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特集 情シス事情を知る

ビッグデータ活用はピンとこない! 中堅企業は狙いを定めたスモールデータで勝負すべき
~精度の高いスモールデータを分析・活用し、企業競争力を高めよう~

2019年9月

第4次産業革命やデジタルトランスフォーメーション(DX)といった変革が巻き起こる中で、IoTやAI、そしてビッグデータといったキーワードが注目されており、データの重要性はますます増している。だが、中堅企業がビッグデータを活用、といってもなかなかピンとこないだろう。そこで中堅企業のデータ活用で大切になるのが「スモールデータ」と呼ばれる、特定分野における精度の高いデータだ。では実際にこの「スモールデータ」はどう収集・分析し、企業競争力を高めるにはどうすればよいのだろうか。

データの重要性はますます増しているが…

昨今、“Data is the new oil(データは新しい石油)”という言葉が生まれるなど、これまで以上にデータに注目が集まっている。米国の「GAFA」や「FANG」(Google、Apple、Facebook、Amazon、Netflix)、中国のアリババやテンセントといった企業が、データを独占的に集めて活用することで巨大なビジネスを生み出し、圧倒的な支配力を高めている状況を受けたもので、データの持つ価値がますます高まり重要度を増している。

これらの大企業は、従来からの基幹システムだけでなく、Webやソーシャル、あるいはIoTの仕組みなど、ありとあらゆる媒体を通じてビッグデータを集めている。そして、集めた大量かつ多様なデータ(=ビッグデータ)を、機械学習(マシンラーニング)や深層学習(ディープラーニング)のアルゴリズムを用いて分析し、新しいサービスやビジネスのモデルを創出しているのだ。

だが、これと同じようなビッグデータの収集、蓄積、分析、活用といったサイクルを中堅以下の企業が実践しようとしても、かなり高いハードルが立ちはだかる。保有しているITシステムのスケールやパフォーマンス、投じることができる資金、人材など、あらゆるリソースが不足しており厳しいのが実情だ。

なぜスモールデータが注目されているのか

そうなると中堅以下の企業は、データ活用はできないのだろうか。だが、あきらめるのはまだ早い。データ分析といっても、必ずしもビッグデータが必要でないケースもある。

そもそもビッグデータは“宝の山”ではない。むしろ、一見しただけでは“ガラクタの山”としか思えないことの方が多い。この膨大に積み上げられたガラクタの中から宝の原石を掘り当て、精錬したり、加工したり、組み合わせたりすることで、ようやく価値に変えることができるのである。当然のことながら、それには途方もない労力が伴う。

そこまでしなくてもビジネスの内容によっては、ビッグデータのように様々な媒体から詰めた大量のデータでなくても最初から精度の高いデータ、いわゆる「スモールデータ」を集め、そのデータを深く考察することで、さらにそこから価値ある情報や洞察を得ることができるのだ。

医師の診察を例にとって考えてみよう。身体のダルさを訴え、顔や足にむくみが生じた患者が外来を訪ねてきたとする。医師は、すぐにこの患者の尿検査を行う。そして蛋白や赤血球の数値が通常よりも高ければ、腎臓に疾患があると診断する。要するにこの尿検査によって得られた特定項目の数値がスモールデータだ。医師はその賢者の病歴や生活習慣、体質といったありとあらゆる情報(ビッグデータ)を得る以前の段階でも、患者の症状と尿検査の数値という限られた情報(スモールデータ)でも確度の高い診断を行い、必要な医薬品の投与など治療(アクション)を即座に開始することができる。

スモールデータ分析はどういうビジネスシーンで使えるのか

実際にスモールデータが活用できるビジネスシーンにはどういうものがあるのか。具体的な事例を取り上げながら検討していこう。

まずは、映画にもなった有名な「マネーボール」の取り組みだ。米国メジャーリーグ球団のオークランド・アスレチックスでゼネラルマネージャーを務めたビリー・ビーン氏が、セイバーメトリクスと呼ばれる統計学的手法を用いて、プレーオフ常連の強豪チームを作り上げた伝説的な事例である。

