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特集 情シス事情を知る

製造・流通業でAIは活用されているのか
~AIは万能ではない。人間はよりクリエイティブな業務にシフトしていこう~

2019年5月

様々な業界業種で活用が進んでいるAI。では、製造・流通業界ではAIに対してどのような課題解決に期待が寄せられ、実用化に向けてどのような取り組みが行われているのだろうか。また、どのようにAIを使いこなせば業務効率化や業績アップにつながるのか。事例を交えつつ、AI活用の今を解説する。

なぜ今、AIの活用が進められようとしているのか

数年前から最先端のテクノロジーとして注目されはじめたAI(人工知能)だが、機械学習やコグニティブ(認識)をサポートするソフトウェア、さらにその処理を高速に並列実行するGPU(Graphics Processing Unit)リソースを、クラウドから必要なときに、必要な分だけ調達できるようになるなど、現在では身近なソリューションとなってきた。これに伴い、大手企業のみならず中堅中小企業を含めた様々なビジネスでAIの導入・検討が進んでおり、様々な調査結果によると、その市場は現在も拡大を続けているという。

この流れを政府も後押ししていく考えで、2018年9月より内閣に設置されている統合イノベーション戦略推進会議(議長:官房長官)において、世界で繰り広げられるAIの研究開発、社会実装の熾烈な競争に我が国が伍していくための本格的なAI戦略の検討を開始。現在、そこで策定を目指しているAI戦略パッケージの骨子が徐々に固まりつつある。

AI活用において特に重要な鍵を握る「人材」「データ」「倫理」に関して進めるべき政策を策定。さらに検討を深めつつ「研究開発」「社会実装」に関する実現政策をまとめ上げるとするものだ。

では、具体的にどんな業界がAIの活用を始めているのか。まずは製造業や流通業について掘り下げてみたい。

まず製造業において大きなテーマとなっているのが、スマートファクトリーの実現である。生産活動の最適化や自動化のほか、作業者の目視によって行われている検査工程の自動化などでもAIの活用が進んでいる。

一方の流通業も同様で、煩雑な手間と時間を費やし、なおかつベテランの経験や勘に頼った属人化した業務が数多く存在しており、AIはマーケティングの精度向上や店舗オペレーションの効率化などで広く貢献している。特に近年では、AIを活用した需要予測の取り組みも拡大している。

製造業におけるAI活用事例

実際に様々なビジネスで導入が進むAIの事例を、いくつか取り上げておきたい。まずは製造業における取り組みだ。

AIによるリアルタイム分析で製造ラインの稼働率が上昇

ある食品メーカーは、工場内設備の予知保全を実現すべく、製造ラインの各所に設置したセンサーから収集した振動データをAIによってリアルタイムに分析する状態監視の実証実験を開始した。工場内には、たった1台の停止が製造ライン全体の停止に直結するような重要な装置が存在しており、そこに発生している異常や不具合を早期に発見することで、製造ラインの稼働率を高めることができるのである。加えて、人手による巡回型の点検作業の削減といった効果も期待されている。

製品の画像データをAIで学習/分類し、負荷軽減と品質の平準化を実現

またあるメーカーは、焼成工程を経て完成する製品の画像データをAIで学習/分類し、良品と不良品を即座に判別するシステムを構築した。不良品を抽出して製造ラインから除去すると同時に窯の火加減を的確にコントロールすることで、続けて不良品が発生するのを防ぐ。これにより人間の検査員に頼って行われていた目視検査を縮小・廃止することが可能となり、緊張が長時間続く作業からの負荷軽減を図るほか、属人的なバラツキのあった品質を平準化することができた。

生産現場のデータ収集・可視化で、サプライチェーン全体での品質を向上

ものづくりを“見える化”する取り組みもある。IoTを活用して生産現場のデータを収集・可視化し、現場で発生する問題への対応スピードと改善サイクルを短縮するとともに、物体指紋認証技術を使って個体ごとの製造履歴管理を実現する。これによりサプライチェーン全体での生産性および品質の向上を実現する。

