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中堅企業におけるIoT導入の実践的アプローチ

製造業のサービス化、成功の鍵は「プラットフォームとアプリケーション」どちらが先か?

2020年3月

はじめに

前回は、経済産業省のDXレポート「2025年の崖」からDXへの取り組みが今後どのように発展していくのかについてご紹介しました。さて、今回は、製造業のサービス化について考えてみたいと思います。

ご存知の通り、最近メディアでは、米国大手ITベンダのプラットフォームに対する脅威が話題となっています。彼らが強い理由として、膨大なデータを収集蓄積するプラットフォームが強さの理由であると説明されています。だから日本企業も独自のプラットフォームを作るべきだということらしいのですが、現実には企業ごとに独自プラットフォームを構築して、蓋を開けてみればお客様が居ない空き家状態となっています。

この状況になって今更ながら、「プラットフォームが先か、アプリケーションが先か?」という相談が増えているのですが、今回はこの切り口でIoTへの取り組みについて紐解いてみたいと思います。

GAFAプラットフォーマーの凄さと成功の秘訣とは?

ここ最近メディアで取り上げられている大きな話題に、巨大プラットフォーマーGAFAに関するものがあります。ご存知の通り米国大手ITベンダ4社Google, Amazon, Facebook, Appleの頭文字を取った言葉です。業種に関係なく、IoTやDXに取り組む企業はGAFAのような存在に近づきたいと考えています。その中でもことさら製造業は、市場で初めて時価総額1兆ドル企業となったApple社のビジネスモデルを製造業のサービス化のお手本と考えています。

コンシュマー市場で成功したApple社に習って産業界で成功を目指したGE(ゼネラル・エレクトリック)社は、残念ながら変革を上手くコントロールできず失速、低迷してしまいました。産業用IoTプラットフォームの「Predix」を鳴り物入りで開発し、米国のみならず世界中の企業を巻き込んでアライアンスを組んで産業の変革を目指したのですが、性急な動きにGE内部がついて行けず、機関投資家からも莫大な投資に対するリターンが計画通りに上がらなかったことから経営トップのイメルト氏はCEOを解任されてしまいました。目指した方向性は決して間違いでは無かったと思うのですが、行動に結果が伴わなかったことと性急すぎたことがこの結果を招いたと言われています。

Apple社とGE社では、何が違っていたのでしょうか?両者を比較してみたいと思います。まず市場ですが、Apple社はコンシュマー市場(B to C)でGE社は産業市場(B to B)です。Apple社のプラットフォームは、ハードウェアのiPhone/iPadに組み込まれた基本ソフトiOSとクラウド基盤のiCloudです。GE社のプラットフォームは、クラウド基盤のPredixです。ハードウェアには航空機エンジンや発電機(タービンなど)、医療機器といったモノがありますが、ハードウェアに組み込む基本ソフトのようなものはありません。

そして、アプリケーション(ソフトウェア)については、Apple社は300万本以上、GE社は1000本ほどです。さらに、Apple社はコンテンツとして音楽/動画/画像などコンシュマーが求めるあらゆるデータフォーマットに幅広く対応(AR機能も間もなくリリース)していますが、GE社が扱うコンテンツとして有名なのは、「Predix APM(Asset Performance Management)という設備パフォーマンス管理のアプリケーションくらいです。つまり、GE社のプラットフォームは、Apple社に比べてコンテンツの数が圧倒的に少ないと思います。

また、Apple社は、iPhoneにコンパクトカメラを代替する機能や携帯ゲーム機を代替する機能、iPadにはパソコンを代替する機能を搭載して既存市場を破壊(Disruption)しています。ポイントは、既存市場を破壊して、新しい市場を創造(Creation)しているところです。DXの実現は、破壊と創造が鍵であると良く言われていますが、これを実現しているところにApple社の成功の秘訣があると思います。

プラットフォームよりアプリケーションが先なのは顧客ファーストのビジネス戦略

Apple社の成功した理由は、やはり顧客ファーストを貫いていることにあると思います。ユーザーが欲しいと思うあらゆるコンテンツを、たった1つのスマートデバイスが実現してくれる。携帯電話とゲーム機とコンパクトカメラをスマートフォン1つで代替出来て使い易い訳ですから、これを使わない手はないのです。産業用でも考え方は同じで、既存の機器や設備やシステムを代替するアプリケーションをどれだけ揃えることが出来るのかが、このビジネスモデルで成功する秘訣ではないかと思います。

