「青い鳥」が飛び立つ跡に残るもの
~次世代SNSの運用について考える~

変革と共創する時代の情報化トレンド戦略 [第7回]
2023年10月

執筆者:NPO法人 地域情報化推進機構 副理事長
ITエバンジェリスト/公共システムアドバイザー
野村 靖仁(のむら やすひと)氏

「X(旧Twitter)」では、イーロン・マスク氏が会社を買収して以降、頻繁に行われる仕様変更や表示アルゴリズムの修正などが話題になりましたが、サービス名称を「X」に変更した後「新体制」への移行に伴い大量のアカウントが「凍結」され、その中には自治体アカウントも含まれるなど、突然の運用方針の転換が続いています。

岩手県花巻市では、2023年7月15日~16日にかけて、市内は大雨警報発令中で土砂災害の危険が迫っていたため「避難所が発表されました」という情報を、避難所を一覧できるリンクと共に12回投稿しましたがその後、7月17日に市のアカウントが凍結され、ツイッターでの災害情報の発信ができない状況となりました。

花巻市のアカウントは、7月21日午前0時過ぎに「凍結」解除されました。自治体では、災害発生等に地域住民へ注意喚起する際、同じような内容の情報を短時間に大量に発信することが考えられますが、それが「スパム」と判断されるのであれば、そもそも「X」が提供するシステムを安心して利用することはできません。

「旧Twitter」は、2011年の東日本大震災の際、電話回線が繋り難い中で利用者が急増し、災害時の有効な情報提供源として自治体でも活用されてきましたが、突然のアカウント凍結で、自治体の非常時の告知・広報に支障が出るのであれば、今後の「X」の運用に関しては、多くの不安要素が残ることになります。

花巻市と同時期に、埼玉県草加市、大分県佐伯市、静岡県伊東市のアカウントも凍結されていますが、本来アカウント凍結は「X(旧Twitter)」が規定するルールに違反した、他のユーザーへの攻撃的なツイートや、スパム行為に対して下される処置で、地方自治体のアカウントが「X」のルールに抵触するとは考え難く、自治体側からすれば「被害」に遭ったような感覚ではないでしょうか。

「Twitter」の代替サービスを考える

イーロン・マスク氏による買収を発端として、7月上旬には「Meta」が新しいSNSアプリ「Threads(スレッズ)」の提供を始め、サービス開始から5日間で登録ユーザー数が1億人を突破したことが話題になりましたが、「旧Twitter」に代表される、短文投稿型のSNSは大きな変革期を迎えています。

その一方で、「X(旧Twitter)」では、ユーザーが1日に閲覧できる投稿数の制限や、突然の仕様変更による不具合発生など、不安定な状況が続いたことで、ユーザーの中には、他のSNSへ移行するための代替サービスを模索する動きが見られます。

「旧Twitter」の140文字や「Threads」の500文字の文字制限など、短文投稿型のSNSはショートメッセージと共に画像・動画を投稿できること、そして他のユーザーをフォローすることでタイムラインが表示されるなど共通点もありますが、サービスが目指す方向性の違いが、ユーザー側のベネフィットに直結するSNSを利用する際の使用感に直結することから、仕様変更が続く「X」が不安定な状態にあることは事実です。

ユーザー1億人を集めた「Threads」

「Meta」がリリースした「Threads」は、「Instagram」のアカウントがあれば直ぐに始められることから急速にユーザー数を拡大していますが、これだけユーザー数が急増してもサービスは安定していますので、「Instagram」からの導線も相まって、多くの有名ブランドや著名人ユーザーが増加しています。

しかし、500字のゆるやかな文字制限や、10枚までの画像・動画の投稿、リツイート(投稿の再投稿)や引用ができるなど、基本機能は完備しているものの、「#」ハッシュタグを用いた検索機能は提供されておらず、投稿を検索することはできません。

また、ブラウザからタイムラインを確認するためのWeb版の提供はなく、ユーザーは「iOS」や「Android」のスマホアプリを利用するのが基本となっていることから、「Threads」は機能的には発展途上のサービスではないでしょうか。

そして、投稿が流れてゆくタイムラインも時系列順とは限らず、ユーザーが何を見るかは、「TikTok」や「Instagram」のようにアルゴリズム次第で、それが独特のゆったりした雰囲気を生み出しているとも感じられます。

独自プロトコルを推進する「Bluesky」

「Bluesky」は2019年に「旧Twitter」内のインキュベーションプロジェクトとして誕生し、Twitter創業者であるジャック・ドーシー氏が深く関与していることで注目されている「分散型SNS」です。

「分散型SNS」とは、現在の主要SNSが一つのサービス・サーバにユーザーが集合するのに対して、「分散型SNS」では、話題やユーザーに応じた「インスタンス(サーバ)」が複数存在し、利用者は自分が所属したい「インスタンス」に参加する仕組みです。