流通業におけるAI活用事例

流通業においても、AIを活用した事例があるので紹介したい。

チケット価格を変動させるダイナミックプライシングをAIで実現

流通業界では、チケットの価格を需要に応じて変動させるダイナミックプライシングをAIによって実現した例がある。需要、市況、天候、個人の嗜好などに関するビッグデータをもとにAIが適正価格を算出するというものだ。観客動員数の増加を図ると共に、収益を最大化することが可能となる。また、チケットの不正高額での転売防止などでも有効な対策となることが期待されている。

「異種混合学習」で食品の商品需要予測精度を向上

また、「異種混合学習」と呼ばれる技術を活用し、従来の統計的な手法では困難とされてきた食品の商品需要予測精度を向上させた例もある。これにより製造・配送・販売間のミスマッチをなくし、欠品、過剰在庫、廃棄ロスを大幅に減らすことが可能となった。

来店した顧客の映像をAIで分析することで、店舗の収益改善が可能に

さらに店舗では、既存の防犯カメラや商品棚に設置した小型カメラの映像から、来店した顧客の属性(年齢・性別・ライフスタイルなど)や購買行動をAIで分析するシステムの実用化も進んでいる。AIを応用した様々な技術の中でも、特に画像(物体)認識については人間を上回る精度を達成していると言われており、接客にあたる店舗スタッフの業務負荷を軽減できる。これにより仕入れや販売戦略の最適化、レイアウト変更、販促キャンペーンの効果検証などを今まで以上に効率的に行うことが可能となり、店舗の収益改善を図ることができる。

人間をAIに置き換えるのではなく、人間とAIの最適な連携の在り方を探ろう

ただし、現在人間が行っているあらゆる業務をAIに代行させられるわけではないことは、しっかり認識しておく必要がある。上記のような大量データの処理など、煩雑でなおかつ定型的な業務をAIに任せることで効率化を進めることができるが、AIが提示した結果を実際に採用するかどうかの最終的な判断や、臨機応変な対応が求められる接客などは、やはり人間でなければできない。人間をAIに置き換えることを目的とするのではなく、人間とAIの最適な連携(協働)の在り方を探ることが肝要である。

また、セキュリティに対する配慮も忘れてはならない。AIの活用には多くの場合、ビッグデータの収集が伴うが、だからといって企業が好き勝手にデータを集めたり、利用したりできるわけではない。特に個人情報に関するデータの取り扱いは要注意である。加えて、それらのデータが外部に漏えいすることがないよう厳重な保護が求められる。

人間をよりクリエイティブな業務にシフト

少子高齢化の進展に伴う市場の縮小、高度なエクスペリエンス(体験価値)を求める顧客ニーズの多様化など、厳しい競争に直面する現在のビジネスにとって、AI活用は自社の持続的な成長を実現するための手段として欠かせないものとなっている。製造・流通業においては、これまで述べてきた事例なども参考にAI活用を考えてほしい。

ただし、先に述べたこととも重複するが、現時点でAIが「できること」と「できないこと」をきちんと整理した上で取り組むことが重要だ。

例えば、これまでにないサービスや新規ビジネスを展開したいと考えても、その企画立案をAIに任せることはできない。AIにはまったくの白紙の状態から新しいアイデアを生み出すことはできないのだ。また、人間同士であれば、相手の反応を見ながら話題を振ったり、言葉遣いを変えたりといった対応が可能だが、そうした機微をとらえたコミュニケーションの判断はAIには困難だ。

今後は少子高齢化によって労働力人口は少なくなっていくと予想されているが、ITの進化などにより業務の複雑化はより進み、生産性向上も求められるだろう。さらに、働き方改革推進も待ったなしだ。こういう背景もあり、人間とAIは仕事内容を切り分けて協働していかなければならず、私たちの仕事はより高度な発想やクリエイティブ能力が問われる業務にシフトさせていくことが必要だ。この機会に今一度、自身の働き方や仕事内容を見直してみてはいかがだろうか。

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