「都市OS」とスマートシティの関係性
~新たな時代の「街づくり」を考える~

変革と共創する時代の情報化トレンド戦略 [第9回]
2023年12月

執筆者:NPO法人 地域情報化推進機構 副理事長
ITエバンジェリスト/公共システムアドバイザー
野村 靖仁(のむら やすひと)氏

いま我々を取り巻く環境は、人口減少に伴う少子化・高齢化に起因する生産人口の減少、経済規模の衰退と地域の過疎化、ウイルス感染症によるパンデミックや自然災害発生時の対応など、分野や領域を超えた社会的課題が山積しています。

これらの課題解決に向けて、デジタル技術やデータを活用した、新たな時代の「住みよい街」を目指して、様々な施策が展開される中で注目されているのが「都市OS」を中心にした街づくりです。

我々が使用するパソコンは、「OS(Operation System)」という基本ソフトを介してアプリを作動させています。もし「OS」がなければ、アプリが動かないだけでなくインターネットに接続することもできません。

「都市OS」とは、パソコンが「OS」によって駆動されているように、より良い住民生活の実現に向けて、様々な分野のサービスを受けられるように、システムとデータを連携させる仕組みの総称です。

そして、「都市OS」の概念は、データを連携・活用することで、住民に最適化されたサービス提供を実現する「都市の基本ソフトウェア」で、交通や物流、災害時の対応、行政手続きなど、住民サービスを提供するための「ソフトウェア基盤」ともいえます。

様々なセンサーやデバイスから収集されたデータを一元化し、交通、エネルギー、環境等のデータを組み合わせ、リアルタイムで分析することで、交通量の制御や、エネルギー消費の最適化など、都市の効率性向上にも繋がります。

このように「都市OS」の役割は異なるシステムやデータを統合し、地域全体の運営・管理の効率化に向けた、共通基盤システムを構築することですが、この仕組みを活用することで、地域の事業者や自治体が提供するサービスを組み合わせて提供することが可能になります。

「都市OS」の現状

海外に目を向けると、DX・デジタル化による未来都市の実現に向けた取り組みが進められていますが、これらの動きは元来が都市運営の効率化を目的に始まったことから、エネルギーの効率化に向けて、欧州で開発された「FIWARE(ファイウェア)」と呼ばれる「都市OS」が、日本国内の自治体でも注目されています。

「FIWARE」は街中に設置したカメラやセンサー等をネットワーク化する、いわゆる「IoT」のためのデータ共有基盤としてオープンデータの収集・蓄積・仲介に優れているという特徴があり、防災や見守りなど、安心・安全の領域で活用が進んでいます。

また、これとは別に組織間を「PtoP(1対1)」で繋いで、データを自治体や企業等に分散保存する仕組み「xROAD」を日本の実情に合わせて改良した、「JP-LINK」を「都市OS」として採用する動きもあります。

この「JP-LINK」では、データを分散管理するため、秘匿データの取り扱いに優れていることから、個人の「PHR」やヘルスケア情報、電子マネーポイント等を管理・運用する領域で今後活用が進むと期待されています。

デジタル田園都市国家構想では、「QoL」住民生活の質的向上が求められていますが、エネルギー効率化など、都市機能を保全するシステムに加え、自治体と事業者が連携して生活支援サービスを行うなど、新たなサービス提供基盤の構築が求められていると思われます。

そのためには、ヘルスケアや子育て、移動支援など、住民生活に根差した身近な情報から、防災、見守り、安心・安全な生活を送るために必要な情報まで、一連のサービスをシームレスに連携させる必要があります。

データ共有基盤としてオープンデータの収集・蓄積・仲介に優れている「FIWARE」のような「都市OS」と、秘匿データを取り扱うことに優れている「xROAD」のような仕組みが連携して、住民サービスの提供基盤になる、そのような運用形態が期待されているのではないでしょうか。

新たな時代の「街づくり」への課題

既存の考え方では、地域ごとにシステムを開発し単独での利用を想定した、言わば閉じられたシステム構成を採っていたため、地域間のデータ連携や他地域との行同運用が困難で、優れた事例やサービスを他の地域で展開することには無理がありました。

このように、従来のシステムではそれぞれの地域などに特化して開発され、他の地域やサービスなどへの横展開が難しい状況にありました。しかし、「都市OS」の共通化によって、外部に公開可能なシステムやサービスを構築することで、都市間のサービス連携や、他の都市との相互運用が可能になると思われます。

