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第1回 キャッシュフロー入門編

コラム「経営では利益とお金とどちらが大切か?」

1.ウイズコロナ時代を迎えて、企業にとって利益とキャッシュ(お金)はどちらが大切か?

2019年末から、コロナ禍に入って制度金融の窓口に助成金や制度融資の申し込みが殺到し始めた。自粛勧告の中で受注や売上の減少を心配し始めた経営者も、数字でしかない利益よりも、支払に必要なキャッシュの方がビジネスの現実では、ずっと大事なことに肌感覚で気が付き始めた。

利益の見込も勿論であるが、当社のキャッシュフロー(資金繰り)は大丈夫か?により切実な関心が移りつつある。

「利益とキャッシュとどちらが大切なのか?」という禅問答は昔からある議論である。キャッシュは個人でも使う体験があるが、利益は損益計算書に印刷されるだけで実体感はない。利益は確かに大事な企業の富であるが、利益で社員のボーナスが払えるわけでもなく、利益が出ると、課税される原因になり、その税金も利益で払えるわけではないことに気が付く。仕入代金も、設備もサービスも利益で買えるわけではない。

また利益とキャッシュは、そろって同額になることはないので管理上も利益の効用はない。あれこれ挙げてもきりがないが、おおよそ現実の経営では、利益よりキャッシュの方が有難くて大切なのだという真実に気づかされる。しかし企業人も、利益は大事だということを否定する人はいない。

利益でモノやサービスを買うことは出来ないが、利益は経営体力や筋力のバロメータであり、顧客や取引先への信用尺度として利益があることが不可欠である。結論を言うと利益とキャッシュは企業の富を測る2つの異なる尺度といえよう。

2.ウイズコロナ時代の経営では 利益とキャッシュの同時並行管理が増々必要に!

利益とキャッシュは大事な富の尺度であるが、それぞれが同期して数字が動くわけではない。平常時でも、ビジネスでは売上、入金、仕入、支払のタイミングは別々に動くもので、利益とキャッシュは別々に数字の管理が必要である。

受注したはずでも、お金が入るのはずっと後だったりするのは当たり前の話である。したがって利益とキャッシュの凸凹を緻密にとらえて、日々のキャッシュフロー(資金繰り)の安全安心を保つのは、相当にキャッシュの余裕がなければならない。しかし余裕があるのは良いこととも言えない。キャッシュの余裕とは結局無駄な利息や手数料を払っていることに気付かされる。ここから反省させられる結論は、経営や会計の中核は(1)利益と(2)キャッシュの増減と残高を1円もおろそかにしないことである。以上は経営では当たり前すぎる話であるが、実は意外に会計や経営管理システムでは、これを管理する仕組みが経営者の身の回りには揃っていないことに気付く。本コラムの論点は、これをどうするかにある。

3.利益とキャッシュについて、これからの経営の使命とは

【1】本稿では「(1)キャッシュを失わない範囲で (2)利益を最大限追求することである。」と結論付けている。

しかし往々にして利益を追求するあまり、(1)キャッシュを失う落とし穴に嵌っている例もある。
そこで、どうしたら落とし穴を避けられるかというと、今までとは少し考え方を変える経理を推奨する。

【2】考え方を変えるとは損益計算書(P/L)と同時に、貸借対照表(B/S)も大事にする経理である。

B/Sを大事にする経営とは、次のキャッシュの5大変動要因を意識した経理をすることである。
(1)利益が増えればお金も増えるが、(2)税金分はお金が減ることを忘れるな (3)資産が増えれば必ずお金は減っている (4)借入が増えればその分お金は増えている (5)純資産(資本)が増えればお金は増える
これがB/Sから読み取るキャッシュフローの5大原則(格言)である。(3)と(4)は常識的に考えにくい人が多いが、ここがキャッシュがない時に役に立つ秘訣である。

【3】一方業務革新の視点で、キャッシュの増加を図るには

利益向上には、「売上増加と費用削減」が合言葉であるが、掛け声ほど成功しないケースが多い。それより業務プロセスのスピードアップがキャッシュ増加には効き目があるのだ。キャッシュフローを改善する経営革新は、販売や製造や物流など各部門の仕事のスピードアップ(リードタイム短縮)とプロセスの同期化が成功要因である。1か所だけ速くてもボトルネックが起こり生産物の滞留でキャッシュが減ることになる。これは制約理論と言われるサプライチェーンマネジメントの格言である。