しかし、多くのマスメディアはアプリケーションの前にGAFAを引合いに出してプラットフォーマーを目指すべきだと言います。GAFAが強いのは、既に幅広いアプリケーションの品揃えを持っていて、これをさらに強化するプラットフォームと一体化していることにあるのではないでしょうか。このコラムの読者で、GAFAが提供するサービスを使ったことがないという人はまず居ないと思います。むしろ日常生活で日々触っているに違いありません。どのような優れた機能が提供されていても、その中心に人が居なければ無駄な機能となってしまいます。

最近良くある問い合わせが、「プラットフォームを作ったけれど利用者が増えない。どうすれば利用者を増やして売上を伸ばすことが出来るのか?」というものです。ここまでコラムを読んだ方なら、答えはもうお分かりの通り利用者が欲しいコンテンツに対応した幅広いアプリケーションを品揃えすることです。

コンシュマー用でも産業用でも、顧客ファーストは同じです。「プラットフォームを提供するから、欲しいコンテンツを利用するアプリケーションは自分で作ってください」というのは違うと思います。この議論は、県や市町村などの行政が郊外の空き地に工業団地を作るとか、辺鄙な場所に商業施設を作るやり方に似ています。インフラが整っているだけで、そこに工場やお店を出そうと思う経営者はまず居ないでしょう。その場所へ行くメリット(物流やコストなど)と結果(売上や集客力など)が伴わなければ、結局誰も来ない場所となります。IoTプラットフォームについても、全く同じことが言えます。

エレベータの製造販売、および管理サービスを提供するフィンランドのKONE社のケースをご紹介します。KONE社は、1910年創業から100年以上エレベータやエスカレータを設営管理してきました。全世界で110万機以上の管理サービスを提供して、1日10億人以上の人々の移動を支えています。エレベータを利用するお客様ひとりひとりが求めているのは、単なる昇降の「機能」ではなく、安全かつ最適に常時稼働し続ける「アウトカム(結果)」だとKONE社のCEOは認識しています。設備ではなく人を中心に考えてこそ、お客様が求めるあらゆるサービスにきめ細かく対応出来ると考えています。

KONE社は、IoTで取得したデータをAI(セールスフォース社のEinsteinやIBM社のWatson IoTなど)で処理すれば、それぞれ異なるニーズに最適な対応が可能だと言います。KONE社が目指しているのは、「お客様全てに、それぞれ求める個別の新しいサービスを提供する」ことです。これまで通りの画一的な機能を提供するではなく、IoTを導入することでエレベータやエスカレータの利用者それぞれが求めるニーズにきめ細かく対応した個別サービスが重要です。KONE社がイメージしている他社との差別化は、機能よりも人にフォーカスしたサービスにあります。

参考動画1:KONE 社、Einstein と Watson でエレベーターとメンテナンスの新しいあり方を提案

まとめ

「プラットフォームなのか、アプリケーションなのか」という質問の背景には、トップダウンで「我社もIoT導入を進める。プラットフォームビジネスにも取り組む」と言った曖昧な指示に悩む現場責任者の声です。IoTについては、技術もノウハウも拡充してきましたが、これをどのように利用すれば顧客が増えるのか分からないという声も急増しています。IoTは手段ですから、他社の事例を真似しても自社ビジネスにそのまま使える訳がありません。「プラットフォームか、アプリケーションか」という質問自体が間違っていて、お客様を中心に考えて、お客様が求めるサービスを提供するアプリケーションを品揃えしてから、アプリケーションが乗る基盤としてのプラットフォームを整えるのが良いでしょう。

つまり「アプリケーションとプラットフォーム」の両方必要です。どちらが先なのかというと、当然お客様が求めるアプリケーションが先となります。そのプラットフォームが自社なのか他社なのかは、お客様にとってあまり意味がありません。スマートフォンでも、人気のあるアプリケーションはiPhoneにもAndroidスマホにも両方同じアプリがあります。逆に、どちらか片方しか対応していないアプリは次第に廃れていきます。筆者が担当ならば、自社の強みを生かしたアプリケーションを作って複数のプラットフォームに載せてアプリ利用者をとにかく増やすことから取り組みます。お客様を確保しないことには、プラットフォーム戦略までたどり着けず行き倒れてしまうからです。

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