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コラム

経営に役立つ原価管理

-第4回 原価低減と現場改善へのモチベーション向上-

2018年12月

原価低減と現場改善へのモチベーション向上

製品の付加価値を高めつつ、原価低減を目指すことは、製造業経営の永遠の課題と言っていいでしょう。
本章では、原価低減を牽引するための原価管理の方法について紹介します。

(1)原価低減の条件

原価低減に反対する人は誰もいないでしょう。
しかし原価低減を大義名分に、良かれと思っても、やってはいけないことがあります。
それは

  1. 原価低減はできたけれど製品の品質が下がってしまうこと
  2. 原価低減はできたけれど顧客価値を失ってしまうこと
  3. 原価低減はできたけれどキャッシュが無くなってしまうこと
  4. 原価低減はできたけれど法令の禁止事項に抵触してしまうこと

の4点があります。

(2)原価低減のためにキャッシュを損なうことを防止する。

原価低減のために、キャッシュを損なうことがあります。

原材料の大量買付や製品のバッチ大量生産によるコストダウンです。結果、消化できない在庫を抱え、キャッシュが在庫に吸込まれ塩漬けになります。

下請法適用企業からの購入は、受領後60日以内に支払わなければならないので、原材料を使う前にキャッシュが先払いになることが多いでしょう。

また、購入後原材料の市況が低下すると、材料を使わないうちに、棚卸評価損が発生します。

これは原価削減にもなりません。

(3)原価低減と顧客価値原価管理の活用

原価削減のために顧客価値を失うことは、前回の顧客価値原価管理(第3章「製品の顧客価値/競争力を高めるための戦略的原価管理」)で解説をしましたので、詳細は省略させて頂きます。顧客価値創造工程の原価低減は慎重に行い、一方、付随工程に集中して原価削減と製造速度を徹底短縮する方針でメリハリつけた検討を頂きたいものです。

(4)原価低減のために品質を向上する。

顧客満足を獲得するためには、品質管理に力をいれなければなりません。

従来品質投資や費用は、利益を損なう犠牲と考えられてきました。

しかし米国の文献などでは、売上高の20%程度が品質予防投資や品質不良処理に掛かっているという通説があります。

売上高の20%といえば、日本では粗利益率相当でしょう。

品質投資は、利益を減らすどころか利益を増やすというのです。例えば歩留率が平均的に高い水準でも、平均を大きく下まわる不良が間欠的に発生すると企業は、かなり高精度な検査機器や不良品排除設備を導入します。これらの設備は高額ですから設備の稼働率は低いでしょうが、減価償却費や保守費が製造間接費として製品原価を押し上げます。わずかな不良でも数件発生すれば、全体に原価高になるわけです。従って発生頻度の低い不具合の原因を明らかにして、そのような不具合が発生しない資材や製造設備を原価企画の段階で選択することで、原価を下げることができるはずです。

次に自社の品質コストを可視化しなければなりません。

品質コストと言っても2種類のコストがあります、

  • 品質コストの中で、品質向上に投資をする原価を「品質適合原価」と言います。
  • 一方、品質不備で事後処理にかかるコストを「品質不適合原価」と言います。

あるべき仮説は、適切な「品質適合原価」を投ずることにより、生産活動に付随する「品質不適合原価」を削減することです。

まず第1ステップとして自社の現状の「品質不適合原価」と「品質適合原価」の発生状況を知る必要があります。

品質コストは当初工場単位のマクロな視点で測定することから始まるでしょうが、徐々に生産高の多い製品単位で対象を拡大していくことが期待されます。ここでは製品単位で原価管理を行うことを想定してください。製品単位で測定できない製造ラインや工場全体の品質原価は、適格な基準で製品別に配賦します。

ところで品質原価=品質管理部門費ではありません。

品質保証や検査部門以外にも購買部門や生産管理部門、製造部門、営業部門も含めて製造業の全部門で品質コストは発生します。

品質コストは材料費や労務費などの生産資源の消費を測る原価費目では測れません。

どのような品質管理活動をしたかの「活動基準」で品質原価を集計する必要があります。

従って通常の原価計算の外側で品質原価を計算します。このような会計に繋がる原価計算とは別次元の費目で原価管理するプロセスは特殊原価計算と言われます。

図表11は品質原価管理で使用する活動費目です。

「品質不適合原価」のうち内部失敗原価は、失敗が社内で完結し顧客に不具合が波及しない範囲の不経済な原価です。
外部失敗原価は、品質不備が顧客へ出荷後に発生してしまう本来はあってはならない原価です。
「品質適合原価」の追加投入が「品質不適合原価」の発生をどの程度削減してくれるかを限界分析で調べます。

