ビジネス支援図書館推進協議会
図書館つれづれ [第71回]
2020年4月

執筆者:ライブラリーコーディネーター
    高野 一枝(たかの かずえ)氏

はじめに

ビジネス支援図書館推進協議会(以下、「推進協議会」 注1)ってご存知ですか?推進協議会は、全国の公共図書館(以下、「図書館」)でビジネスを支援するサービスが始まることを目的として活動している非営利組織団体です。2019年の図書館総合展では、今までの功績が認められて、「Library of the Year ライブラリアンシップ賞」を受賞しました。今回は、そんな推進協議会の生い立ちや活動についてお伝えします。

「推進協議会」立ち上げの経緯

終戦後の高度経済成長時代の日本経済は、物の豊かさを価値観の指標にして、安定した親会社の下請け型が中小企業の成功モデルでした。接待ゴルフや宴会は、親会社の情報を得るためのコミュニケーションツールだったのです。ところが、1980年代後半から、自ら考え差別化を図るという下請けからの脱却が始まりました。必要な情報は市場動向などから広く収集し、競争力を磨く中小企業が出てきます。この「地域経済を活性化させる力」に、新たな図書館の役割を見出す人たちがいました。時代は、「物の豊かさ」から「こころの豊かさ」へと価値観も変わっていました。

1999年、ジャーナリストの菅谷明子氏が「進化するニューヨーク公共図書館」を出版しました。海の向こうのアメリカでは、図書館の役割は本の貸出にとどまらず、就労支援やビジネス支援に着手していることを知り、衝撃が走りました。翌年の図書館総合展で菅谷氏の講演を聴き、竹内利明氏(現推進協議会会長)が動きました。経済産業省訪問の後、仲間数名と経済産業研究所に出向き意見交換をしながら、2000年12月に推進協議会を立ち上げました。目的は、図書館関係者と創業やビジネスに関心のある人が集まり、地域経済政策と連携して創業支援・中小企業を支援する公共図書館でのビジネス支援サービスを拡大させることでした。設立当時、「わざわざビジネスなんて言わなくても今までだったやってきた!」、「図書館が積極的に首を突っ込んで会社に損失を与えたらどうするんだ!」などの意見があったのを覚えています。

そんな声を尻目に活動を続け、今では、個人会員232名、施設会員12館、賛助会員13機関(2019年6月現在)にまでなりました。会員には、メーリングリストで最新情報の提供や各種相談に応じています。

推進協議会の主な活動

大きな活動は、ビジネス・ライブラリアン(以下、「BL」)講習会と情報ナビゲーター交流会です。

ビジネス支援スキルを磨くためのBL講習会は、2004年に静岡市で第1回講習会が始まりました。2020年2月に行われた愛知県安城市での第19回講習会で、受講者は合計550名を超えました。先鋭の講師陣はほとんどボランティアで、朝から晩までみっちり3日間で受講料は3万円。受講者の約65%は公費派遣ですが、講師目当てに私費で参加する受講者も多いのです。研修は、机上で聴講するだけでなく、自館にビジネス支援サービスを導入する予算を獲得するための企画案をまとめるワークショップなどの実践が主体になります。宿題や論文も課題に出ます。BL講習会の受講者が、翌年以降ボランティアスタッフを希望するケースも多いようです。この講習会で出会った方々のネットワークは、地元の図書館サービスにも貢献しています。

情報ナビゲーター交流会は、全国の公共図書館や専門図書館などの情報サービスを扱う機関の職員が集い、より広域な人と資料のネットワークを構築する目的で、2011年に第1回交流会が開催されました。第4回交流会は本コラム第15回(注2)で紹介しましたが、毎年多彩なゲストで出迎えてくれます。終わったあとの軽い飲食を含めた情報交換会も、人と人との出会いが楽しめる空間です。

その他にも、市販のビジネスに関係したデータベース活用法の講習会、起業家講座の開講、ビジネス専門家による相談コーナー開設、起業やデータベース活用に関する講演会の開催など、多くの支援もしています。ビジネス支援に取り組む公共図書館は、手続きすれば、中小企業庁広報冊子(注3)や特許庁中小企業支援施策パンフレットが無料配布されています。

こうして、「ビジネス支援サービス」に限らず、本コラム第17回で紹介した紫波町図書館(注4)をはじめ、地域のさまざまなサービスと向き合う「課題解決型サービス」へと浸透していきました。

