医療安全対策と機能評価に関する考察(第2回)
医療安全対策について
2015年1月

執筆者:株式会社アイ・ピー・エム
    代表取締役 田中 幸三(たなか こうぞう)氏

医療従事者と患者のギャップから生じたトラブルの要因と事例

前回は、日本医療機能評価機構による医療安全に関する報告事例の検証をお話ししたが、今回は、「医療安全教育研修から」という内容で、医療従事者と患者のギャップから生じたトラブルの要因と事例についてのお話をしたい。

まずは、その要因であるが、医療従事者と患者の間には、「知識と理解度の違い」や「立場の違い」によるトラブルが多くみられる。

「知識と理解度の違い」においては、

  1. 医学は高度で専門的分野を取り扱うため、一般人には難解で理解できない用語や事例が多い(ADL、CF、誤嚥、嚥下・・・等)。筆者自身も入職当時は、看護師の会話の意味や意図がわからず、的外れな行動をした経験がある(その時の看護師からの冷たい視線は痛かった。。。)。
  2. 丁寧に説明したからと言っても理解の度合いは人それぞれである。本当に理解しているかどうかも不明である。また、説明している時は理解しているようでも、実はその内容を本当に理解していないことも多い(患者の表情や発言を見て記録する取り組みも必要)。
  3. 説明した時点では、理解していても、時間がたつと忘れてしまう(一般的には、聞くだけだと全体の10%しか記憶できず、見聞で50%の記憶に留まるといわれている)。

「立場の違い」においては、

  1. 医療従事者側は、日々多くの患者さんを相手に日常業務を行っており、病んでいる人を中心に仕事をしている。患者側は、病気になること、入院すること、手術することが非日常の一大事である。
  2. 医療従事者側は、日々の緊張の連続の中で、経験を積むことにより、一定の耐性ができている、もしくはできてしまう(これがインシデントにつながるケースも多く、それがアクシデントとなってしまうケースもある)。患者側としては、医療従事者にとって当たり前のことでも、常に不安と心配が付きまとっている(医療従事者の患者の病を軽視したような態度や表情が、患者に不信感を抱かせることもある)。
  3. 医療従事者側は、毎日多くの患者を診療・ケアしており、患者一人にかけられる時間には、制約がある。患者にとっては、先生、看護師しか頼る場所がないという精神状態に陥りやすい。

このような知識・理解度、立場の違いが医療従事者と患者のギャップを生み、そのくいちがいにより、患者は不信を招き、病院そのものの信頼を失う結果につながることも考えられる。

最近は、「患者様の声」を掲示している医療機関も多い。筆者も医療機関を訪問する際には、必ず、その声を読む。そこで、その医療機関の今がわかる。中には、「感謝の声」ばかりが目立つ病院もあるが、うがった見方をすると、本当に?と思ってしまうことも少なくない。患者側にも問題があるケースも多々あり、患者の声がすべてとは言わないが、少なくとも院内の運用状況や資質の向上を図るためには、有効な手段である。

人は生きている限り必ず何らかの病に遭遇する。医療・ケアのスペシャリストである医療従事者は、その知識と経験を生かし、患者の立場に立った医療を提供していくことが使命ではないかと考える。

尚、今回の内容は、新人看護師向け医療安全研修の内容から抜粋してお話をさせていただいた。次回は、ギャップから生じたトラブル事例についてのお話をしたい。少しでも皆様のお役に立てれば幸いである。

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