生成AIによるイノベーションの課題
~「データ活用基盤」の構築を考える~

変革と共創する時代の情報化トレンド戦略 [第12回]
2024年3月

執筆者:NPO法人 地域情報化推進機構 副理事長
ITエバンジェリスト/公共システムアドバイザー
野村 靖仁(のむら やすひと)氏

2024年は生成AIにとって重要な年になるといわれていますが、米国ラスベガスで1月8日(現地時間)に開催された世界規模のテクノロジー見本市「CES2024」では、参加企業の多くが「生成AI」の活用策を競うように展示し、AI大競争時代への突入を予感させるものになりました。

中でも注目を集めたのは、ソニーグループと本田技研工業(以下、ホンダ)の合弁企業、ソニー・ホンダモビリティのEV車両「AFEELA(アフィーラ)」で、マイクロソフトのAIクラウド「Azure OpenAI Service」を使用し、車内での「対話型パーソナルエージェント」を構築する予定です。

フォルクスワーゲンは、「ChatGPT」のパートナー企業セレンス社の「Cerence Chat Pro」をベースにした、フォルクスワーゲンの「IDA音声アシスタント」を市販モデルに搭載することを発表し、2024年後半から、ゴルフ、ティグアン、50周年記念のゴルフ GTI等に実装され、従来の音声制御を超えた新たな機能を提供できるとしています。

そして、BMWとAmazonは、Amazonの「Alexa(アレクサ)」を「LLM」大規模言語モデルで強化した、「BMWインテリジェント・パーソナル・アシスタント」のデモを行うなど、モビリティ分野においても「生成AI」の活用に、我々の日常生活も大きく変化していくかもしれません。

生成AIによるイノベーション

2022年11月の「ChatGPT」登場以降、生成AIは、様々な分野で活用されていますが、例えば、文章を要約して回答するAI、プログラムのソースコードを作成するAI、テキストから楽曲を作曲するAIなど、生成AIの急速な進展が注目を集めています。

テキストを入力するだけで画像を生成する、プロンプト型の「画像生成AI」が登場し、自分が描きたい絵を「AI」が代わって描くことができるようになり、その生成された画像を活用した動画生成も可能になるなど、今後も新たな展開が期待されています。

また、他の分野においても、例えば医療界では、生成AIによる疾病の診断や治療法の開発に役立てることや、製造業の分野では、生成AIによって製品の品質管理や生産効率の向上を図ることも可能になるといわれています。

生成AIによるデータの利活用には様々な課題が指摘されています。例えば、AIが生成したデータが偏ったものになることや、生成されたデータが、著作権侵害等の法に抵触する可能性もあり、これらの課題に対しては、一定の規制を設けるなど適切な対応が必要になります。

このように、生成AIの運用に関しては、様々な課題がありますが、業務効率化の観点では多くの可能性を秘めていることも事実で、機密データの取り扱いに適切な規制を設けることや、AIの学習データの品質向上を図ること、人員によるチェック体制を確立することなど、運用に向けた仕組みづくりが重要になります。

そして、リスクに対する懸念から、生成AI導入を躊躇するのではなく、安全性をしっかり確保しながら、新たなサービス提供基盤の構築に向けて、組織横断的な取り組みを行うなど、運用する側の意識を変革する必要があるのではないでしょうか。

総合コンサルティング企業「Accenture(アクセンチュア)」によると、2025年には世界中で年間180ZB(ゼタバイト、1ZB=10億TB=1兆GB)のデータが生み出され、そのデータの30%が、AI等によって生成されたものになると予測されています。

このような状況から考えられるのは、自治体・事業者等の組織内で保有する、生成データが増大することで、データセキュリティやコンプライアンスの確保、多様なデータの統合と管理、品質を確保することが重要課題となる現実です。

生成AIによるデータの利活用に向けて

我々が目指すものは、業務の効率化や住民サービスの向上だけではありません。生成AIは既存の業務を大きく変えていく可能性を秘めており、これまで人手や時間が足りず実現できなかった新たな事業の展開や、アイデアの創造力を引き出すことで、新たな施策の策定も可能になります。

将来の予測が極めて困難な状況の中で、事業の継続性を確保していくには、現状の社会的課題に対応するための、様々なデータを活用した多角的な分析が不可欠となると思われます。

事実、多くの自治体や企業ではAIに関連した最新技術も取り入れながら、データ活用の拡大・強化に向けて様々なアプローチが進められています。そして、それらの取り組みは一定の成果を上げつつあります。