図表12は品質適合原価投入高が、どれだけ品質不適合原価を削減するかを可視化する限界分析の図表です。

図表11

図表12

汎用的に活用するには品質適合投資で「品質不適合原価」がどれだけ減少するかを実績収集されたビッグデータに基づき、統計学やAIを使って解析することが有効でしょう。

このような品質適合原価額と品質不適合原価額の増減関係は図表13の様に曲線モデルで表します。
品質適合原価線が品質質不適合原価線と交わる水準が、品質総原価が谷となって一番経済的になる水準です。しかしそこで投資を決めるのは早計です。「品質適合原価」は品質不適合が顧客に許容して頂ける水準まで投入を進めていく必要があります。

図表13

次の情報は、70年代の文献からですが品質投資に注力した企業と、そうでない企業のコスト削減の度合いを比較した情報です。
米国のクロスビー教授の調査では、品質原価に対する認識と実践の深さによっての売上高品質原価率は、下記のような格差があるようです。

■売上高品質原価率の水準

  1. 睡眠期の企業    20%
  2. 覚醒期の企業    18%
  3. 知覚期の企業    12%
  4. 充実期の企業    8%
  5. 定着期の企業    2.5%

(出展「品質原価計算論P168 村田直樹、竹田範義、沼恵一、春日部光則共著」から筆者要約)

これを見ると、売上対比で17.5%ものコスト格差があり、ほぼ粗利率と変わらない格差が隠れていると想定されます。

また、米国で次のような調査結果もあります。

■某企業グループの売上高に占める品質原価の構成例示(売上高を100とした場合の構成比です)

column004-text

この例でも売上高品質原価比率は16.7%になり、また売上総利益の67%相当が品質原価であることが分かります。
品質総原価が低下すれば、売上総利益の増大が期待できます。

品質原価は、活動基準で科目を設定する必要があるので、会計目的の原価計算と数値が重複します。
そこでワンインプットで両方の目的を果たす入力方法として、図表14のようなマトリクスで活動科目と生産資源科目の2科目のパターンを構造化してコード化し会計伝票入力の仕組みを使うことで、活動をコードだけで入力を完結することが出来ます。

図表14

(5)原価低減と標準原価計算の活用

品質原価管理は、品質適合投資の増加が品質不適合原価の削減をもたらす相関関係を活用する統計的な管理手法と考えられます。
これに対して標準原価計算は、予算や標準値以上に原価が高くならない様に原価上昇をモニタリングする手法と言えます。
標準原価計算では、直接材料費、直接労務費、直接経費(外注費等)、間接経費の標準原価と実際原価との差額をロスとして認識します。
差額も数量差異(数量差異×標準単価)、単価差異(単価差異×標準数量)に分解して、それぞれを金額表示することができます。
原価差異を適時に可視化して、原価差異を解消するアクションを取ることで、実際原価が著しく標準原価を超過しないように正常な原価を維持することが出来るのです。

製品別に投入された直接材料や直接労務のロスは、数量差異、価格差異(あるいは賃率差異)として計上され、かつ発生原因別に可視化することが有効です。

図表15は、材料価格差異の発生原因をまとめたものです。
材料価格は一般的に売上高の50%前後を占めるほど金額的重要性が高いので、なぜ価格差異が生じたのかを原因を付加して購買データに取り込み、事業の分析を可能にする必要があります。
材料価格は、内訳を本体価格、関税費用、物流費、数量割戻分、為替変動額と分解して捉える必要があります。
また価格差異が発生した要因を、時系列/季節変動、過剰品質など品質特性、取引先特性、産地特性、市況変動、数量割引率、物流条件、VMI適用、為替レート、特恵関税適用有無、関税率変動等の要因別に明らかにして記録しておくことが分析のために有効です。

図表15

直接労務費のロスは、図表16で例示している通り加工時間差異+賃率差異で計上されますが、時間増加は残業をもたらすので、一般的には加工時間差異と賃率差異が同時に発生します。
直接労務費のロスで、仕事が無かった場合も人件費は減りませんので固定費となり遊休分は機会損失として操業度差異で計上します。
また製造間接費のロスは、光熱費などの変動費分と、設備資産や間接労務費等の固定費分とで取り扱いが異なります。
設備や間接労務費の固定費分の原価差異は、直接労務費の機会損失と同様に売上不振など操業度の低下で起こりますので、操業度差異をもって示します。

図表16のような各原価差異は、おおよそ差異を発生させた管理部門が特定できます。
部門責任を原価計算で可視化することによって、各部門の原価差異防止、是正の動機づけが可能になります。
また標準原価は、製品事業のライフサイクル計画の中で、ラーニングカーブによる中期的なコストダウン目標が設定されているはずです。
従って、期別の標準原価予算が達成された後は、翌期の標準原価は販売数量の増加に伴い、標準原価値は削減されるはずです。(図表17
このようなプロセスを通じて、標準原価は期中は原価差異管理で抑えられ、中期的には生産ラーニングカーブで下降が目標付されます。
標準原価計算は、組織的なコストダウンの仕組みと言ってよいでしょう。