基盤となっている「AT Protocol」という仕組みは、このプロトコルを使う他のSNSのユーザーとも、投稿データやフォロワーなどの情報を相互運用できることから、将来は複数のサーバが協調して大きなSNSを構築する分散型のサービスを目指しています。

現状ではクローズドな仕組みであるSNSに対してユーザーが不満に思ったとしても、投稿したコンテンツやフォロワーの情報を他のアプリケーションに引き継ぐことは難しく、別のサービスに移行する場合には、全てをやり直す必要があります。

それに対して「Bluesky」では、同じプロトコルを利用するアプリケーション同士で、データを引き継ぐことや、タイムラインを表示する際のアルゴリズム、投稿表示の可否を担うモデレーションの選択など、先進的な試みに挑戦していますが、現時点では招待制のためユーザーの広がりは限定的であると思われます。

分散型ソーシャルメディア「Mastodon」

「分散型SNS」の歴史は「Bluesky」が初めてではなく、2017年ごろに登場した「Mastodon」があります。GNUオープンソースのプラットフォームを採用することで、異なるサーバ毎にデータが存在しているため、「W3C」で策定されている「ActivityPub」プロトコルによって、双方向に投稿を閲覧することが可能になっています。

この「ActivityPub」の仕組みは、「Meta」が提供する「Threads」でも将来的に導入される可能性が示唆されていますので、今後は「Mastodon」が提唱する、複数サーバが協調する「分散型SNS」の世界観が広がっていくかも知れません。

ただ現状では、新規のユーザーは、最初にサーバを選ばなければいけない点や、異なるサーバの利用者をフォローする際にはひと手間必要なことなど、一般ユーザーから見るとマニアックな設定から、大幅なユーザー数の増加には繋がっていないのが現状です。

「Twitter」後のSNSの課題

このように、SNSのサービスを俯瞰して見るとわかってくるのは、「旧Twitter」の機能そのものを代替するSNSは見当たらず、もし「X」がサービスを停止または、大幅に改変した場合、そのコミュニティや機能をそっくりそのまま移行することが可能なSNSは現時点では存在していません。

サービスは安定していますが、タイムライン検索ができないため情報収集に難のある「Thread」、分散化によって、サービスの停止リスクは低いものの、マニアックな設定が参入障壁になっている「Masotodon」など、一長一短あるのが現状です。

SNSの使い方は個々のユーザーによって異なりますが、誰かが発信した情報を入手する、利用者同士がコミュニケーションを楽しむ、そして、自分の伝えたい情報を発信・拡散する、このような行為が基本になっていると思われます。

このように考えると、現時点の「Threads」ではユーザー同士がコミュニケーションをとることはできても、「#」ハッシュタグによる投稿の検索ができないため、情報の発見や拡散が困難なところが懸念事項として浮かび上がってきます。

特に「Threads」のアルゴリズムの今後の展開が直近の要注目ポイントで、自由に情報をやり取りしたい一般の利用者にとっては、「Bluesky」「Mastodon」などの「分散型SNS」の進展は魅力的に映るのではないでしょうか。

クロスプラットフォームの可能性

利用者の目線で見ると、携帯電話事業者が提供する「ナンバーポータビリティ制度」のように、利用するサービスは異なっても、自分が持つデータを他のプラットフォームに移行して、継続利用できることは重要な要素ではないでしょうか。

これまで、事業者側の戦略として、保有するユーザーに関連した情報・データが価値ある資産になり、「顧客生涯価値(Life Time Value)」を増加させるため、顧客の囲い込みが行われてきましたが、いまでは「ナンバーポータビリティ制度」は利用者本位のサービスとして定着しています。

ゲームの世界では、様々なゲーム機の枠組みを超えてゲームを楽しむ「クロスプラットフォーム」と呼ばれる仕組みによって、Android、iPhone、家庭用ゲーム機からパソコンまで、異なるデバイスでも使い慣れた環境でプレーすることができる仕組みが構築されています。

囲い込みよりも相互運用における長所・利点を見出すことが、利用者へのベネフィット提供に繋がることから、ゲームの世界ではクロスプレイ環境が解禁され、このような動きは事業者にとっても、ユーザー側から見ても、得られるメリットが大きいことを示唆していると思われます。

本来、SNSが持つサービスの特性を考えると、現状のように単一の事業者が提供するプラットフォームが巨大化し、既存メディアの枠を超えて、社会的潮流を生み出す基盤のような存在になることを、不自然に感じるのは私だけでしょうか。

この先、ソーシャルメディアの世界では激動が予想されます。多くの可能性を秘めた分散型ソーシャルメディアが覇権を握るのか、「X(旧Twitter)」が再度、主流に復権するのか、「分散型SNS」を巡る取り組みによって、利用者に魅力的なサービスや素晴らしい体験が提供されることを祈るばかりです。

上へ戻る