今では、データ活用は全ての組織における経営課題でもあり、AIに関する最新技術も積極的に導入しながら、データ分析の更なる高度化に向けた、異なるシステム間のスムーズなデータ連携が必要になります。

また、生成AIの利活用によって、データ運用の効率化とより一層のデータ活用の高度化が可能になり、従来の手法では見過ごされがちなデータや新しいデータソースを発見し活用することにも期待されています。

データ活用基盤の構築に向かって

複数のシステムからデータを抽出・収集するだけでなく、異なる形式のデータを変換・加工といった煩雑な事前作業を抑制し、すぐに現場の担当者がデータ活用を行えるようにするには、データ運用の効率化と更なるデータ活用の高度化が必要です。

そして、現場の職員が自ら必要な時に必要なデータを収集し、データの利活用を可能にする、「データ活用基盤」の構築を実現することが求められているのではないでしょうか。

データ利活用を加速させるための「データ活用基盤」の構築・運用に向けて、障害となると考えられるのが、個別最適によって業務別にシステムが構築されてきた結果、集積された「データのサイロ化」です。

データの利活用は、複数のシステムから生成されるデータを組み合わせ、新たなインサイトを産むことにこそ価値がありますが、IT基盤のクラウド化が進展する中で、それぞれのシステムから生成されるデータをシームレスに連携させ、データ分析が可能になる仕組みの実現が求められていると思われます。

いま、様々な組織において、クラウドシステムの活用が急速に拡大する中で、複数のクラウド上に構築されたシステム環境をどのように連携させていくのか、様々な基盤・サービスに分散するデータを組み合わせ、データ分析を行えるような仕組みの実現が求められています。

クラウドシステムの活用拡大とデータ連携の課題

生成AIの出力の質を高めるという観点から見ると、生成AIにデータを入れれば入れるほど、出力される情報が詳細になり、さらには文脈と関係ない内容や疑わしい表現など「ハルシネーション」の発生を減少させることにつながります。

生成AIは、大量のデータセットを迅速に解析し、隠れたパターンや関連を見つけ出すことができます。これにより、データから得られる洞察が深まり、ビジネスの意思決定をより迅速かつ的確に行うことが可能になります。

データ活用のサイクルに着目すると、分析のための事前準備として、複数のシステムからのデータの抽出・集約にはじまり、異なる形式をもったデータを連携させるためのインターフェースの作り込みや、欠損値や表記ゆれなどを修正するための変換・加工などの処理作業が発生すると思われます。

生成AIによってデータ処理の複雑な分析タスクを自動化することで、より戦略的な業務に注力することが可能になり、従来のデータ分析手法では見落としがちなパターンや関連性を見つけ出すことや、新たな住民サービスモデルの創生が期待されています。

新たな住民サービスの提供に向かって

生成AIの活用によって職員は単純な作業の繰り返しから解放され、よりクリエーティブな業務に注力することが可能になりますが、肝要なのは、AIが結果を導き出すためのデータを、いかに収集・管理するかというデータ戦略の重要性です。

このさき、クラウド上に存在するシステム間でのシームレスなデータ連携、さらには生成AIを活用したより高度なデータ分析などを考えると、自治体・事業者等が保有する既存データの利活用は、大きな分岐点に立っているのではないでしょうか。

組織内に存在する構造化データ、非構造化データを含め、必要となる全てのデータを俯瞰的に認識し利活用できるようになれば、生成AIの威力を最大限引き出すことにつながると思われます。

生成AIの広がり等をタイムリーに捉え、ベースレジストリの整備や、防災分野などにおけるデータ連携基盤の構築など、生成AIでの活用を見据え、行政保有データについて、AI学習を容易な形に変換する実証を行うとともに、利活用ニーズがあるデータのオープンデータ化を進める仕組みの構築が必要ではないでしょうか。

米OpenAIは、ChatGPTの「GPTs」でオリジナルアプリの作成も可能な外部API連携も提供するなど、今後AIの利活用については、画像・動画の生成からセンシングデータを含むマルチモーダルなデータまで、活用分野は益々広がりを見せています。

いまこそ、より良い住民サービスを継続して提供する、「保守」のための「革新」が求められていると思われます。

変革と共創する時代の情報化トレンド戦略

執筆者:NPO法人 地域情報化推進機構 副理事長
ITエバンジェリスト/公共システムアドバイザー
野村 靖仁(のむら やすひと)氏

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