これまでのシステム運用の考え方では、産業や地域など分野・組織ごとにシステムやデータが管理されているため、横断的なサービスの提供が困難な状況でしたが、「都市OS」の共通化によって、蓄積されたデータを連携させることができるかもしれません。

様々な個別サービスを連携させることで、ワンストップで複数のサービスを利用できるようになり、利用者の属性や嗜好に最適化した情報提示などにより、利便性や利用率を高めることができるのではないでしょうか。

例えば、転居する際には、自治体への転出・転入の届け出に加えて、電気、ガス、水道、電話、新聞などを事業者ごとに手続きをする必要があります。しかし、これが役所の市民課窓口一か所で完結すると、どれだけ利便性が向上するでしょうか。

そして、他の自治体・事業者等との連携を図ることで、さらに住民ニーズに寄り添ったサービスを提供することが可能になり、広域から収集したデータを分析することで、より質の高いサービス提供が実現すると思われます。

スマートシティの構築へ向けて

我が国では、総務省の情報通信白書2012年度版に「スマートシティ」という用語が登場した後、スマートシティ構想、スーパーシティ構想、デジタル田園都市国家構想と進化を続けながら施策が進められてきました。

諸外国の都市においても、スマートシティ構築への取り組み事例が多く見られることから、世界中の多くの都市・地域が、それぞれが理想とする「未来都市」の実現に向かって、試行錯誤を繰り返しているのが現状です。

地政学的な要因や社会的課題、考え方・価値観が国によって異なっていることを踏まえると、少なくとも当面は地域ごとに異なる課題をそれぞれの地域が知恵を絞って解決していく試みが続くと思われます。

社会的課題が複雑化する中で、それらの課題を分野別で解決するのではなく、分野や組織間の垣根を越えて横断的に連携することで、より有用なサービスモデルを創出し、課題解決に繋げることができるのではないでしょうか。

例えば、行政が保有するハザードマップデータと、民間事業者が持つ交通機関の運行データ、地下に埋設されたガス・電気等の配管情報等を組み合わせることで、防災対策の高度化を図ることが可能になるなど、分野間や官民の垣根を越えて連携することで、より有益なサービスを提供できるようになります。

今後、課題解決を図るためには、自治体単独では人的リソースや、予算措置等に加えて、先端技術に関する知識・ノウハウにも限界があります。そのように考えると、自治体と民間事業者が連携し、お互いの強みを活かし補完し合っていくことがスマートシティの実現には必要不可欠と思われます。

スマートシティ構築と地域間連携

スマートシティの構築に向けては、提供者側の論理ではなく、利用者側の目線で現状分析した上で、システムを導入する際のメリット・デメリットを明確に定義し、サービスモデルを検討する必要があります。

現状の「都市OS」では、各都市が個別に運用しているため、システムを連携させた協同運用モデルを描くことは難しい状況ですが、今後は、オープンデータをクラウド上に保存し、そのデータをもとに住民サービスを展開しながら運用ノウハウを蓄積した上で、サービスモデルを近隣の都市と連携させるなどの展開が考えられます。

新たな時代のスマートシティでは、自動運転による渋滞の解消や防災・減災などを、DX・デジタル化によって進展させますが、仕様・規格が統一されなければ、サービス連携ができず、発展性に欠けるものになります。

「都市OS」は、人々がより快適に暮らすためのスマートシティを実現する都市の基盤ともいわれていますが、まずは、最低限の機能を備えた連携基盤を近隣都市と共同で構築・運用しながら、長期的な視点で機能を段階的に拡張していくようなシステムの協同運用を視野に入れて考えるべきではないでしょうか。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)や少子高齢化への対策、およびニューノーマルにおける都市・地域経営やSDGsの達成に向け、多様な地域課題の解決や市民サービスの提供が求められるなど地域課題が複雑化しています。

そして、社会インフラの老朽化によって、国民1人あたりの維持管理・運営費が増大することへの対応など、人口減少下でも経済規模を維持・発展させるための方策が求められています。

今後は、分野・領域を超えて、地域・組織が連携した、社会課題の解決に向けた取り組みが、スマートシティ構築に繋がっていくのかもしれません。

変革と共創する時代の情報化トレンド戦略

執筆者:NPO法人 地域情報化推進機構 副理事長
ITエバンジェリスト/公共システムアドバイザー
野村 靖仁(のむら やすひと)氏

上へ戻る