図表16

図表17

(6)原価低減と原価企画の実施

品質原価管理や標準原価計算が間接的な原価低減管理であるのに対して原価企画は原価を直接低下させる活動です。

製品の原価低減は、80%が量産前の原価企画段階で決まり、量産後の改善は20%しか改善余地がないと言われます。

従って、製品開発段階が前機種の原価要素を見直す時期です。

現実の原価計算情報は、決算確定のための会計連携が主目的なので原価企画に役立つようには生成されません。

その理由として通常の原価計算は、製造原価を切削費や加熱費、塗装費などの製造活動軸で捉える仕組みになっていないからです。

通常の原価科目は、材料費や労務費など資源軸の測定体系を取っています。

従って原価企画に必要な科目は、製造活動軸と投入資源軸の二次元による測定です。(第3章の図表9-1

現行製品の原価を二次元のマトリクスで測定することで、どの活動(材料投入活動など)に、どの資源(労務か機械かの生産資源など)をいくらで投入するかの意思決定が可能になり、活動内容と投入資源の選択を変えることで原価企画や原価改善が可能になります。

また原価企画段階の原価要素は、図表19図表20で示されるようなメッシュで捉えられる必要があります。

これからの理想ですが、起点の原価企画情報に対して、量産後の原価実績情報も、このメッシュでフィードバックできれば、PDCAが両サイクル通じて回りますが、これを今後可能にするのがIoTの活用です。

図表18はこれからのIoT活用時代のPDCAサイクルを描いています。このように先行する原価企画と量産後の原価計算は、連携して行う必要があります。図表18はその連携図です。

図表18

図表19は、原価企画場面で製品を構成する製造活動要素を顧客満足度の重みで格付けし、活動要素を実現する投入ユニットや部品(成分)の原価構成について、削減すべきではないものと徹底的に削減を図るべきものに峻別するツールを示しています。

この製品の部品構成は、AからFの5点で構成されているとします。

一方、製造活動は材料の選別、洗浄、撹拌、加熱、冷却、成形、充填があり、顧客に製品の美味しさを提供する顧客価値工程は、材料の撹拌と撹拌後のベースの加熱で作っているとすると、撹拌と加熱活動を構成する資源別原価はB+E=4円とB+F=7円で合計は11円です。

また美味しさを作る素材はB・E・Fの3点だけと考えられます。この11円分の原価を削減したりリードタイムを短くしたりすると食材や製法が変わり美味しくなくなるリスクがあります。これらの素材のコストカットは慎重に検討すべきです。

一方、美味しさに貢献しない選別、洗浄、冷却、成形、充填の活動に使用する部品/エネルギーは、A・C・Dがありますが、この3点は、徹底的なコストカットやリードタイム短縮が必要と考えられます。

図表19

図表20は、売上高の約半額を占めると言われる金額的に重要な材料費が、原価企画時に目標化した単価45円を、実際はどの程度乖離したかを原価計算を通じてモニタリングする範例を示しています。

通常、材料は製品の基本機能を充足するために充当されますが、実際の材料は基本機能を発現する要素以外の要素がついて投入されます。

ケーキを生産する場合に使用するタマゴを例に説明すると、設計したケーキが本来必要とするのは黄身だけです。目標原価は35円ですが実際原価は45円と差額が大きいので、購買では黄身の豊富な品種の開拓や黄身の収率の高い加工法の見直しが開発段階での課題になります。

一方、白身は分離できずにケーキの中核でない食材として付随的に持ち味を構成する食材か、高強度ゲル材料などの他用途で利用する場合が多いでしょう。これを補助機能と定義しています。分離処理や追加加工など他用途への転換などに要する目標原価は7円ですが、実際原価は9円であり、2円の不利差異があります。これは原価企画で削減可能性を検討する必要があります。

さらに黄身を調達するために、まったく不要なカラが付いてきてしまいます。

これを設計ロスとして定義します。設計ロスは製品が必要とする価値はゼロなので使用することはありませんが、白身同様分離除去に原価がかかります。目標原価は3円ですが、実際は6円と大幅な不利差異が出ています。殻も免疫力向上や美容、外注除去などの効果も研究されているので、この原価表の管理で他勘定に振替えることでケーキ製品の原価を削減する効果が期待されるかもしれません。

図表20

原価企画の段階で、コスト削減する着眼点は、小川正樹教授が“開発段階の製品原価”で提起された図表11「顧客要求の分類と原価構成モデル」があります。

この図表で過剰な機能要素については、顧客の満足度を著しく損なわない範囲で投入資源や、活動をカットして原価を削減する価値があるかを検討することは、意義があると考えられます。

図表21

次回は最終章第5章「IoT/AIで急速に進化する原価管理の情報価値向上」について解説します。

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