セイバーメトリクスとは、選手の情報をもとに統計を活用して選手を客観的に評価するものだ。具体的には自チームの選手の過去の打席データを分析した結果から「得点期待値(3アウトまでに獲得が見込まれる得点数の平均)」を設定し、それを向上させることのできる要素を持った選手を「良い選手」としてオーダーを編成した。特に重視したのが出塁率で、打率が多少低くても出塁率の高さを優先して選手を獲得した。

ここでいう「良い選手」とは、必ずしも年俸とは比例しない。要するにスター選手でなくてもかまわない。それでもオークランド・アスレチックスは毎年のようにプレーオフ進出を続け、2002年には年俸総額1位のニューヨーク・ヤンキースの1/3程度の財力しか持たないながらも、全30球団中で最高の勝率、最多の勝利数を記録した。

ビッグデータではなく、すでに手元にあるスモールデータのみで現状を把握し、「27個のアウトを取られるまでは終わらない」という野球のルールの中で、パフォーマンスを最大化するチームを作りだすことに成功したのである。

次に取り上げるのは、様々な業種を抱える複合企業の事例だ。同社は自社製のジェットエンジンを搭載した航空機の運行状況をモニタリングし、そこから得られるデータを解析することで、顧客である航空会社に対して燃料効率を最適化するフライトパターンを提供している。「航空機の運用状況」という狙いを定めたデータを集め、深く分析したことによって、新しいビジネスモデルの創造に成功したのである。

日本の製造業も自社製品について、かなり詳細なデータや経験値の蓄積があるはずだ。より柔軟な発想でそうしたスモールデータの活用を広げていくことにより、ユニークなサービスや新しいビジネスを生み出したり、モノづくりの在り方を抜本的に革新したりできる可能性は十分にある。

そうした観点から事例として注目したいのが、ある酒造メーカーの取り組みだ。この企業はブランド力のある銘酒で知られているのだが、実は以前、経験豊富な杜氏が一斉に退職してしまい、深刻な経営危機に陥ったことがあるという。

この危機を乗り越える原動力となったのが、他でもないスモールデータの分析と活用だ。同社は酒造する際の湿度や温度、タイミングなどの条件を定めてデータを集め、そのデータを細かく分析。これにより入社1年目の若手社員でも熟練の杜氏と同等の品質を保つことが可能となり、効率的に高品質な商品を作ることに成功したという。

次は、課題と解決策をしっかり定めてスモールデータ活用を行った農家の事例だ。その農家は野菜の仕分けにかなりの時間を要しており、その作業を効率化するために、野菜の画像を集めてAIで分析し、その結果を活用して仕分け機を製作するという方法をとった。実際に使った野菜の画像は数万、数百万という大量のデータ(ビッグデータ)ではなく、人の手で2~3カ月間撮影した数千枚の画像(スモールデータ)だったのだが、そのデータをAIで分析した結果はかなり高い正答率となった。この結果によって、仕分け機の試作機製作もスムーズに進めることができたという。

自社の課題を理解することでデータの収集方法が決まる

スモールデータ活用といっても、まずデータを使って何をしたいのか、自社の課題は何なのかを定める前段階の施策が重要だ。それが決まればどれくらいの期間でどういうデータを集めればいいのかを決めることができる。そして意図をもって集めたスモールデータをAIなどで分析し、自社のビジネスに活かす。この流れが重要だ。

もちろん、意図をもって集められたデータには、重要な機密情報や顧客情報、個人情報などが含まれている場合があるため、慎重な取り扱いが求められる。だが、情報漏えいなどのセキュリティ対策は入念に行うことを前提として、チャレンジを始めない手はない。

スモールデータを積極的に収集・分析し、活用することで、自社の競争力を高め、並み居るライバル企業に差をつけることが可能となるのだ。

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