米国図書館協会で日本の図書館状況を報告

推進協議会副理事長の豊田恭子氏は、札幌に住む民間企業に勤める推進協議会会員です。語学堪能な彼女は、米国図書館協会(以下、「ALA」)で「ジャパンセッション」を開催する大きな立役者になりました。

ALAの会員は約6万人。世界最古にして、最大の図書館協会です。毎年5日間にわたって開かれる年次大会では、500以上のセッション、800以上の展示、200以上の関連イベントで賑わうそうです。推進協議会はそんなALAに日本の状況を伝えたいと、2016年にポスターセッションで参加しました。その後も視察見学をくりかえし、足掛け3年かけてジャパンセッションの実現にこぎつけました。ALAと長年関係のあった図書館総合展委員会の共催や丸善雄松堂の企画・運営協力があってのことでした。渡航資金は、推進協議会が捻出した100万円では足りず、クラウドファンディングで募集したところ、1か月間で244名・団体から160万円を超す寄付が集まりました。海外で日本の状況をアピールすることに、多くの人が賛同してくれたのです。

そして2019年6月、発表は、田村俊作元慶應大学教授の「イノベーションは日本の図書館をいかに変えたか」というタイトルで、ビブリオバトルやウィキペディアタウンなど、日本の取り組みの紹介から始まりました。そのあと、以下の3名が発表しました。

  • 紫波町図書館(岩手県) 手塚美希氏
    「司書が人々をつなぎ地域のハブ(要)となる図書館を目指して」
  • 鳥取県立図書館 松田啓代氏
    「図書館を活用した認知症になっても暮らしやすい地域づくりサービス事例」
  • 広島市立中央図書館 土井しのぶ氏
    「夢の実現を支える図書館サービス」

120人の部屋に170名も参加し、立ち見や座り込む姿もあって、大盛況だったそうです。話すのはもちろん英語。皆さんが全て英語に堪能なわけではなかったそうですが、発表があまりに流暢だったので、終わったあとの質問攻めには豊田氏が引っ張りだこだったとか。

また、「公共図書館をターゲットとする専門図書館サービス」と題したポスター(BICライブラリの結城智里氏)の発表もありました。

ALAの報告書は、冊子「米国図書館協会(ALA)2019年次大会『ジャパンセッション』」として、2019年11月の図書館総合展で販売されました。

図書館に与えた影響と今後の期待

推進協議会が設立されて、早や20年が経ちました。今では、都道府県立図書館の70%が、「ビジネス支援」という名称でサービスをしています。名称を使っていなくても実質サービスをしている図書館は95%以上になります。市町村立図書館でも名称を使って13%、名称を使わなくても実質支援している図書館を含めると40%を超えました。確かに、図書館見学に伺っても、「課題解決」や「ビジネス支援」コーナーのある図書館が増えています。

嬉しいことはそれだけではありません。かつて紫波町の司書は全員非常勤職員だったのですが、今では4名の正規採用職員がいます。地道な活動を正当に評価してもらえる努力を続ければ、成果を認めてもらえる結果へつながると感じました。

2020年1月に経済産業研究所で開催された公開セミナー<地方創生に役立つ「ビジネス支援図書館」の新たな展開>は、経済産業省の方々や金融関係者などがランチを食べながらの勉強会で、私も初めて経済産業省に足を踏み入れました。講師は都立図書館の余野桃子氏と推進協議会会長の竹内氏。余野氏は、ビジネス情報サービスへの司書としての思いや具体的な活用事例と成果について語りました。竹内氏は推進協議会の活動を説明しました。その中で、「図書館を利用して欲しいこと、司書は直ぐには答えられないかもしれないが、利用者が質問してくれることでレファレンス技術はスパイラルアップしていく」と、何度も強調されたのが印象的でした。

認定司書もBLも、国家資格でもなければ、待遇に直接考慮してもらえる資格でもありません。それでも、自分の技術を磨き、利用者の要望に応えようと努力する司書がいます。もっと図書館を利用してもらい、司書も成長を続け、正当に評価してもらえる社会になるといいですね。

東京タワーの前にある機械振興会館で開催される情報ナビゲーター交流会は、参加費無料(懇親会は有料)で、どなたでも参加できます。
今後の開催日時については決まり次第、随時ビジネス支援図書館推進協議会のホームページに掲載される予定です。

図書館つれづれ

執筆者:ライブラリーコーディネーター
高野 一枝(たかの かずえ)氏

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