしっかり決めること

前回は「工場の電力消費量を削減する」という事例で、IoT導入について説明しました。今回は、これについて「モノとコトの役割」という切り口でもう少し考えてみたいと思います。

このIoT導入プロジェクトは、工場の消費電力平準化とそこから導き出せるCO2排出量削減が目指すゴールでした。つまり、サービス提供の価値は、こうした情報を可視化して、誰にでも分かりやすく“ひと目見て分かる”仕組みを作ることで実現できます。つまりこれが「コトの役割」ということになります。では、このIoT導入プロジェクトにおける「モノの役割」とは何を考えれば良いのでしょうか。

このIoT導入プロジェクトでデータとして欲しいのは、工場における電力消費量の詳細なデータです。工場全体の電力消費量は、電力会社との契約によって毎月電力消費量が分かっています。しかし、その詳細は昼夜の変動や、季節変動などで刻々と変化しています。また、工場における電力消費量の大半を占めているのは、大型機械、エアコンプレッサー、空調機などですがその稼働状況は日々変化しています。まずは、その詳細なデータを収集しなければなりません。

こうした主要な電力量消費を網羅したうえで、何をコントロールすれば良いのかを考える必要があります。「モノの役割」とは、工場で電力を消費する機械やエアコンプレッサーや空調機のデータを詳細に収集する対象を定めるところから始まります。こうした現実世界のモノから得られるデータを『リアルデータ』と呼びます。

電力消費量の大きな設備や機械のデータを収集するうえで留意すべきは、1日(シフト毎変動)、1週間(週次変動)、1ヶ月(月次変動)、1年間(季節変動)です。電力会社との契約で見えているのは、1ヶ月毎の月次の料金変動のみです。これを展開して、1週間(週次変動)、1日(シフト毎変動)のパターンが収集することが重要です。さらに、機械の故障や想定外のトラブル、災害(台風、地震など)など、平常時以外の出来事や要素も考慮しなければなりません。

こうしたリアルデータをしっかり収集できたら、次はそのリアルデータをコントロール(制御)してみます。このIoTプロジェクトの目的は、「電力消費量の平準化とCO2排出量削減」がゴールなので、まず電力消費量の平準化からコントロールすることを考えます。1日毎、1週間毎でどうすれば電力消費量の変動幅を抑えられるのかを考えます。この変動幅と使用電力消費量を月次で減らせれば、電力会社へ支払うコストを削減することが可能となります。このコスト削減分を利用して、蓄電池で蓄電した電力を不足する時間に使えば変動幅はさらに減らせます。一時的に蓄電池の購入コストは掛かりますが、トータルの電力利用料金は減らせます。

また、年間の季節変動では冬と夏の電力消費量が大きく変動しますが、これは空調機の消費電力に大きく左右されるためどうすればコストを掛けずに温度を一定に保てるのかを実際にやってみる必要があります。空調機の電力消費量を抑えるためには、やはり断熱効果を最大化することが最も効果があります。外気との接点を減らして、温度変化の大きい場所を特定して、空調機の稼働電力を極力抑えるのです。つまり、モノのコントロールが出来てこそIoT導入プロジェクトを成功に導くことになります。

こうした情報は、サイバー空間(PC)上で仮説検証シナリオを作りながらデータ処理を行います。サイバー空間上で取扱うデータなので『バーチャルデータ』などと呼びます。日本の製造業は、長年のノウハウが蓄積されているため製造現場から取得できる『リアルデータ』の取扱いについて、世界トップレベルにあると思います。

モノをコントロールするIoT、コトで機能を拡張するIoT

この「工場の電力消費量を削減する」IoT導入プロジェクトについて、将来の展開を考えないPoCだと行き詰まるというお話は前回した通りです。PoCをそこで終わらせないためには、求める効果を出せるようにモノをコントロールする必要があります。これまで多くの企業が取り組んできたPoCの大半は、「データの収集と可視化(見える化)」を目的としたプロジェクトに偏っています。ここで欠けているのは、『リアルデータ』をコントロールするという発想ではないかと思います。

このモノからの『リアルデータ』をコントロールするために必要なのが、対象となるモノと関連性のあるデータでこの場合は環境データ(温度、湿度、ホコリ、光など)が重要となります。あとは、モノからのデータと環境データを使って、PC上で電力消費量を抑える仮説検証シナリオを机上で考えます。狙った通りのコントロールに成功すれば、これが目指すサービス(コト)の効果(価値)となります。

「工場の電力消費量を削減する」IoTプロジェクトの『リアルデータ』をコントロールするためには、電力消費量をどのように抑えて、どのように平準化すれば良いのか?という発想が必要です。工場の消費電力を抑えるためには、例えば季節や環境の変動が大きい空調機をコントロールするということを考えます。つまり、夏場は空調機の冷房を抑えるために設備や機械の排熱対策をして、冬場は電力を極力使わずに暖気を利用することを考えます。ポイントは、外気との温度差なので環境データをきめ細かく把握してこのデータを利用するのがコツです。

IoTプロジェクトのPoCで多い失敗は、対象とする設備や機器にセンサーを取付けてデータを取得しても工場各所の環境データを収集していないことです。環境データや、ヒト、モノ(原材料、仕掛品、完成品)に関するデータも一緒に取得していれば、これを関連性のあるデータとの相関性を『バーチャルデータ』上で見出して、ここから『リアルデータ』をコントロールするフィードバックが可能となります。こうした考え方こそ、失敗しないPoCの取組み方ではないかと思います。

ちなみに、この工場では電力消費量を平準化するために太陽光発電システムと蓄電システムを導入しました。これによって、電力消費のコントロール力を飛躍的に高めることに成功しています。

まとめ

今回は、前回の事例をさらに掘り下げてモノからの『リアルデータ』と、サイバー空間(PC)上で仮説検証シナリオから導き出した『バーチャルデータ』に基づいたサービス(コト)について事例ベースでご説明いたしました。この考え方は、設備や品質などにも同じように適用して考えることが可能です。

みなさまのPoCでも、対象とするモノにセンサーを付けてこのデータだけを可視化するのではなく、関連性のある他のデータとの相関性からデータをコントロールする考え方について考えてみては如何でしょうか。少し難しくなりますが、IoT導入による効果やその後の展開が大きく変わると思います。

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