なぜ、病院の手術室のカイゼンは、進まないのか
GHC優良病院経営レシピ[第3回]
2014年2月

執筆者:株式会社グローバルヘルスコンサルティング・ジャパン(GHC)
    代表 渡辺さちこ(わたなべ さちこ)氏

はじめに

現在、多くの急性期病院がDPC制度(注)を導入しています。DPC制度上でも出来高算定できる手術は病院収入に占めるウエートが大きく、急性期病院として生き残るためには、より多くの手術を実施していくことが重要です。

そのため、最近では手術室の経営にかかわる分析を院内で行う病院が増えてきているように感じています。しかし、分析するものの、実際には数字の共有などに終始し、カイゼンに向けて議論したり、アクションを決定できたりしている病院は少ないようです。

なぜ、カイゼンへとアクションを起こすことができないのでしょうか。
そこには病院組織特有の問題が潜んでいたのです。

「自分が一番がんばっている」と考えているプロたち

手術室の運営には、外科系診療科の執刀医・麻酔科医・手術室看護師や、ときには病棟看護師といったさまざまなスタッフがかかわっています。当然、外科系執刀医にとっての課題と、麻酔科医やそのほかのスタッフの課題は異なります。

そのため、利害関係が相反する場合が多く、気持ちをひとつにすることが難しい場合が多いのです。しかも、各職種がプロフェッショナルとして業務を行っているため、互いの領域に踏み込めません。こうしたことから不満を抱える状態・状況によく遭遇します。

下図は、多くの病院に見られる「利害関係」と「不満の声」の関係を整理した模式図。注目してほしいポイントは、各職種とも多忙を極めているため、手術に関して「自分たちはがんばっている」と考えていること。どの部門も他部門の状況がみえないうえに自分たちの大変さだけを実感しているため、「手術室の効率が上がらないのは他部門のせい」で、「自分たちよりも他部門が改善すべきだ」という意識が強いのです。

  相手
執刀医 麻酔科医 OP室看護部 病棟





執刀医
  • がんばっている
  • 自科麻酔の問題
  • 麻酔手技時間が長い
  • 人員入れ替えが激しく慣れない
  • 看護部要因で手術拒否がある
  • 受け入れ制限
  • 担当医コールの頻繁さ



  • 手術時間が長い
  • 時間通りに降りて来ない
  • がんばっている
  • 1室に対する人員過剰・不足
  • 準備の非効率
  • 訪問時に患者がいない
O
P



  • 手術時間が長い
  • 時間通りに降りて来ない
  • 緊急手術への対応
  • 非常勤麻酔科医への対応が困難
  • がんばっている
  • オンコールのやり取り
  • 手術患者申し送り

  • 入退院時の忙しさ
  • 呼び出し時のレスポンス
  • 術前ラウンドなどのやり取り
  • オンコール手術の連絡のタイミングが悪い
  • 手術患者の申し送り
  • がんばっている

わたしたちコンサルタントは病院にとって第三者なので、こうした利害関係を抜きに、客観的な情報と他病院での実例などを基に課題を整理していきます。しかし、「自分たちはがんばっている」「他部門の改善が必要」意識から、スムーズにいかない場合がしばしばあります。

「安全性」を盾に、ふりだしへ戻る

地方都市の中核病院であるA病院の実例をもとに、この問題を考えていきたいと思います。手術室の運用カイゼンするためにA病院の私たちが実施したデータ分析の結果は下記の通り。

分析結果

  • 手術室の稼働率は30%台と、ほかの急性期病院に比べて低い
  • 午後から開始する手術が多く、手術室の稼働率は午後5時以降が高い
  • 手術枠の使用率が目立って低い診療科と、既定枠以上に手術を行っている診療科に大別できる
  • 予定手術の患者待ちは1-2か月の診療科が多い
  • 開業医への逆紹介を推進しているため、より多くの手術を実施できる診療科と、外来業務が忙しくこれ以上は対応できない診療科がある
  • 手術枠の設定がスタッフ数に見合っていない
  • 午前中の手術は手術室から断られることが多い
  • 手術1件当たり看護師3人を配置。手術が少ない時間帯には人員過剰となり、看護師は洗い物などを行っている。助手は掃除と片付けに終始している

複数の部門における要因が絡みあっているため、部門単独では解決できないことが多いのです。課題解決の糸口は、手術室の関係者が「カイゼンが可能な課題」と「不可能な課題」に、切り分け、優先順位を付けて段階的にカイゼンしていくこと。

この病院では、外来業務を術日以外に移すことに協力的な診療科があったため、まずは職員数の配置の見直しと、外科系医師の業務実態に合わせた手術枠の設定に着手しました。

ところが、それまで10年以上にわたって、2人で実施していた麻酔の導入を1人に、3人配置していた看護師を2人にそれぞれ減らし手術を実施することに、関係者たちが「安全性の確保」を盾に強く抵抗してきたのです。さらに彼らは、「手術件数を増やす」という、病院の方針に対しても疑問を抱くようになりました。

そこで、院長ら幹部らに、方針を改めて周知するように伝えましたが、結局、幹部は方針を彼らに明確に示すことができませんでした。こうして、振り出しに戻ってしまったのです。

「安全性」を盾に、ふりだしへ戻る

各部門の運営は、病院の方針・戦略と一貫性を持たせなければなりません。だからこそ、カイゼン・改革には病院の方針を明確に示し、それを周知していかなければならないのです。例え、カイゼンの過程で壁にぶつかった場合でも、一貫して実行するというトップのコミットメントが必要不可欠。

病院組織では、各職種のプロフェッショナル意識が強く、彼らは常に退職という切り札を持っています。そのため、対応に手を焼いている幹部も多いです。しかし、トップは、抵抗にあっても姿勢を崩さず、病院の方針を根気よく伝え続けなければなりません。多くの職種がかかわる部門の運営では、この意識統一が特に重要だと言えます。

病院の幹部や次世代リーダーのみなさんは、病院・部門・チームの方針をスタッフにきちんと伝えていますか。

2025年に向けて国が病院病床の再編を進める方針を示している以上、急性期病院の競争は今後、ますます激化するはずです。こうした中で急性期病院として生き残れるかどうかは、トップのコミットメントにかかっていると言っても過言ではありません。

(注)DPC(診断群分類別包括払い)制度とは
DPCとは従来の診療行為ごとの点数をもとに計算する「出来高払い方式」とは異なり、2003年に導入された入院期間中に治療した病気の中で最も医療資源を投入した一疾患のみに厚生労働省が定めた1日当たりの定額の点数からなる包括評価部分(入院基本料、検査、投薬、注射、画像診断等)と、従来どおりの出来高評価部分(手術等)を組み合わせて計算する方式です。1日当たりの定額の点数は、「診断群分類」と呼ばれる区分ごとに、入院期間(I、II、特定入院期間)に応じて、入院期間が長くなるほど点数が下がる設計です。DPC対象病院は現在1,496病院(2013年4月1日現在、厚生労働省発表)あります。

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