4.殆どの会計ソフトは、利益計算を主体に作られているが、一方キャッシュに関しては無頓着なところがある。

会計ソフトは損益の赤字は詳しく警告してくれるけれども、月末のボーナスが払えるかどうかの資金繰りまでは教えてくれない。資金繰りは会計ソフトに頼らないで担当者の先を読んだ気配りに頼らざるを得ない。

預金残高のマイナスについては当座貸越契約があればキャッシュの不足を立替えてくれるサービスもあり、即倒産の不手際になることは滅多にないだろう。しかし一瞬でもキャッシュが赤になっていたら破綻したも同然である。

しかしPLしか見ていない経営者は利益はまあまあの黒字だったら、実は資金破綻していたのだとは夢にも思わないだろう。利益さえ出ていれば経営は安泰だと思いこんでいる方々も多いようで「知らぬが仏」の怖さである。

この様な現象を格言では“勘定合って(利益は出ているが)銭足らず(キャッシュの残高は赤字)”と言っている。本コラムの最初のアドバイスは、経営者の方々も朝出社されたら一番で試算表の利益(PL)と合わせて預金残高(BS)だけでも必ず見ておいてくださいよ!というご提言である。

5.キャッシュフロー経営とは

キャッシュフローとは、簡単に言うと現預金の増加及び減少のことを言う。キャッシュフロー経営とはキャッシュを損なわずに、利益を最大限増やす経営ということを申し上げた。

従来は、利益を増やすことだけが目的になって、日常はキャッシュの保持を忘れがちになる。利益を出すことばかりに神経を集中して、明日の支払いに必要なキャッシュの準備を忘れてしまって、破綻する企業が少なくない。これを、「勘定あって銭足らず」とはこのことである。

「勘定合って銭足らず」が起きる経営風土を例示してみよう。

  1. 利益を増やすことは誰もが考えている。
  2. 借入の返済でキャッシュが減ることも誰もが知っている。
  3. 利益を増やそうとするあまり、先行した投資・回収の遅れでキャッシュが減ることを忘れることが意外に多い。

黒字倒産とは?「勘定あって銭足らず」を忘れることによる悲惨な経営を意味している。コンピュータがこんなに普及した今日でも、時折新聞にこのような倒産記事が掲載されており、ウィズコロナのこれからも増加が懸念される。

現状のキャッシュの推移では、この先危険と思われる場合、次のような手段を講じて早めの対処をして頂きたい。

  1. 販売や生産に貢献しない無駄な在庫や設備を除売却することはできないか?(資産流動化)
  2. この先、設備を動かしながらも担保に活用してリース契約で設備を使うことがきないか?(リースバック)
  3. この先売掛金や受取手形をファクタリングで早期現金化できないか?
  4. 制度融資を申し込み、キャッシュの余裕を確保できないか?

これらの方法を総合的に、時間的な余裕があるうちに会計ソフトで試算して現金化対策を講ずることが賢明である。

筆者プロフィール

青柳 六郎太(あおやぎ ろくろうた)氏

一般社団法人 国際会計コンソーシアム副理事長
税理士・中小企業診断士

■経歴
1970年早稲田大学第一政治経済学部卒業後、日本電気株式会社入社、情報処理事業部門で大手流通業・製造業・サービス業のソリューション、および経理・原価計算等の経営管理ソリューション企画開発、コンサルティング業務に従事した。
2002年に日本電気在職中、専修大学大学院で原価計算論の客員教授兼務、2004年に退職後、ERP研究推進フォーラムの業務研修講師として活動し、2012年から一般社団法人 国際会計コンソーシアム理事、エイキューブ総合会計事務所パートナー、ワクコンサルティング株式会社のディレクターコンサルタントを勤める。有限会社ファイルース代表、IT経営パートナーズ協会監事、税理士、中小企業診断士、システム監査技術者

■専門分野
儲けるための管理会計・原価情報の活用、決算日程短縮の実践コンサルティング、業務プロセス全域のKPI設計、システム要求・要件定義、設備投資のための補助金申請支援認定支援機関、税理士業務

■筆書
中堅企業のキャッシュフロー経営(日本工業新聞社)、ERP活用による経営改革の秘訣(リックテレコム共著)、キャッシュフロー生産管理(同友館、上岡恵子博士と共著)キャッシュフローによるIT投資効果評価に関する論文:平成28年度 経済産業大臣賞受賞

青柳 六郎太(あおやぎ ろくろうた)氏

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