医療機関における臨床指標のあり方
第3回
2013年7月

執筆者:株式会社アイ・ピー・エム
    代表取締役 田中 幸三(たなか こうぞう)氏

本コラムは、医療機関における臨床指標のあり方について考察しています。第3回は、前回に続き、臨床指標について説明します。筆者は、指標を標準化するだけでは医療の質は向上しないと語ります。

臨床指標の活用~診療の標準化と改善~

先月に引き続き、臨床指標についての話を進めたい。
前回、脳卒中2病日以内の抗血栓療法の有効性というプロセス評価についてお話をしたが、続きとして、アウトカム評価における糖尿病のコントロール率について考えて行きたい。

この指標を調査した結果として、医師別の処方が違うことでのコントロール率の違いが大きいという結果があった。
本来、治療は標準化されていれば、ほとんどが同一の効果を期待できるはずだが、現実は、そうではない。今回の検証で、医師別のデータを取った病院の話だと、医師によって、30%~80%の開きがあるという。

つまりは、医師によってコントロールできている患者の割合が違い、診療の標準化ができていないということになる。特に、処方による違いが大きく、医師別処方を比較した結果、効果の上がる処方を推進する(医局会での勉強会等)事で、数値の改善が見られる結果となった。
このように、今後の医療においてはエビデンスに基づいた診療の標準化とそのための改善が、医療の質の向上につながると考える。

指標の「見える化」がもたらすもの

また、医療機関における臨床指標のひとつとして、がんの生存率も必要な指標のひとつである。2012年6月の官邸政策会議における「医療イノベーション5ヵ年戦略」の中で、「がん登録」の法制化についての話し合いが行われ、今年度中に法制化される方向となった。
これにより、「がん登録」が進み、データの信憑性やその活用が推進されることになる。日本人に多い死亡要因の疾患指標が確実になることで、医療の質の向上が推進され診療の標準化対策につながることが期待できる。

システム的な視点から見ると、現在は、医事データから指標を取るケースがほとんどであろうが、今後の臨床指標については、先に述べたようにプロセスの指標が重要となってきている。
その中で、予防抗菌薬の1時間以内の投与率については、HP上で公表されている病院のほとんどが90%を超えているが、現実は、そうでもない様子である。

ある学会の事例では、当初、50%を切っているという医療機関があった。1時間以内の予防抗菌薬の投与は、その後の感染症の抑制においても重要な問題であり、禁忌を除きほとんどのケースで投与されるべき方法である。
前記の医療機関は、結果を公表することで、3ヶ月で90%まで向上したそうである。ここにも「見える化」の効果が出ているといえる。

やはり指標やデータは抽出・蓄積と「見える化」で知らせることが重要であるといえる。ただ、この指標の抽出のためには、システム的な問題がある。
現在、電子カルテや手術システムには、投与時間という定義を持っていないシステムがほとんどである。したがって、この指標の算出には、術中記録に手書きで投与時間を記載するというアナログ的な方法で、データを取得するしかない。人的作業を効率化する上において、今後のシステム改善に期待したい。

今後さらに求められる「医療の質の向上」には、収集・分析・評価・改善といったプロセスが必要となる。
そのためには、システムを有効に活用することで、作業労力の効率化を図るべきであると考える。その上で、「医療の質の向上に役立つ臨床指標」を構築されることを推奨する。

次回は、6月開催のセミナー後記としてお話をしたい。
少しでも皆様のお役に立てれば、幸いである。

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